エピローグ ②

「本当に綺麗だ……」


 イギリスのコーンウォール地方。そこはかのアーサー王伝説で有名な土地で、中でも最西端に位置するこの岬はランズ・エンド、「地の果て」と呼ばれている。

 「LANDS END」と書かれた真っ白なサインポストの背景に広がる青い海と、青い空。この向こうには一体何があるのだろう。もちろん、方角的にはアメリカ大陸があるということは分かっている。

 でも、そう思わずにはいられない。世界は、人が一人で見て周るにはあまりにも広く大きい。


 子供の頃からの夢だった。いつか世界を見て周りたい。誰に言われたのか、何に影響されたのか自分でも分からないその漠然とした思いは今年二十歳になるこの歳でも少しも色褪せることはなく、学生特有の暇を利用して好奇心のままにこうして世界を飛びまわっている。


 ———まぁ、父さんと母さんも昔から旅行好きではあったけど。


 心のままに世界を飛び回るこの日々は、楽しい。満ち足りている。

 知らない場所に行き、その土地の人々と出会い、新しい何かを得ていく中で、思ったことがある。

 世界が在るのは、そして自分がこの世界にいるのは、“奇跡”だということ。この広い世界で誰かと誰かが出会うこと。出会いが人を変え、世界を変えていく。そして新しい命がこの世界に生まれる。すべては“奇跡”なんだ。


「ん?」


 ふと、歩いていた道の先に蹲っている人の影が見えた。体調が優れないというわけでもなさそうだが、財布でも落としたか。

 無視して通り過ぎることもできたのだが、その時脳裏にどこかで誰かに言われた言葉が蘇った。唐突に。


 ———少なくともナギの良いところは優しいところ。一つ、確実にそれだよ。

 ———大事にしてね。


 どこで誰に言われた台詞かは思い出せないが、なんとなく、無下にしてはいけない気持ちになってしまった。


「あー、Can I help you?何か手伝いましょうか?


 この“奇跡”も、どうか幸せなものでありますように。



--了--

 

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燦然世界 棗颯介 @rainaon

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