エピローグ ①
「
今日は妻と息子と三人で旅行に来ていたのだが、時折自分たちの目を潜り抜けて一人でフラフラとどこかに行ってしまう息子の放浪癖には毎度手を焼かされる。
今年で五歳になる息子の凪。つまり自分が父親になってからもうすぐ五年ということだ。果たして自分が凪にとって良い父親でいられているのかは自信が持てないが、妻と一緒にできる限りの愛情を注いで育ててきた。育児と仕事の両立というのも想像を絶する苦労があるが、それでも曲りなりに親としてやってこれているのは妻がいてくれたからだろう。
「あ、パパ、凪いた?」
「見てない。この辺、海が近いから危ないところに行ってないといいんだけどな……」
「いた!恭介、あそこ!」
「ん?」
妻の彩音が指さす先、海を見渡せる岬にある展望台。一角のベンチにちょこんと座り、どこでもないどこかを見つめている息子の姿がそこにあった。
「凪~!」
名前を呼ぶと、凪は少しだけ笑ってこちらに手を振ってくる。どうやらケガなどはしていないらしかった。
「やれやれ、本当に自由な子だなぁ」
「誰に似たんだろうね」
「そりゃあママだろ」
「え?あなただと思ってたけど」
思わず妻と顔を見合わせて、そして二人して笑った。
あの日から変わらず、俺たちは俺たちのために好きに生きている。自由に。
家族三人で当たり前に過ごせる“奇跡”を守りたい。それは紛れもなく、自分自身の願いなんだ。
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