燦然世界 第7日

「………」


 目が覚めた。確か自分は夜通し車を走らせて、ミコトが“世界の果て”と呼んでいた岬の目前まで到着していたはず。そのまま車を降りて一気に目的地まで行こうとしたところ、ミコトが言ったのだ。


「見せたいものがあるから、朝まで待ってほしいな」


 そこまで車を走らせてきた疲労も手伝ってか、道の脇に停めた車の中でそのまま車中泊をとったのだ。眠りに落ちたのは夜明け前のはずだから、仮眠程度の睡眠しかとれていないはずだが。少し腕を動かしてみたが、関節が少し痛む。やはり眠るのならベッドや布団で横にならなければダメだと、世界が終わるこの期に及んで痛感した。


「———恭介」


 夢で見たあの光景が実際に“外の世界”で起きた出来事なのだとしたら、恭介は、少なくとも父親とやらになろうとしているようには見えなかった。自分と同じだ。他人と関わらず、自分のために生きたいと願っている人種。少なくともミコトよりはよほど共感できると思った。手のひらを返すようだが。

 

「———ナギ、目が覚めた?」

「悪い、起こしちゃったか?」


 助手席で同じく睡眠をとっていたはずのミコトも目を覚ましたらしい。


「ううん。私はずっと起きてたよ、奇跡的に」

「やっぱり、もうすぐ帰れるとなると興奮して眠れなかったか」

「ううん、ナギの寝顔、見ていたかったからかな」

「気持ち悪いこと言うなよ。それで、見せたいものっていうのは何なんだ?もうじきに朝だと思うけど」

「なんだと思う?」

「また質問に質問で返したな」

「わざとだよ」

「やれやれ。たとえば、水平線から朝日が昇る風景とか」

「それもいいね。でも惜しい。半分正解だけど半分不正解」

「じゃあ正解は?」


 そう尋ねると、ミコトは助手席側のドアを開けて車を降りた。


「行けば分かるよ」


***


 昨夜車を走らせていたときはあまり意識していなかったが、“世界の終り”を運ぶあの白い光はもうこの場所をも浸食し始めているようだった。山道を通ってきたはずだが、今この場から来た道を振り返ると山々は既に例の光に包み込まれている。あと一時間も持たずに真っ白な“無”に還ってしまうことだろう。

 車を降りて空を見上げた。淡い青。ところどころ靄がかかったような白がある。東の方角に視線を傾けるにつれて色は赤ともオレンジともつかない色にグラデーションされていく。夜明けだ。

 美しい。世界が終わりを迎えているというのに、こんなにも美しいのかと思った。こういう景色を、もっと見てみたいと昔思っていた気がする。昨日ミコトも言っていた。自分の目でいろんなものを見て旅するのが夢だと。良い夢だ。彼女をこの場に運ぶことで、その夢を叶える手伝いが少しでもできたのなら、自分の人生にも意味はあったのかもしれない。


「ちょっと寒いね」

「海沿いだからな。ほら」


 車のトランクに仕舞ってあったカーディガンを手渡した。

 

「ありがとう」


 袖を通したミコトは嬉しそうに顔を綻ばせた。まるで女神が慈悲の眼差しを人に向けるかのような顔。


「なんだよ?」

「ナギ、そういうとこだよ」

「え?」

「ふふっ」


 回答になっていない返事に満足して、ミコトは足早に岬にある展望台への階段を昇っていった。自分も後を追って階段を一歩一歩踏みしめるように進んでいく。

 長い階段を昇る道中、自分の身体が少しずつ透けていることに気付いたが、もはやここまでたどり着いてしまえばさして気にならなかった。

 もう、これで終わるのだから。


「着いた。ナギ―――」

「なんだ?」

「………っ」


 展望台まで昇ったミコトは消えようとしている自分に気付いたのか、無言でこちらに駆け寄り自分の手を握り締めた。手も透けているというのに誰かに掴まれるというのも変な感覚だ。


「大丈夫だよ。これでミコトは“外の世界”に帰れるんだろう?」

「まだ。まだもう少し。最後に見てもらいたいものがあるんだから」

「見てもらいたいものって言っても」


 展望台には自分達以外には誰もおらず、何もなかった。強いて言えば人二人が座れる程度のベンチがあるくらい。申し訳程度に備え付けられた落下防止用の手すりの向こうにはどこまでも広がる海があって、その水面は朝の日の光で温かみを感じるオレンジ色に染まっていた。


「もう来るから、あそこのベンチに座ろ」

「もう来る?何が?」

「お父さんと、お母さん」

「は?」


 ミコトに手を引かれるままベンチに並んで腰かけた瞬間、今しがた自分たちが昇ってきた階段を駆け上る足音が聞こえた。


「恭介、ほら早く」

「彩音、そんな急ぐと転んじゃうぞ?」

「!」


 そこには散々夢で見てきた二人の男女の姿があった。恭介と彩音。自分の両親であるという二人。

 二人はそのまま自分たちが座っているベンチに近づき、そのまま追い越して海が見渡せる展望台の端ギリギリまで近づいた。どうやらこちらの存在は気付いていないか、見えていないようだった。

 その証拠に、二人の姿は今の自分と同じように、向こうが透けて見える。


「お父さんとお母さんもね、前にここに来たことがあるんだよ」

「ここに?二人は“外の世界”にいるんだろ?」

「そう。でもここは、“外の世界”が元になってるから。地理的に一致してるところもあるんだよ、奇跡的に」

「じゃあ“外の世界”にいる二人の姿が見えるのは?半透明だけど」

「ここは外との出入り口、境界みたいなところだから。それに今はこの世界の存在自体が揺らいでるから、外と中の境があやふやになってるの」


 詳しくは理解できなかったが、とにかくあれは過去の出来事を映す幻ということらしい。

 幻の恭介はどこかバツが悪そうな顔で海を眺めている。おそらく、夢で最後に「別れよう」と告げた後なのだろう。対する彩音はいつも通りのどこか冷めた表情を見せているが、その瞳にはある種の覚悟のようなものが垣間見えた。


「綺麗だね。ここ、恭介がずっと行きたかった場所なんでしょ?」

「まぁ、観光地として有名だったし」

「私もね、来るの楽しみにしてた」

「そうか」

「恭介と二人でこの場所に来るの、楽しみにしてたんだ」

「旅行するの、そんなに好きじゃなかったのにな」

「恭介がいたからだよ」

「当てつけか?」


 自嘲気味に笑う恭介。そんな彼を見て彩音は諭すように言った。


「勘違いしないで。恭介が私を変えたんじゃなくて、私が勝手に変わったんだよ」

「そんな気遣わなくても—――」

「この出会いは奇跡なんだよ」

「え?」

「私と恭介が出会ったのは、奇跡。私が変わったのも、奇跡。私と恭介が今日ここまでたどり着けたのだって奇跡。全部奇跡だと私は思ってる」

「なら、奇跡なんて最初から起きなければよかったんだよ。俺と彩音は出会わないし、彩音は変わらない。今日一緒にここまで来ることもない。それがお互いにとっての幸せだったんだ」


 それは、まるで昨日ミコトと交わした会話のようだった。


「私、欲張りだから」

「え?」

「もう一つ、奇跡起こしたい」

「何を—――」


 恭介が言いきるより前に、彩音が彼に抱き着いていた。

 一瞬、恭介が身体に力を加えて彼女を引きはがそうとしたように見えたが、彩音は決して彼の背に回した腕を解こうとはしなかった。


「私達は、この先も一緒にいるの」

「———まるでストーカーかヤンデレみたいな台詞だ」

「どう思われたっていい。私は、恭介と出会えた奇跡を、終わらせたくない」


 彩音のその声には、今まで夢でも聞いたことがないほど彼女の想いが感じられた。


「このまま終わったら、奇跡が不幸で終わっちゃうから」

「いつか幸福だと感じられるようになるよ。たとえば彩音が他の男と結婚して子供ができたりしたとき」

「———いや」

「ん?」

「私は恭介と一緒にいたいの!」


 彩音が一際大きな声を発した。もしここに海辺の鳥などが留まっていたなら、驚いて飛び立ってしまっていたことだろう。


「彩音……」

「私がいつ恭介に面倒見てもらいたいなんて言った?私がいつ恭介に責任とってほしいなんて言った?私の人生全部恭介に任せたいなんて言ったことないよ!」

「………」

「私はずっと、私がそうしたいからそうしてきた!誰かのせいにしたり、誰かに自分の生きる意味を預けたことなんてない!これからだって!」

「彩音………」

「だから恭介。恭介も、自分のしたいようにして?もし恭介が本当に私のことが嫌いになったなら、それでいいよ。でも—――」


 最後まで言い終わる前に、恭介が彼女を強く抱きしめていた。


「俺が、お前のこと嫌いになるわけないだろ!」

「うん……っ、うんっ!」

「ごめん、ごめんな彩音……っ、俺、怖かったんだ……他人のこと背負いきれずに、お前のことが嫌いになっちゃうんじゃないかって」

「私、そこまで重い女じゃないよ。それに恭介が大して力持ちじゃないことだって知ってる」


 そこでようやく二人は身体を離した。


「二人なら大丈夫だから。重いものだって二人でなら背負えるはずだから。恋人って—――夫婦だって、そういうものでしょ?」

「え、彩音、いま―――」

「っ、なんでもない!」


 恭介は笑っていた。

 彼のその次の言葉が聞こえるよりも先に、二人の姿は消え失せた。たとえば朝日を受けて灰になる吸血鬼のように。最初からいなかったように。最初からいなかったのだが。


「———これが、ミコトが見せたかったものか?」

「そう。二人が、自分のために生きるって決めた日。二人がずっと一緒にいるって、誓った日」

「恭介の方は情に絆されているようにしか見えなかったけど」

「そうかもね。でも、それがお父さんの良いところ。お母さんがお父さんを好きになったところ」

「どういうところだよそれ」

「“優しい”ってこと」

「優しい?」

「ナギ。あの二人は、別にナギに自分たちの生きる理由を押し付けたりしてるわけじゃないよ。もちろん自分たちのためって言ってしまえばそれまでだし、ナギから見ればやっぱり勝手な都合に見えるかもしれない。でも。でもね、二人がナギに会いたがってるのは本当なの」

「どうして?どうして会いたがってるんだ?」


 ミコトはベンチから立ち上がり、振り返って言った。


「二人が同じように愛せる人と、一緒にいる。そういう当たり前だけど簡単には得難い“奇跡”を望んでる。それじゃ理由にならないかな」

「………」

「………」

「―――たとえば」

「たとえば?」

「俺が“外の世界”に行ったとして、俺は自由に生きられるのか?たとえば、気ままに世界を見て周る旅をするとか」

「うん。ナギの努力次第だけど」

「努力次第って。気ままにって言ったろ。やっぱり、俺にはあまり向かない世界だな」


 続いて自分もベンチから立ち上がった。景色の向こう側にあったはずの山々は例の光に包まれて、その稜線すら確認できないほどだった。この展望台に続く道にも、光が立ち昇り始めている。

 あまり、考える時間は残されていないようだった。


「ミコト」

「なに?」

「あの二人のためなんかじゃない。俺は俺のために行く」

「……どこに?」


 いつも通りの悪戯っぽい笑みを浮かべてミコトが尋ねる。分かっているくせに、この状況であっても意地の悪いことだ。


「“外の世界”に」

「———“奇跡”。起こったね」

「なんでもいいだろ」


 なんとなく居心地が悪くて視線を逸らした。そのせいで、ミコトが直後に起こした行動をすぐに飲み込むことができなかった。


「んっ!?」

「………っ」


 ミコトの唇が、自分の唇に触れていた。彼女が何を考えてこんな行動をとっているのか分からなかったし、この行為にどんな意味があるのかも分からなかった。

 ただ、不思議と悪い心地はしない。本能的な欠乏感が満たされていくような感覚。たとえば、欠けていたパズルに最後のピースが埋まったときのような。

 これで、完成。

 これで、終り。

 これで、始る。


「これで、“外の世界”に行けるよ」

「………今のでか?」

「私達が出会い、理解し、繋がること。それが“外の世界”に行く方法」

「そう、なのか」


 理解は追いつかないが、ミコトが言うのならそうなのだろう。


「ねぇ、ナギ」

「なんだ?」

「私の夢、覚えてる?」

「え?」


 ミコトの夢。確か—――。


「自分で世界を見て周りたい、だったか」

「覚えててくれてよかった」

「“外の世界”に行ったら、また二人で旅をするのもいいかもしれないな。今回は七日間だったけど、次はもっと長くて大がかりに」

「たとえば?」

「たとえば、今回はこの世界の果てまでだったけど、次は“外の世界”の果てまで行ってみるとか。どのくらい世界が広いのか自分はまだ分からないけど」

「うん。行けたら、いいなぁ」

「行けるだろう?二人で一緒、に―――?」


 ふとミコトを見ると、彼女の身体が徐々に透けていることに気付く。自分と同じように。


「ミコト、お前身体が……」

「もう、時間ないみたい」

「この世界が終わるってことか?なら急いで―――」

「ううん。私が私でいられる時間」

「え……?」


 私が私でいられる時間?どういうことだ?

 彼女の言葉の真意について考える間にも、彼女の身体は刻一刻と希薄になりつつある。


「お前、まさか一緒に行けないなんて言わないよな?」

「大丈夫。私も一緒に行く。ずっと、ナギの傍にいるよ。ここに」


 そう言って彼女は俺の胸元を指さす。そしてはたと気付いた。さっきまで消えかかっていた自分の身体が、はっきりとした形を取り戻していることに。


「どうして」

「ナギ。私は消えちゃうわけじゃないの。ナギが生きる選択をしてくれたから、私は君の中で一緒に生きられるようになるんだよ」

「なに……、なに訳の分からないこと言ってるんだよ!」

「私は、のお母さんから生まれて、ここに来たの。お父さんとお母さんに会いに行ってくれる人を探しに。でも、でもね、私はこの姿で外に行くことはできないの。ナギと一緒にならないと、行けない」

「そんな、じゃあ、じゃあお前の夢はどうなるんだ!?」

「ナギ、さっき自分で言ってたじゃない。気ままに世界を見て周る旅がしたいって。私の夢は、キミが一緒に叶えてくれるよ」

「そんなのって………」 

「ナギ」


 ミコトは泣いている子供をあやすような優しい声で言った。

 俺は泣いていない。泣いてなんかいない。泣くわけがない。

 一方的に俺を巻き込んで、駄々をこねて俺を困らせて、しょうもないことで俺をからかっていたこいつがいなくなるんだ、せいせいする。

 

 ———だけど。

 ―――だけど………!


「もっと、お前と一緒にいたかった」

「………ありがとう」


 でも、とミコトが言った。


「でも、これからも私はキミとずっと一緒にいるよ」

「………」

「“奇跡”」

「え?」

「この出会いは奇跡なんだよ」


 さっき、彩音も同じことを言っていた。俺とミコトが出会った日にも。


▼▼▼


「う~~~、あう~~~」


 いつもの朝。大学の通学路。朝起きるのが遅かったせいで朝食も摂らずに家を出た自分は、せめて何か飲み物だけでも喉に流しておこうと自販機前に立っていたのだが。


 ———何してるんだろう、この子。


 地面を這うようにして自販機下の隙間に手を伸ばす少女の姿がそこにあった。歳は自分とさほど変わらない程度だろう。一応スカートは丈が長いから大事な部分が露わになっていたりはしないが、少々無防備すぎる。手を伸ばそうとするたびに小刻みに下半身が揺れているのが妙に扇情的だった。

 本来なら、見知らぬ得体のしれない少女のことなど無視して、他の自販機を探せばよかったのかもしれない。でも、その時自分が飲みたかったものは、このあたりではこの自販機でしか手に入らない。わざわざ店に入ってレジを通して買うのも馬鹿らしかった。

 だから、声をかけざるを得なかった。


「キミ、何してるの?」

「えっ」


 そこで漸くこちらの存在に気付いたのだろう。少女は慌てて立ち上がった。身繕いする間もなかったせいか、スカートの膝部分や腕の肘にはまだ若干の土の跡がついている。


「えっと、飲み物買おうとしたらお金が自販機の下に転がってっちゃって……あはは」


 そう照れくさそうに笑う仕草は、愛らしかった。その邪気のなさがいっそ清々しくて、自分は柄にもないことをしてしまったのかもしれない。


「……どれ飲みたいの?」

「え?」

「俺も買うから、ついでに奢ってあげるよ」

「え、そんないいよ。お互い会ったばかりなのに」

「そこで延々小銭探しされてたら俺が買えないんだよ」


 財布から紙幣を取り出し、自販機に入れて適当な缶コーヒーを選んだ。取り出し口から缶を取り出した俺は、お釣りを引き出す前に一歩引いて彼女にその場を譲った。


「ほら、好きなの選んでいいから」

「………ありがとう」


 彼女はどこかのメーカーの炭酸飲料を選び、取り出した。

 そして手に取ったそれを、乾杯の要領でこっちが持っていた缶コーヒーにカチンとぶつける。


「乾杯」

「なにに乾杯したんだ」

「じゃあ、出会いを記念して?この出会いは“奇跡”だよ」


▲▲▲


「どうして、ミコトは俺を選んだんだ」

「選ぶ選ばないの話なら、私的にはキミが私を選んだと思ってるんだけどな。最初に声かけてきたのそっちだし。それに、乙女の秘密だって言ったじゃない」

「知ってる。知ってて聞いてるんだよ。もう、時間ないんだろ」

「………優しかったから」


 ミコトは微笑みながらそう答えた。

 “優しかったから”。

 その程度の理由で選ばれたのか自分は。しかも、自販機前に蹲っていた彼女が邪魔だったからだけなのに。

 もし、あの日俺が起きるのがいつも通りだったとしたら。

 もし、あの日飲み物が飲みたいと思わなかったとしたら。

 もし、彼女に声をかけなかったとしたら。

 どれか一つが欠けても、今の自分はここにたどり着くことはなかっただろう。

 

 ———なるほど、確かに、“奇跡”かもしれないな。


「ねぇナギ。私思うんだ。生きている人って、みんな優しい人なんだよ」

「優しい?」

「その人に会いたいって思う人たちがいて、その気持ちに応えて生まれてくるんだから。“奇跡”を起こせるのは、“優しい人”なんだと思う」

「———そっか」

「少なくともナギの良いところは優しいところ。一つ、確実にそれだよ。お父さんと同じ。外の世界に生まれても、大事にしてね」

「あぁ」

「ナギ」


 気付くと、岬から見える海と空を除いた視界のほとんどが光に飲まれていた。

 きっと、もう終わる。


「なに?」

「ありがとう」


 たった五文字。たった五文字のその言葉に、果たしてどれほどの意味と想いが込められているのだろう。

 たとえば、俺たちが出会ったこと。

 たとえば、俺が“外の世界”に行くこと。

 たとえば、彼女と一緒に夢を叶えること。

 

 ———ミコトのためじゃない。

 ———紛れもなく、自分自身の願いだ。


「こちらこそ」

「ありがとう」


 そして、ここから始まるんだ。

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