駄津
傍野路石
駄津
或る
村は沿海の地として当然の如く海産が盛んで、何故か殊にダツがよく捕れた。
村の者たちはダツを捕るようになった頃こそ、その恵みに
しかし同時に、そうした風潮が故に村では或る画期的な遊技が編み出され、村中にたいへんな盛況を
それ即ち「ダーツ」である。
何やら円の描かれた的へ目掛けて定められた数のダツを
或る日、村中にダツを投げる「ダーッ」という威勢の良い声が響き、ダツの焼かれる匂いの仄かに漂う中、村一番の釣り上手が岸から伸びた桟橋へダツを釣りにやってきた。
そうして桟橋の
「ホーウ、活きが良い」
彼は呟きながら張り切って釣竿を構えた。海面では幾匹かのダツが頻りに跳ね回っている……。
最初の獲物がかかるのに
と、
そうして驚く間もなく、
彼は声を上げることもなく桟橋の縁に倒れ込み、獲物は彼の手を離れた釣竿とともに海に落ちてイヨイヨ釣り上げられることはなかった。
そんな所へちょうど村の若者がダツ釣りに赴いて来たが、村一番の釣り上手が血塗れの死屍と成り果て、しかもその胸にダツが突き刺さって臓を抉りながら頻りに激しく身をうねらしているのを認めると、スッカリ戦慄しきって踵を返し、釣竿も何も投げ出して必死に叫びながら逃げ込むように村へと
「ダッ……ダツに殺されてるぞォーッ……」
爾来、村ではダツの捕られることが無くなった。無論食膳からも消え、「ダーツ」すら盛興を極めていたのが嘘であるかの如くバッタリと誰一人としてやる者が無くなった。そうして果ては海に近づく者さえ無くなり、村と海とは漸次深い溝によって
村では、海産を断ったために皆一層農耕に心血を注いだ。しかし何故かどうしても作物がうまく育たなくなり、村全体で久しく凶作に見舞われるようになった。
同時に、村の者たちは
やがて
或る年、それは凄まじい嵐が村とその沿海に轟然と
そうしてやがて、更に勢力を増した荒波が岸を越えて村にまで押し寄せると、村は見る間に村民諸共吞み込まれていった。
駄津 傍野路石 @bluefishjazz
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