終結

「東の神話の王は天才軍師を勧誘する際に3度頭を下げたという。お前達はワシにとってソレと同じ。故に3度言おう。ワシの配下になれ」


 香木がどこかで燻されているのだろうか?未だ口も付けられていないコーヒーと厳かなな匂いが混ざり侯爵は緩やかな時間の中にいる。


 少年達の心臓は鋭い絶望の鉤爪に掴まれていた。


 アレフは確かに錬金術を使った。

 光も出た、錬成反応は確かにあった。

 カイを見る。カイも見開いた目でアレフを見ていた。

 一筋の汗がアレフを伝う。

 それを見たのか、はたまた感じ得たのかカイは笑った。


「兄弟、万事休すって事だろ?いいぜ、もう腹括っちまおう 」

「おいバカ止めろ!」


 アレフの静止は間に合わずカイは侯爵をそのナイフで薙いだ。

 侯爵はコーヒーを飲みながら、杖をふった。

 杖は輝き、コーヒーは酸味が強くなっていたのか顔を少し歪めた侯爵の顔を照らす。

 そして、杖から出た赤い閃光がカイを包み空中へ捕縛する。

 光はヒルが獲物の血を全て飲み干した様に離れるとカイは操り人形の系が切れた様に崩れ落ちた。

 光は侯爵の元へ帰り鬼火の様に侯爵にかしずき、懐から侯爵が瓶を取り出すと吸い込まれていく様に入っていった。

 思考と絶望が栓が抜けた様に渦を巻くようにゆっくりとアレフから抜けてゆく。

 空になっていくのを埋める様に怒りがアレフを満たしてゆく。

 憤怒に満たされたアレフは爆発した様にカイの瓦礫に挟まるナイフを掴む。


(殺してやる)


 掴んだナイフを以って侯爵をひたすら斬る、ひたすら突く。

 刃の残滓が線となり揺らいで消える。消える線にまた残滓が重なる。

 斬撃は一向に止まない。

 全く侯爵は崩れない、カスリ傷も負わない。

 何処で吹く風かとでも言わんばかりに侯爵は酸味の強いコーヒーを楽しむ様に一口一口丹念に味わいながら啜る。


 体の疲弊と共に憤怒が絶望へ塗り変わってゆく。

 絶望は鉤爪とも顎ともなりてアレフを喰い尽くしてゆく。

 暫くするとアレフもまた崩れ落ちていた。


 「気は済んだかね? 」

 コーヒーを味わい尽くした侯爵は驚く程優しい声音を発した。

 微動だにせず先ほどと同じ体制で崩れているカイをアレフは縋るように見る。

 そして、消えゆきそうな声で聞いた。


「何をしたんだ?」

「マフーハという魔法じゃよ。カイの魂を封印した」

「治せるのか? 」

「それは貴様の返答次第じゃのう。4度言ってやろう、ワシの物になれ」

「 ——お前の下についてやる」


 満足そうに侯爵は一層口角を上げ、目は燻すように静かに燃えた。


「では貴様等の願いを一つ叶えてやろうかの 」


 そういうと侯爵は杖を振る。

 シミの様に広がった錬成陣が輝く。

 光が消えた。

 くぐもったうめき声が生まれた。

 陣の円形部分6つにそれぞれ縛られた人が居る。


「ちと遅くなってしまったが鮮度は良好。ほれ、クサビを刻んで良いぞ 」

「何だよ…… これ」

「あぁ、こいつ等は逆賊でな。丁度処分したかった連中じゃ」

「そんな事はどうでもいい。兄弟を戻せ!」

「 カイを戻すのは今じゃあない。なぁに戻してはやる。今はクサビを打つだけで我慢しておれ 」


 慟哭とも言えるアレフの発する声とも呼べぬ音に部屋は満たされた。

 崩れたアレフをそのままに、侯爵は為すべき事は済んだと本を片付け奥へ引っ込んでゆく。


 『殺してやる』と何度も叫ぶアレフは、赤黒く燃え盛る目に力を込め、床の陣に両手を添えた。

 いつもより赤黒く暴れる光に部屋はかき消されていった。

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盗賊ギルド『キツネの子』 グシャガジ @tacts

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