どことなく不穏な、でも懐かしい空気

 車でどこかへと向かっているらしい、男ふたりの旅のお話。

 現代もののボーイズラブです。2,000文字弱のコンパクトな掌編で、サラッと読めちゃうところが魅力。
 印象的なワンシーンを丁寧に描いた、まとまりのいい小品です。

 雰囲気が好き。作品の空気感というか、不穏さと安心感の間を揺蕩うような感じが素敵です。
 記憶がはっきりしないままどこかに連れて行かれる、という状況自体には不穏さがあるはずなのですけれど、しかし主人公自身が不思議な懐かしさのようなものを感じているため、なんとなく安心してしまうこの感覚。
 完全に安心し切るわけではないんですけど、少なくともこの『彼』に関してはそんなひどいことにはならないんだろうな、という予感のような。そういうのが文章越しにわかる感触が好きです。

 その上でたどり着く結末も含めて、とても雰囲気のある作品でした。しっかりBLしてるところも良かったです。