幸せを運ぶたぬき。

夕日ゆうや

幸せのアレンジ

 特別なことがあると、母はよく緑のたぬきを買ってくれた。

 結婚記念日、父の退院祝い、妹の結婚祝い。俺の一人暮らし祝い、と。

 マルちゃんの工場で働いていたせいか、母はカップ麺が好きなのだ。

 そんな母に影響されて、か。二十になって一人暮らしを始めた俺も、今ではすっかり緑のたぬきが大好きだ。

 そんな中で編み出した俺の食べ方がある。

 まず緑のたぬきの蓋を剥がす。そして中にある小エビ天ぷらをわざと先に取り出し、スープの素を麺の上に開ける。後は器にお湯を注ぐだけ。

 三分後に、蓋を剥がし、缶ビールを開ける。

 カリカリの天ぷらを口に運び、ビールで流し込む。

 二口目。食べ終えると、スープに浸し、そばをすする。そしてビールをあおる。

「うまい。うまい。うまい!」

 ○獄さんみたいに叫び、今度はふわふわになりかけの天ぷらをかじる。甘塩っぱい汁を吸った天ぷらは味が変わる。

 そしてビールのあと、再びそばをすする。

 これがまたうまい。

 天ぷらがふわふわになったところで口に運ぶ。これもうまい。

 ビール片手に緑のたぬきは合う。

 食べ進めていくと、やがて天ぷらも麺もなくなってしまう。だがまだ汁が残っている。底の方に浮いている麺と天ぷらの残りを一緒にすすり、喉へ流し込む。そして最後にビールを飲み干す。

「ぶはっ! うまかった。今度はどんな調理法で食べるか……」

 色々とためしてみたものの、未だに可能性を、のびしろを感じるこのカップ麺。

 ご飯とタマゴで炒めたチャーハンもうまいが、スープの素を入れずお湯で戻したカップ焼きそばもまたうまいのだ。

 ネギとタマゴを加えてふわとろ卵そばもまたうまい。

 この世界には無数のアレンジ料理があり、俺はその一つ一つを研究している。

 うまいものもあれば、微妙なものもあるが、その手軽さは忘れてはならない。一手間加えるだけで別の料理に化けるのがとても面白い。

 俺は幸せをかみしめるように、緑のたぬきを食べる。そしてビールを飲む。

 明日への活力に、前へ進む一歩を、その力をくれるのはやはり食なのだ。

 今日の晩酌は何にするかな……と悩める日々もまた愛おしい。

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幸せを運ぶたぬき。 夕日ゆうや @PT03wing

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