ゾンビ村虐殺事件

@HasumiChouji

ゾンビ村虐殺事件

「なあ……俺の親父おやじナムベトナムに行った時に、何をやったか……聞いた事ぐらい有るだろ……」

 ゾンビ鎮圧の為に軍に志願する事を決めた時、一番若い叔父貴は、そう言った。

 叔父貴とは言っても、齢は、そんなに離れてない。

 この人は、俺の若い叔父貴か齢の従兄弟か、どっちだと思う? 知らない奴にそう聞いたら、答はほぼ半々に分かれるだろう。

「いや……」

「じゃあ、俺がイラクで何をやらかしたかも聞いてないのか……?」

「イラク戦争の英雄だろ? 一族の誇りだ」

「気を付けろよ……軍隊ってのは……」


 基礎訓練を終えて、現場に入ってから半年。

 ゾンビ禍は、どんどん酷くなっていった。

『軍は何をやってるんだ?』

 最初の1〜2ヶ月は、そんな事を言ってた奴らも居た。

 いや、今でも居るだろうが……もう、そんな声は俺達の耳には届かない。

 今や、携帯電話網もインターネットもプレスマスコミもマトモに機能していない。

 この州が、アメリカが、世界がどうなっているか俺達には判らなくなった代りに……俺達が苦労してんのに、それを批判し嘲笑ってる奴らの存在も……有って無いのと同じになった。

 まるで……昔、戦争映画で観た……ナムベトナムかイラクだ……。

 まだ、二十そこそこの俺が「昔」なんて言うのも変だが……ゾンビ禍が始まる前は、もう「昔」にしか思えない。


 驚くべき事に、まだ空軍は機能していた。

 そして爆撃機がゾンビだらけになった街を焼き払った。

 双眼鏡の中に炎に包まれた街から逃げ出したが映る。

「撃て」

 俺は相棒に指示を出した

「待て、何か口を動かしてるように見えるんだが」

「それがどうした?」

「何かをしゃべってるんじゃないのか?」

「ああ……聞いた事ぐらい有るだろ。最近のゾンビは……人間のフリが巧くなってるらしいしな」

「い……いや……」

「撃てよ。早く撃て」


 相棒は少しの間、躊躇ためらったが……対物ライフルの引き金を引き……。

「変だな?」

「どうした?」

「腹に命中したのに倒れやがった」

「お……おい……ゾンビじゃなくて、生きた……」

「ああ、ゾンビだから『生きた死体』だな。まったく……最近のゾンビは人間のフリが巧くなってる。ちょっと待っててくれ」

 俺は、倒れたゾンビに止めを刺す為に駆け出した。


 その十歳ぐらいの女の子のゾンビは……おそろしいまでにが巧かった。

 

 俺は、その女の子のゾンビの頭に何発も拳銃弾をブチ込んだ。

 そして、相棒の元に戻ると……そこには……。


「悪いな……。判ってるだろ? ウチの部隊に、ゾンビに噛まれたかも知れないヤツが居ると……ウチの部隊が他の部隊に皆殺しにされるんだよ」

 相棒はゾンビに襲われ死亡……と言っても、ゾンビになる前に、俺が相棒の頭を撃ち抜いたのだが……。

 もちろん相棒を襲っていたゾンビも俺が殺した。

 だが、俺は、同じ部隊の奴らに、ある疑いをかけられ……。

 ふん縛られ、頭に銃口を突き付けられた時……脳裏に浮かんだのは……何故か、あの時の叔父貴の言葉だった。

『気を付けろよ……軍隊ってのは……敵味方が判らなくなるような状況では……確実に暴走するんだ』

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