第52話 冒険者連合軍vs魔王軍幹部共④
──―魔王城 会議室。
「何…、人間が城の門を突破しただと?」
「はい、どうやらその様です。」
クレアの質問に、グラキルスは眼鏡をクイッとやってから応えた。
「何者かが城門を通過した際、こちらに情報を知らせる感知魔法が作動しました。感知した魔力の数からして侵入者は、数人程度… 。」
「…どこの城門だ?」
「……西の城門です。」
「西だと?あそこは確か…」
「はい。西の城門には、メリアさんがいるはずなのですが…、通話用の魔法円で呼んでも、返事がありません。」
「まさか…、倒されたのか?人間に、あのメリアが…」
「それはまだ…わかりません。メリアさんの安否を確認するため、見たものを鏡に映し出す能力を持った小さな翼竜…『配信竜』を向かわせていたのですが…」
クレアとグラキルスは、会議室中央の長テーブルに置かれた円い鏡に視線を移す。
「鏡には現場の様子が映し出されていません。向かわせた配信竜に、何かあったのかもしれませんね。念のため、僕の部下達を行かせましょう。」
「いや、駄目だ。魔王城の敷地内にいる侵入者は、メリアを倒す程の実力者かもしれない。君の部下や他の魔物には、手にあまるだろう。
幹部の誰かを向かわせる。手の空いた幹部はいるか?」
グラキルスが円い鏡の表面を、人差し指で軽くつつく。
すると、鏡の表面に各城門前の状況が映し出された。
何匹もの『配信竜』が魔王城の外を飛び、その目で見たものが円い鏡に映し出されているのである。
鏡の表面をタップしながら、グラキルスが各場所の状況を説明する。
「現在北の城門では、イザベラさんが高笑いしながら冒険者達に砲撃を撃ちまくっており、
南の城門では、パンツ一丁姿のフレイムルさんが、悲鳴を上げて逃げる女性冒険者を追いかけています。
東の城門が一番敵の数が多いですが、ヒミカさんは上級魔物『ヒュドラ』を召喚し、一緒に地形を壊しながら冒険者の集団をシバいています。」
「ふむ…、城門を守っている奴らは交戦中で、城の西側に行かせることはできないか。 …というか、なぜフレイムルはパンイチなんだ?」
「敵の増援の可能性を考慮して、ネヴァクルスさんには魔王城にいる魔物達を連れて、パンゲラ大陸中央の国境に行ってもらいました 。僕は作戦参謀として、常に戦況の把握に務めなければなりませんので、ここを動くことは出来ません。」
「…とすれば、私が行くしかあるまい。」
ガシャッと、全身に身に纏う鎧を鳴らして、クレアが立ち上がる。
「いいえ、それには及びません。まだあの方がいます。」
レンズを光らせ、眼鏡をクイッと直す。
「そう…、幹部の誰よりも一早く冒険者連合軍の来襲に気づいた、あのリオンさんが!」
「…奴か。」
「城門を通過した後、侵入者が魔王城へ入るまでには、鉄のゲートを抜けて、『城の庭園』を通らなくてはなりません。
ですが、幸いにも城の庭園にはリオンさんがいます。」
「ふむ…。奴め、もしも城門が通過された時のために、あえて庭で待機していたか。」
「はい。会議室を出る時、『…ふん。城門の守りなど御免被る。門番は他の奴らに任せて、俺は庭で待たせてもらおう。』…と、言っていました。」
「なるほど。つまり、リオンはこう言いたかったのか。『幹部を倒して城門を通る強者を、庭で迎え打つ』…と。
やはり、さすがだな。どこまでも頼りになる男だ。」
「まったくです。あの孤高なる方には、感服いたします。」
「ふっ…。あとは、奴が強者との戦いに興じるあまり、魔王城を消し去らないことを祈るばかりだな。」
そう言って、クレアは軽く笑みを浮かべた。
―――魔王城の庭園。
「面倒ごとが終わるまで、ここで待つか…」
広大は敷地面積を持つ魔王城。
その城門を通過すると、鉄のゲートが待ち構えており、そのゲートを潜り抜けた先には、魔王城の庭園が広がっている。
庭園には、黒や紫色の不気味な薔薇が咲いた花壇やよくわからん植生の樹木が生えており、ゲートから城まで続く石畳の道を挟む様に、魔物の像が乗った石柱が至る所に立っている。
俺は、庭園の西側に位置する噴水場にいた。
「…………(ぼー)」
灰色のブロックを円形に積み上げた噴水の囲い場に腰をかけて、空をぼーっと眺めていた。
城門の外から、叫び声や爆発音が聞こえてくる。
(…大変だね~。)
そんな喧騒を、俺は他人事の様に聞き流す。
魔王軍の幹部どもが城門を守っているおかげで、冒険者連合軍とやらは魔王城の敷地内には入って来れないだろう。
冒険者達の相手は、やばい
「……………(ほけ~)」
空を見上げて惚ける。
──ホ~…、ホケキョッッ
(…なんか、気合いの入った
それにしても…、魔王城の西側は静かだな。
顔を前に向け、庭園を見渡す。
今いる所は、城門からそんなに離れているわけではないのだが、戦闘の音が聞こえない。
もしかして西の城門前は、戦いが終わったのかな?
(ん?)
足下に、何かがキラリと光った様な気がした。
小銭でも落ちているのかと思って、拾おうと上半身だけ屈む。
──スカッッ
(ん!?)
「ちっ、避けられたか!」
何かが後ろ髪を掠ったかと思えば、その後に舌打ちと悔しげな声が聞こえた。
(…っ!?)
急いでその場から離れて振り返ると、俺がいた場所には、ショートパンツに動きやすそうな格好で、その手には奇妙な武器を持ち、顔を布で巻いて隠している人物がいた。
「さすがは魔王軍幹部最強の一角と名高い、リオン・アウローラ。気配を消した『アサシン』であるアタシの不意討ちを避けるとは。 」
(あ、アサシン…って、殺し屋かよ!?)
その人物が手に持っている物を見る。
握った柄から、薄く長く、しなやかで柔らかい刃が伸びた武器。
いつぞやだったか、海外の映画で似たような物を見た気がする。
あれは確か…ウルミとかいう武器。
振ると鞭の様にしなって相手を切りつける、柔らかい剣だ。
(おいおい、敵が城の敷地内に入って来てるぞ!城門にいる幹部どもは、何やってんのぉ! )
アサシンが、薄く柔らかいウルミの刃を地面に打ち振るう。
鋭く空を切って落下した刃が、カアァンッと落雷の様な音を出す。
「魔王軍幹部 リオン!今からお前を、暗殺する!」
隠れもせず、真正面から正々堂々と俺に暗殺宣言するアサシン。
俺は胸の前で腕を組み、落ち着き払った雰囲気で敵を見据える。
「…ふん、くだらん。」
(ぎゃああ、暗殺されるー!)
魔王軍の幹部会議で「…ふん、くだらん。」て言うやつになった 夕陽 八雲 @aoi-saka
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