第120話「新居」

私はオーディン様より、正式に辞令が降り、拝命した。

配属先は新設された女性騎士団統括責任者として任命だ。

敢えて『女性騎士団』となっているのは、黄金騎士団以外でも求人する予定だからだ。

でも、部署は変わっても、私はワルキューレ戦乙女なのは変わらない。


この日でフレイヤ様の修行も終了となる。

ワルキューレ統括部長フレイヤ様の配下である事は変わらないけど。

輜重輸卒部しちょうゆそつぶスクルド部長や、ルデグスタ課長の下から脱する事が出来た。


女性騎士団専用『戦士の館ヴァルハラ』もやっと完工した。

三階建ての宿舎10棟は渡り廊下で繋がっていて、ちょっとしたお城の様だ。

宿舎とは別に大きな食堂、専用料理人20名、施設管理の使用人100名。

そしてレクリエーションルーム、医療施設、PX売店が用意されている。



戦士の館ヴァルハラ』の近くには、私専用の施設邸宅と執務室が用意されている。

中に部屋がいくつあるのか判らないけど、きっと沢山ある。

普段はその執務室に詰めていなければならない訳だ。

勿論社員寮からは出て、専用の施設邸宅に移らなければいけない。

結構広く、樹木が壁代わりに植えられている庭付きの施設邸宅だ。


施設邸宅にも大勢の使用人が集められている。

使用人には、執事と家令、料理人、庭師、各種メイドが揃っている。

そんな私には新たに側近が付けられた。

文官2名、護衛騎士3名、いずれも神族からの抜擢だ。



「良かったですね、ヒルトさん」

「すごいですの」


「ありがとう。

 これも何仙姑かせんこさんやジブリールのお陰だよ。

 それとチャンディードゥルガー様にも」



改めて邸を眺めると、感嘆の溜息が出る。

神界の神々より、立場を確立され、上級神に相応しい邸宅を与えられた。



「私に与えられたものを見ると、凄い出世しちゃったんだって判るね」



下級神から、上級神への仲間入りでもある。

これもチャンディードゥルガー何仙姑かせんこやジブリール、フレイヤ様の後押しバックアップのお陰でもある。

丸藻まるもは相変わらず私の財務担当を務めてくれている。



「これだけ広い家と庭が手に入ったんだから、良いよね? アレ出しちゃっても」


「ヒルト様、アレとは何でしょう?」



女性文官のマルグレデが訪ねて来る。



「番犬代わりの熊、ヒグマのキムンと白熊のイコロだよ」


「熊で御座いますか」


「出でよキムン、イコロ!」



私は依り代である小さな木彫りの熊から二匹を呼び出した。

ヒグマの方をキムン、白熊の方をイコロと名付けたのは私だ。

二匹とも『キムンカムイ』、クマの神獣だから、意思疎通は出来るだろう。



「うわ! 熊が‼」


「大丈夫だよ、チノミシリカムイから言い聞かされていて大人しいから」


「熊たちの為に、小屋が必要ですね」


「お願い出来るかな」


「畏まりました」



この後、家臣団と使用人たちと挨拶を交わす事になる。

それにしても、全25名と本当に大勢いるよ。


こんなに沢山必要なのかなと誰もが普通に思うよね。

修行を積んだ今なら、その意味は何となく解かる。


でもスリム化しても良いと思えるのも平民意識だよね。


この大邸宅で私の立場は主人という事になる。

それは皆に給料を払わなければならない立場。

上級神として俸禄を受けられるから、皆の給料はそこから支払われる。

それ故に人事権は、あるじである私にあるのだ。


まぁ、私が事業を起こして稼いでも良いんだけど、丸藻まるもがいる限りそんな心配はいらない。


賓客の何仙姑かせんことジブリールは私の横で見物するつもりのようだ。




大広間の一角で備え付けられた椅子に座り、順に皆の挨拶を受けて行く。



最初に私の側近となる以下の五名。


文官マルグレデ (女)中級神族

文官ジョセル (女)中級神族

護衛騎士アデラダ (女)戦闘部ワルキューレ

護衛騎士キャサラ (女)戦闘部ワルキューレ

護衛騎士ミルドナ (女)戦闘部ワルキューレ


私は何処に行くにも彼女達に護衛され、語る事は文官が記録し取次をする事になる。



次に邸管理の主要メンバー。


執事:バルトマ (男)

家令:ヘロイーゼ (女)

主計:丸藻まるも財務担当

料理人:ケイテ (女)

庭師:バレンス (男)

門衛:リストル・アントル・アルノルト (男)


執事のバルトマは邸管理の総責任者で、家令のヘロイーゼは家人の管理者。

主計の丸藻まるもは言うに及ばず、財務担当として辣腕を振るってもらう。

私は相変わらず丸藻まるもから、当面のお小遣いを貰う事になる。

門衛は三交代で勤務に当たる。



次に各種メイド勢、全員女性なのは言うまでもない。

先ずは上級メイドからの挨拶となる。


ハウスキーパーのマルタ。

 メイド長で、部下であるハウスメイド達の上司となる。


レディースメイドのルムヒルデ。

 女主人・レディの一切の身の回りの世話をする係。


チェインバーメイドのヴィアン。

 主に寝室や客室など、部屋の整備を担当する。


パーラーメイドのリオノラ。

 給仕と来客の取次ぎ、接客を専門職。


スティルルームメイドのアデライス。

 お茶やお菓子の貯蔵・管理を専門職 自らお菓子をるパティシエ。


以下は下級メイドの紹介になる。


キッチンメイドのミルドリー。

 コックの指示の下、台所の一通りの仕事をこなす。


以下の名も知らない使用人は入れ替わる可能性が高い。


スカラリーメイド2名

 鍋や皿を洗ったり、厨房の掃除を行う専門職でコックの管理下にある。


ランドリーメイド2名

 言うまでも無く、洗濯専門のメイド。


ハウスキーパーの部下のハウスメイド5名。

 水汲み・風呂焚き・掃除など雑事一般を担当する。



うーん、一度で名前と役職、仕事内容が把握しきれないよ。

後で一覧表でも作ってもらわなきゃ。


貴族の邸の構成員は大体こんなものなのかな。


神界の構成は貴族の関係に準拠して組まれているようだ。

ひょっとして逆かも知れないけど、そこは重要な問題点じゃない。



黄金騎士団はキャンプを畳み、『戦士の館ヴァルハラ』へ入居し始めた。

今後の増員を見越して、余裕があるようだから心配はいらないね。

大将軍のアルレースと副官のアリエットは、大部屋をそれぞれ独占しているらしい。

士官は個室で、一般騎士は部隊ごとの六人部屋との事だ。


毎朝喇叭ラッパで起床し、総員点呼を行った後、掃除と朝食。

以降は訓練に明け暮れるとか。


う~ん、まるで軍隊の様だ。

いやいや、騎士団なんだから軍隊そのものなんだ。



「出世おめでとう、ヒルトさん」


「ありがとう何仙姑かせんこさん」


「私はそろそろ帰郷しようかと思います」


「帰郷するなら、三女神ノルニルの所に寄って行ってもらえないかなぁ。

 よっぽど異国の話を聞きたいようで、本当にしつこいんだから」


「では寄らせてもらいますね」



私は三女神ノルニルの館に先触れを走らせた。

何仙姑かせんこはアース神界の用意した豪華な馬車で送られるそうだ。

スレイプニル六頭立てで御者や護衛騎士が大勢付けられるらしい。

それじゃぁ、勝手な寄り道なんて出来ないよね。



ジブリールはオーディン様達に日本語塾を開講いている。

仕事が終わると、相変わらず私の所に来るんだよね。

やっぱり、見知らぬ異郷で仲間といる方が心休まるからね。









「ヒルト様、陸軍船舶司令部、『暁部隊』の草案を持って参りました」



アルレースは海戦戦力も増強したいようだ。

「陸軍海上挺進戦隊」として陸軍船舶隊 陸軍船舶兵、陸軍海上連絡部、陸軍海上輸送部の草案が上がっている。

しかし肝心の『暁部隊』に要員はまだ5名しかいない。

戦艦武蔵には、交代制で20名が整備と学習で乗艦しているだけだし。



「気持ちは解かるけど、人員が今以上に増強出来ていない内に部署を増やすのは時期尚早かなぁ」


「今の所、武蔵以上の戦艦は無いから急がなくても」


「時期が整うその日まで、下地を準備しておいた方が良いと判断しております」



私には現場状況がこれ以上把握出来ていないから、何とも判断し辛い物がある。



「じゃぁ、アルレースに全権を任せるから、思うようにやってみて?

 本格的始動は人員が集まってから、という事で」


「はっ!」



一柱ひとりで何かするのが、あれほど楽だったとは。

いざ軍団を統括するってこんなに大変だったんだ。

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旅行者のワルキューレなんだけど、どうしてこうなった ぽてち @say-potechi

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