リアル百人斬り

 中世までの、剣や槍といった近接武器主体の戦争において、凄腕の戦士によくつけられる称号、その一つが百人斬りです。

 一人倒すだけでも大変なのに、その百倍、しかも一度に。

 すごいですよね。良くも悪くも、一生お会いしたくない人種かもしれません。

 ただこれ、鵜呑みにしてはいけません。

 実際にはほぼ不可能です。


 好例として、「ベルセルク」の主人公、ガッツを挙げてみます。(※ネタバレ注意)

 作中、ガッツはとある切迫した事情で、敵の傭兵百人を相手にし、その全てを斬り倒して見せます。

 これにはいくつか、ガッツに有利な条件がありました。


 ・ガッツの武器が耐久力と間合いに優れた大剣だった

 ・敵の傭兵たちは百人という数を頼りに慢心していた

 ・ボウガンなどの射撃武器が少なかった

 ・戦いの場が危機の生い茂る森だったので囲まれないように立ち回れた

 ・敵の援軍が来なかった

 ・ガッツが化け物級に強かった


 およそ書き殴るとこんな感じなんですが、このうちどれか一つでも要素が欠けていたら、百人斬りを達成した時点で満身創痍だったガッツは、あえなく途中で死亡していたでしょう。

 中でも、ガッツの武器こそがこの百人斬りの要です。

 幼いころから身の丈に合わない剣を使っていたガッツは、自分の背丈ほどもある大剣を、棒切れでも振り回すかのように扱っていました。

 条件の一つ、化け物級に強かったというのは、誇張でも何でもありません。

 それほど強いガッツでも、上記のように連続で幸運が訪れなければ、百人斬りを達成するのは不可能だったということです。


 世にいう百人斬りの猛者とは、現実には誇張表現以外のなにものでもありません。

 10対100だったとか、1対20くらいだったとか、敵は新兵ばかりだったとか、実際にはその程度です。

 それでも、とんでもない実力の持ち主であると伝われば十分で、噂を聞いた人々もあえて真実を知ろうとはしません。

人々が欲しているのは、わかりやすい称号ですから。


 ただ、凄腕の剣士が絶対に折れず切れ味も鈍らない魔法の剣を持っていたとしても、それだけでは百人斬りなんてできっこないってことです。

 せいぜい10人、手傷を負わせたところで隙を見せて、四方八方から槍を付き込まれて討ち死にするのが、一番リアリティのある結末じゃないでしょうか。

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ここでしか書けないことを書くエッセイ的な何か 佐藤アスタ @asuta310

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