幼なじみ同士の絶妙に微妙な距離感

 幼なじみ同士の男女二名、かつて振ったり振られたりもした間柄のふたりが、なんやかやあって温泉旅行に行くお話。

 小さな旅の一幕を描いた、現代ものの掌編です。
 短い作品であることもあり、以下にはネタバレを含みますのでご注意ください。



〈   以下ネタバレ注意!   〉

 短編連作シリーズのうちの一話であり、特に本作は外伝的位置付けということもあって、基本的には〝何も起こらない〟お話。
 ただ、この何も起こらなさ加減こそが作品の肝というか、最後の空振り感(なんなら撃沈と言ってもいいと思う)がとても好きだったり。

 前提からしてまず何も起こらなそうで、しかしそうは言ってもちょっとくらいなんかあってもよさそうで、でもでもやっぱり何も……みたいな、この揺れ動く期待(という言葉では強すぎるけれど)のような感情が本当に楽しい。
 正確には、主人公の中にあるであろうその揺れ動きと、読者としての自分のそれが似たような動きをするところが楽しいです。

 コンパクトで手軽に読める小品ながら、独特の味わいのある作品でした。