時が流れても変わらないもの

※物語のネタバレを含んでいないか心配だったので、ネタバレ含にチェックを入れました。ご注意ください※

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 井上幸さんの『百日紅の咲く庭で』。

 この物語は、母親を亡くした父娘2人の過ごした時の流れが、深い愛情と共に綴られる物語です──いいえ、今語ったあらすじには、多少の訂正が必要ですね。

 亡くなったお母さんも含め、『3人』の深い愛情が綴られた物語、です。

 語り手は基本「お父さん」の視点で進みます。彼は愛する人を失いながらも、一人で娘を愛し育てる覚悟を持っている素敵な人。
 そしてその愛情を受けて育ち、母親がいないことに対して時に心無い言葉を掛けられながらも、お父さんの幸せを願う娘さん。彼女もまた、とても素敵な人物として描かれています。
 最後に、お母さん。彼女の愛の形は……ぜひ、皆さんの目で確かめてください。

 そう、この物語は、家族が家族の幸せを想い合う「時間」の物語だと私は思うのです。
 流れる時間の中、父娘の距離は当然変わってゆくもの。それでも、変わらなかったもの。
 その「変わらなかったもの」を目にした時、優しい気持ちに包まれることでしょう。私は、そうでした。

 加えて井上幸さんの柔らかく、優しい言葉たち。
 難しい文体ではなく、ストレートに綴られた一人称。だからこそ、すとん。じわり。心の中に染みます。


 雑文ではありましたが、おすすめです。
 温かい気持ちに包まれたい方にぜひ触れてみてほしいと思います。