百日紅の咲く庭で
井上 幸
第1話 最後の夜に
明日は君の結婚式。
最後の夜を僕の
本当に、あっという間に大きくなった。
今夜は二人、縁側に腰かけてゆっくり酒を
君には情けない姿を沢山見せてしまったし、淋しい想いもさせたことだろう。
僕はいい父親だなんて、胸を張って言える自信はどこにもない。
現にほら。
今 僕は隣に座る君の顔を見ることも、言葉をかけることすらできやしない。
今夜は月が出ないから、ひどい顔を見られずに済んだと僕は少しほっとしているんだ。
「お父さん」
呼びかけられて、
「今まで、育ててくれてありがとう」
返事の代わりに、僕はくいっと酒を
「私ね、お父さんの娘で本当に幸せよ。ねぇ、お父さん。お父さんは幸せ、だった……?」
震える声に覚悟を決めてそちらを見れば、
熱を持つ息ひとつ
「あたりまえじゃないか。君は、僕の愛した
そう言うと君は目を丸くして、星がきらきら輝く瞳を
一筋星がこぼれ落ち、君は柔らかに微笑んだ。
「ふふっ。お父さんはいつもそう。私が一番欲しい言葉をくれるのね」
あぁ。あの
「明日は早いだろう。もう寝なさい」
流れた
君はちょっぴりはにかんで。
「うん。おやすみなさい、お父さん」
「おやすみ。幸せに、なりなさい」
絡まる視線に君はしっかりと
足音が、ゆっくりと遠ざかる。
風に混じった少しの寂しさと大きな安堵が、僕の頬を優しく撫ぜていく。
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