第2話 こころを懸けて

部屋へと戻る君の背中を見送って、僕はひとり庭へと降り立った。

庭石へと腰下ろし、舞い散る花にあの女性ひとを想う。


貴女あなたが空へと昇ってから、長い月日が過ぎたけれど。

僕は今でも貴女のことが好き。

心から、愛しているよ。


飾りのひとつもない、陳腐ちんぷな台詞しか出てこない自分に呆れてしまう。

でもきっと貴女は笑ってくれるだろう。

『変わらないわね、貴方あなた』って。


僕はゆっくり立ち上がり、つるりとすべる木の下にしゃがんでそっと手を伸ばす。

薄桃色の絨毯じゅうたんの上、咲く紫へ手を添えて。空気一枚へだてて撫でた。


初めて貴女に贈った花。

宝石のように煌めく紫色の小さな花セントポーリア

花束じゃなく鉢植えだったから、貴女はずいぶん笑っていたね。

それでも大事にしてくれて、そんな貴女にまたれて。


それから毎年贈ったね。

結婚してからは、この庭を紫色でいっぱいにするのだと張り切っていた。

特にこの木は貴女のお気に入り。周りにたくさん植え付けて。

今更知ったことだけれど。貴女は僕とあのに、庭いっぱいの『花言葉小さな愛』を残してくれたんだ。

その気遣いが、胸に温もりと淋しさとを同時に連れてくる。

いくら言葉を尽くしても、心を尽くしても。

貴女に届くことはなく。

ただ与えられたものだけが、季節を巡り続けてる。


まるで昨日のことのように思い出せる記憶。

子どもができたと知った時、僕は驚きと喜びに声すら出せなくて。貴女を不安に泣かせてしまったね。われに返った僕が貴女を強く抱きしめすぎて、怒られてしまったけれど。

今でも思い返す度、胸が熱くなる。


この庭で貴女と語らった将来は、実現することなく過ぎたけれど。

星が綺麗なこんなは、貴女のことを思い出し、今ある幸せ数えてる。

紫色が母屋おもやあかりに弱く照らされる姿はまるで。妖精がきらきらふわふわ遊ぶよう。


『お願いよ。このが自分で幸せ見つけるまでは、貴方が幸せ教えてあげて』

『あぁ、約束するよ。貴女を想う僕の人生こころけて』


貴女の震える声がよみがえり。眼裏まなうらから熱が込み上げた。

あの日、貴女は僕をそっと抱き寄せて。

貴女の膝に抱かれた小さな指も、僕の袖をきゅっと握っていた。


あの日交わした約束は、果たせたことになるのかな。

あぁ、貴女が隣に居るような、そんな気さえしてくるんだ。この夜は。

僕らの娘の幸せしたためた貴女が愛したこの花を、小さき妖精ともが遠い空へと届けてくれますように。

星の流れる夜空へ祈りを捧ぐ。


『ありがとう。どうか、いつまでも幸せに』


耳元でかすかに貴女の声が聴こえる気がした。

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