10話.[キスだけだけど]

「疲れた……」


 係の仕事とか委員会の仕事が重なって放課後にはへとへとだった。

 でも、今日は和と集まることになっているからまだ休むわけにはいかない。

 まあ、なにかをするというわけでもないからそう重く考える必要もないだろう。


「すまない、待たせてしまったな」

「ううん、でも、ちょっとここで休んでもいい?」

「ああ、それでいい」


 そろそろこの教室ともお別れになる。

 特別思い入れがあるというわけではないものの、そう考えると少し寂しくなる。

 二年生になっても、三年生になってもこういう風に感じるのかな?

 三年生の場合は学校自体とお別れになるわけだから悲しくなるかもしれなかった。


「最近、花帆はどうなのだ?」

「よく抱きしめてくるよ」

「甘えん坊なのだな、誰かさんはしてくれなくなってしまったが」

「積極的な自分はらしくないから」

「……私としては少し寂しいぞ」


 危険なことをしたくない。

 相手からしてくれればそれを受け入れているだけでいいものの、こっちからした場合はそうではないから怖いんだ。

 もちろん、彼女は恋人なんだからあまり問題にならないのは分かっている。

 乱暴なことをしなければきっと受け入れてくれる。

 ただ、そうしている度にこれは違うよね? と自分の一部が囁いてくるんだ。


「私は和にもっと積極的になってほしいんだ」

「ほう、いいのか? 止まらないかもしれないぞ?」

「それでもいいよ、痛いことじゃなければ自由にしてくれればいいから」


 ……最近は抱きしめられるだけでは物足りなくなってしまっていた。

 こちらを離したときの顔を見ると心臓が強く跳ねる。

 勢いだけで行動するのはいいことばかりでもないものの、悪いことばかりではないからと動こうとしてしまう矛盾した自分がいるんだ。

 つまり、その先を望んでしまっているという本当に淫乱な……。


「真由」


 抱きしめられている最中、こんなところでしてしまったらどうなるんだろうと考えていた。

 ここはまだ学校で、誰かが来てしまうかもしれない教室だった。

 さすがに見られていたら不味い気がするので、仕方がなく移動を開始した。

 多分、和ももやもやしていたと思う。

 ただ、誰にも見られることがない彼女の部屋に入った途端にそれは始まった。

 まだ夜でもないのにやばい雰囲気だった。


「はぁ……はぁ……」


 冬ということもあって照明を点けていないと部屋の中は真っ暗になる。

 それでも既に家に着いてから三十分ぐらいは経過しているため、暗闇に慣れて彼女をはっきりと見ることができていた。

 明らかに普通じゃない、恐らくこれがえ、ええ、えっちな顔と言うんだと思う。


「ふぅ、……そろそろ真由も帰らなければいけないな」

「うん」


 家族というわけではないから離れなければならないときがくる。

 玄関のところまで付いてきてくれた。


「そ、それではな」

「後でメッセージを送るね」

「ああ、待っているぞ」


 正直、火照った体がを冷やすためにも冬の冷たさ、寒さというのは丁度よかった。

 キスだけだけど、とてもじゃないけどこんなことを花帆とかには言えなかった。

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83作品目 Rinora @rianora_

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