第3話
本当なら、駆け落ちとかトーヒコーとかできたら良かったんだけど。
そんなことできないってわかってるから。翠は、すごく悪いことをしてしまったから。
翠は僕の家でシャワーを浴びて返り血を綺麗にした。身だしなみを整えて、家から離れた所にある警察署まで行って、そこで自首することにした。当たり前のように僕も着いていった。
世間知らずの中学生の僕達にとって、それはちょっとした冒険の旅だった。
真っ直ぐ行っても一時間以上かかる道のりを、二人で寄り道しながらゆっくり歩いた。もうすっかり日は暮れていた。
お腹が空いたからコンビニでコロッケを買って、歩きながら食べた。500mlの紙パックジュースはあっという間に無くなった。
育ち盛りの胃袋にはそれじゃ全然足りなくて、また別の店で肉まんを買った。僕は缶コーヒーに挑戦したけど苦くて美味しくなくて、公園のベンチに座って甘いカフェオレにしとけば良かったなーって愚痴ったら、翠が笑ってミルクティーのペットボトルを半分くれた。
コンビニも公園も初めて訪れるところばかりで、気分がソワソワした。野良猫には逃げられて散歩中の犬には吠えられて、ちょっと悲しくなった。
道行く人やたむろしてる学生達が、遠くの世界の住人に見えた。
家からそこまで離れてないのに、見慣れない景色ばかりで別の地方に来たみたいな気持ちになった。
僕はお金が無くて、翠は親に許してもらえなくて。それぞれの理由で、僕達は旅行どころか外での買い食いもほとんどしたことが無かった。
「どうせしばらくお金使えないから」って、翠が全部奢ってくれた。
トイレを借りたとこで買ったアイスを半分こして、次のコンビニではポテト食べようか、なんて話してたら、警察署の前に着いてしまっていた。
信号待ちをしながら、二人共何となく黙った。いつの間にか、手を繋いでいた。
信号が青に変わったら、もうこの旅は終わってしまう。
「あっ」
不意に、翠が焦ったような声を出して僕はびっくりした。
「漫画の続き、貸せなくなっちゃったね。……ごめん」
翠の声は震えてた。
「僕こそ、今日借りたやつ返せてない」
涙をこらえようとすると、喉が痛くなってきちゃった。
「みどり」
信号が変わった。通行人達が動き出す。
翠の手を、ぎゅっと握った。
「髪、だけじゃない。翠のこと、色々、いっぱい、好きだから」
翠も、僕の手を強く握り返した。
僕達は、迷うことなく警察署の入口に向かって歩き出した。
黒髪長髪ポニーテールの幼馴染みは僕のことが好きらしい 惟風 @ifuw
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