第3話 雪降るバレンタイン
出刃包丁で切りつけられて熱を出していた訳だが、弱り目に祟り目とは言ったもので、新型に罹患した。
連日高熱が続き、体力がトコトンまで落ちていた。
事務所に泊まり込み、部屋を真っ暗にして寝ていた。
泥の様に眠っていると息苦しくて目が覚めた。
呼吸がしにくい。
重たい、苦しい。
目を開けると目の前に女性が居た。
可愛らしく、妙齢な女性が悲しそうな表情を浮かべて、
馬乗りの状態で首を絞めている。
苦しくて、目覚めたのに意識が遠のくのが分かる。
見た顔だ、と頭に浮かんだ所で視界が狭くなっていく。
このままだとマズイ、と思っていても体が動かない。
撥ね退けるだけの力は無かった。
その直後に横合いから着物を着た女性が、首を絞めてくる女性に飛び掛かって、視界から共に消えた。
ガシャン、と強い音がして気配が霧散する様に感じられなくなった。
圧迫感が失せて咳込んでむせる。
呼吸が落ち着いた所で部屋の電気を付けて眼鏡を掛けた。
明かりを付けたらデスクの上が散らかっていた。
女同士の取っ組み合いと評したくなる勢いだったなぁ、と呆れて言葉も出ない。
取り合えず、相手の顔に爪を立てて飛び掛かるって普通に恐い。
そして、首を絞めてきた人物にも心当たりがある。
最近追加されたストーカー。
本当に溜息しか出ない。
上着を羽織って、煙草を吸いに玄関を出ようとドアノブを回すとバサリと何かが落下する音がした。
もう嫌な予感しかしない。
煙草に火を点けて外に出ると紙袋が落ちていた。
雪が降り始めていて外気温はかなり下がっている。
視界が煙と吐く息で真っ白い。
袋を拾い上げると、まあ時期的にアレだと分かる包装紙に包まれたモノ。
そして、気温とはかみ合わない程度には冷たくない。
まだ間の無い、と確信してそのまま部屋に入って鍵を掛けて、チェーンをする。
ここまでは若干人怖心霊、後バレンタイン。
取り合えず、キッチンに向かい包みを開けるとトリュフチョコ。
棚から包丁を取り出して一つを割ってみる。
しっとりとした手ごたえの後に異臭。
血なまぐさい。
定番過ぎて泣けてくる。
が、血なまぐさいだけじゃなく、赤黒いモノが変にプルプルとしてる気がする。
「これ……、ただの血じゃないじゃん」
そんな、雪降る夜の情念話。
悪意とは甘くて濃くて重たくて 守月左近 @ahrimanece
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