紅い森

高黄森哉

中の森い赤

 赤い森の中。水分を含んで幹が赤い、森の中に、私は立っていた。私は、帰ることに決めた。


 赤い幹の木々が立つ森の中の道の真ん中に、赤いぼろきれが落ちている。近づいてみると、ハンカチだった。手に取った瞬間、そのハンカチの持ち主の残留思念が見えた。


 大きな男の人に引きづられている。その人は、足を掴まれて地面にすられながら、私が今、来た方に連れていかれたようだ。彼女は、引き摺られているうちにハンカチを落としてしまう。私は、そのハンカチをポケットにしまった。


 しばらく山を下って、また道の真ん中に、リュックサックが落ちている。そのリュックサックには、何も入っていなかったが、手をかざすと残留思念のような何かが流れ込んでくるようだった。


 大きな男の人が藪の中から出て来て、その人は走り出す。私とは逆方向に逃げていったらしい。逃げた先でハンカチを落としたのだ。


 私は、リュックサックをしょった。そして、この山のふもとの自宅を目指す。十分ほど、休みなく、足を動かして、遂に山の切れ目が見えてきた。明確な終わりはないが、一段下がっているので、ここで区切りという感じがする。


 私はその段差に、手が引っかかっているのを見つけた。私は、その手を手に取ると、思い出のような記憶が、残留思念の形で呼び覚まされた。


 男は、私を鉈で襲う。彼女は道のまんなかに手を落とす。その人はやはり、私が来た方に逃げる。男は竹林に姿をくらます。逃げた先でリュックサックを落としたのだ。


 リュックサックを背負いなおすと、行き先に大男が佇んでいるのを見た。紅い森の中に鉈を持った巨漢が、不細工に佇んでいる。その男は私を睨みつけながら向かってくる。キチガイだ、逃げなければならなかった。


 さて、そこまで、残留思念を見てしまうと、私は、手を例のリュックサックに入れた。これが私が思い出すことのできる、最後の証拠品なので、今日の回収作業は終了にしようと思う。紅い鉈を振り回して、木々を染めながら、帰るとする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紅い森 高黄森哉 @kamikawa2001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説