第49話 部室での密会1

「ノア、それじゃ俺は一足先に帰るからな。掃除頑張れよ」


 部活が終了し、部員が一人、また一人と着替えを終え部室を去って行く。

 掃除というていで、俺は部室に残ることにした。

 そして駄弁って最後まで残っていた一樹も、今部室から立ち去ろうとしている。


「あぁ、気をつけて帰れよ」


 っとは言ったものの、本当は引き止めたい!

 そんな葛藤にかられていた。

 なんたってこの後、学生証を受け取るために姫乃先輩がここを訪れる。

 それはきっと、ただで済むわけがない……。


 そして無情にも、一樹は去り部室のドアは閉じられた……。


「いやいや、なんでだよ。落とし物を返すだけだろ? 何かトラブル起きる方がおかしいって……」


 一人きりにされた自分の思考、発言に、ツッコミを入れる。

 誰かが何かを答えてくれるわけもなく、ただただ部室の壁掛け時計の秒針が、チクタクと時を刻む。

 他に物音一つない。それが無性に、俺の不安を煽った。


 カランッ! カラカラカラ……。 


「──ッ!?」


 慌てて音のなった方を注視した。

 どうやら、突然の物音の正体は壁に立てかけてあったバットが倒れ、転がった音のようだ……。


「い、いやいやいやいや! 何も無いって、あるわけが……」


 不安に耐えきれず、さらに独り言を重ねる。

 時間が刻々と過ぎる度に、心臓の鼓動は増し、耳に響く。そんな時だ、

 

 ──コンコンッ。


 部室のドアをノックする音に、俺の肩が跳ねる。


 来た、とうとう来てしまった!!

 ドキドキのあまり、心臓が口から今にも飛び出してしまいそうだ。


「私だけど、入ってもいいかしら?」

「は、はい……。どうぞ」


 俺は立ち上がり、返事をした。

 するち部室の扉が、ゆっくりと開かれる。

 分かっていたことだがそこには姫乃先輩が立っていた。

 その表情はどこか深刻そうに見える。


「すぅ〜、はぁ〜……。それではお邪魔するわね」


 お世辞にも綺麗とは言えない俺一人だった空間に、彼女が足を踏み入れ扉をしめた。そして、


 ──ガチャリ。


 あ、あれ? 今カギかけなかったか?


 自分の血の気が引いたのが分かった。


「だ、誰かが部室の中に入って来ないようにするためだよな? 何もおかしい事は無いよな……」


 逃げたい、すっごく逃げたい。

 しかし姫乃先輩が扉を背にしている、これでは簡単に外へは出して貰えそうにない。


「じゃあ日輪君、さっそく本題に入りましょうか?」


 そう言葉にした先輩は、ゆっくりと俺との距離を詰めてきた。

 制服のブラウス。その首元に巻かれた、リボンを紐解ながら……。

 

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちびっ子には見せられないよ!魔法少女と、その使い魔。 リゥル(毛玉) @plume95

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ