しなやかに
「私服、オシャレですね」
「そう? アリガトウ」
そんなふうにそっけなく返事をしても、心の中ではガッツポーズを決めている。
自分の見た目に気を使い出したのはいつからだったろう。
昔は自分のことは自分だけが気にしていればよかった。
自分が好きなことにお金と時間を使えばよくて、私は自分がそこまで好きじゃなかったから、自分のことはいつだって後回しだった。
でも、仕事をして、人と出会うことも増えて、いつの間にか年齢を重ねて、さらに人と出会うことが増えて、そうも言ってられなくなったんだ。
例えばさ。
「あの人って結婚してるんですか」「独身らしいよ?」「へえ」
なんて会話があったとするじゃない。
そこでさ。姿勢も悪くて、だらしない体型をしてて、身だしなみにも気を使えていない人だったらさ。
「あ~。なるほどね」
って、思われるわけじゃん。
でも、びしっとして、スマートで、オシャレな人がそうだったらさ。
「え~。もったいない」とか、「なにか理由があるのかもね」なんて言われたりするかもしれないじゃん。
私と近しい間柄になれば私が独身を貫いている理由なんてすぐに分かる。
人と一緒にいることに向いてないんだ。
だから私と親しい人たちは、今更私に「結婚しないの?」なんて聞いてこない。
だけど、仕事で人と関わる以上、一々自分の内面なんて晒してられない。表面しか見せられない。だったら、下に見られるよりは上に見られたほうがいい。
いや。
それだけじゃない。
きっとそれだけじゃないんだ。
昔とより人と関わることが増えて、人を見ることが増えて、人を知ることが増えて。
どうしたって色んな人間がいるから、見比べてしまって。
あんな風になりたいと思える人も、ああはなりたくないと思ってしまう人も、知ってしまったから。
優しくて。
強くて。
頼りにされて。
ユーモアがあって。
よく笑って。
かっこよくて。
頭がよくて。
物知りで。
歌が上手くて。
絵が上手くて。
字がキレイで。
料理好きで。
しっかりもので。
孤独を愛して。
しなやかに生きる。
そんな自分になりたいと思うから。
さあ、明日も早起きして、ジョギングに行こう。
中ジョッキの詩集 lager @lager
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