風を待つ少女

 そう言ってアリエスは私の胸に手を当てた。


 体を水流が駆け抜けていくような感覚があった気がしたが、全身に風が沸き立つような感覚もした気がした。


 怪訝そうな表情で彼女は私の顔を見つめた。


「あるじゃない……それも随分と強い力を持つマナ核よ。


 これで魔法が使えないなんて言うのなら、私たち魔導士は形無しと言ったところね。」


 信じられない、なぜ私にマナ核があるのだろうか。


 だって魔法なんてない世界でずっと過ごしてきた。


 だからそんなはずないのに……。


 アリエスが教えてくれたのだが私は風のマナを持っているそうだ。


 それも彼女曰くルタに似ているような気がするのだという。


 それでも、ルドルフを使わない魔法の使い方なんて私は知らなかった。


 それを聞いたアリエスとブレイバーさんは手を貸してくれるのだという。


 ある程度の魔力を有するならそもそも魔道具なんていらないらしい。


 しかしルタは?


 前に無尽蔵にも等しいほどの魔力があるって聞いた気がするけど……。


「いいかい、お嬢さん。頭の中でイメージするんだ。


 この結晶が修復された状態を、だ。」


「穂、集中するのよ。いい?いくよ。」


 結晶に手を添え、そこにブレイバーさんとアリエスも手を重ねる。


 集中、集中、しっかりと頭の中でイメージしていく。


 結晶が修復された状態……。


 風が手を吹き抜けていく、水がせせらぎのように手を通り抜けていく。


 私はふっと息を吐いた。


 目を開けると光を取り戻した結晶がそこにあった。


 直すことができたようだ。


「お嬢さん、やるじゃねえか。これで一人前の魔導士だな。」


 私は安心しきったのか、緊張が解けて膝から崩れ落ちた。


 アリエスの肩を借りて立ち上がる。


 上手く行ったから後は異界渡のチケットを手に掴むだけだ。


 ブレイバーさんとアリエスは仕事があるとのことで去っていき、私は早速パスケースから取り出そうとした。


 しかしチケットが手元に来ない。


 他のチケットは手元に来るのに異界渡に必要なチケットだけがどうしても手元に来なかった。


 私は原因がわからず落胆した。


 何かに阻まれているのか、私の魔力が足りないのかわからなかった。


 アリスは屋敷に何日でも滞在していいと言ってくれた。


 ここでゆっくり過ごすしかないのだろう。


 しかし私は茶飲みの女の話を思い出した。


 彼女はルタがここに来るだろうと言ってくれた。


 逸る気持ちを抑えて今はここでじっと待つしかない……。


 街に降りて訓練でも受けようか、どうするかは明日以降にでも考えよう。


 外に見えた夕陽が寂しく感じられたが、少しだけ懐かしくも感じた。

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風を誘う少女 執筆師炙りカルビ @WizardGrillRib

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