エピローグ

マナ核の行方

「穂!穂!」


 聞き覚えのある声が私に呼びかける。


 目を開けるとアリスが目に涙を湛えて私に呼びかけていたようだ。


「アリス……私は……。」


「よく……無事だった。担架を用意する、ここで待っていろ。


 いいか、意識をちゃんと保つんだぞ。」


 アリスはそう言うが私は意識が遠のいていった。


 次に目を覚ますとベッドの上だった、数時間ほど私は気を失っていたみたいだった。


 コルックスとクリューもいない、そしてルタも。


 私は思わず泣きだした、それにつられたのか私を抱きしめてアリスも泣き出した。


 どれくらい泣いたかわからない。


 私の頭を夜風が撫でてようやく今が夜だと気が付いた。


「ルターニャたちは……どうした?」


 机の向こう側にいるアリスの問いに私は答えられなかった。


 ルタは汽車から飛び降りた。


 私も異界へ放り出され、その後の汽車の行方は知らない。


 でも、私は一つの予感がしていた。


 風がまだ吹いているということは、彼はきっとどこかで汽車を走らせているはずだ。


 私にはそうとしか考えられない。


 アリスを見ると沈痛な面持ちだった、無理もない。


 きっと私よりも長い時間ルタと一緒にいて彼のことを知っているはずなのだから。


 テラスで夜風を浴びていた。


 眠れない、疲れているはずなのに目が冴えてしまっている、どうしたものか。


 そう考えていると不思議な風が吹いた気がした。


「君は待ち人がいるようだね。


 大丈夫、安心したまえ。


 月日は多少かかるが狐の少年はやがて君の前に訪れるだろう。


 それから君のもう一つの心配事も私がどうにかしよう。


 安心して今は養生するとよい。」


「あの……えっと、あなたは?」


「私は……そうだな、茶飲みの女ということでいいだろう。」


 風が強く吹いたと思ったら茶飲みの女は消えていった。


 彼女がいたところには巾着が残されている。


 忘れ物かと拾い上げると、中にはルドルフが入っていた。


 そうだ、私は巨人と戦った時にルドルフを手放していた。


 彼女はどうしてこれを……?


 翌日、アリスに見せると分解し始めた。


 アリスの解説によると疑似竜核結晶と呼ばれるマナ核のようなものが埋め込まれているのだという。


 しかし中に埋め込まれていたそれは光を失いひび割れてしまっていた。


 これでは私は魔法が使えない……。


「そうか、君は魔法の無い世界の人間だったか。


 この結晶を直す術を私は持ってないが……。」


 二人して困った顔で思案し、行き詰ったのでテラスでお茶することにした。


 唸り声を上げてどうしたものかと悩んでいると空から二人の人が降りてきた。


「お嬢さん、アリス、久しぶりだな。」


 そう言って笑いかけてきたのはブレイバーさんだった。


 相変わらず怪しいように見えなくもない人だが、隣にいる女性は誰だろう?


「アリス、元気してた?


 君がルタの言ってた女の子ね。


 初めまして、あたしの名前はアリエス、アリエス・ウィザ・ラフィーカよ。」


「初めまして、宇迦穂って言います。」


 アリスは二人に事情を説明した。


 ルドルフの結晶を直せないと私が身動き取れないこと、ルタ達が行方不明なこと。


 話を聞き終えた二人は悲しげに空を見上げた。


 しかし、アリエスが口を開いた。


「ルドルフの結晶、直せなくても穂は自力で直せるはずじゃない?」


「だって私……マナ核ないのにどうやって?」


「マナ核ない?今は冗談を言う時ではないと思うけど……。」

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