The Chair
#心の中の椅子の様子
https://shindanmaker.com/813494
(こちらの診断メーカーからのお題で創作しています)
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その椅子は、琥珀の飴細工のように繊細に見えた。
九官鳥の背中が見える。
椅子はその奥にあって、彼は、その椅子の上にあるたくさんの手紙を見下ろしていた。
…… あんなにたくさん、誰からの手紙だろう……
その積み重なった封筒は、すべて時間にくすんだ白い色をして、鈍く赤い封蝋が捺されているように見えた。
きっと、あれはぜんぶ同じ人から送られてきたものなのだろう。
あんなにたくさん。
九官鳥の背中は、…… 背中なので、いつもの嗤っている顔が見えないから、まったく彼の様子が分からない。
腕を引いて、こちらを振り向かせたい気がした。そんなに食い入るように見つめなくていい、のに。
あの椅子は、彼にとって特別な椅子なのだろう。触れたら壊れてしまいそうな椅子なのに、なぜだかとても惹かれるのだ。
その上に重ねられた封筒の一つを、彼は手に取った。手紙を取り出すその所作は、普段からは想像ができないほど、静かで丁寧だ。
大切な椅子の上に置かれたそれは、やはり大切な手紙なのだろうか。
九官鳥は、それを読み終わると、丁寧に足元へ置くのだ。
あの手紙は何だろう。それを手に取って読み始めてしまった彼は、おそらく。
それをすべて読み切って、あれに座るつもりなのだ。
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九官鳥さんの心の中にある一番大切な人だけが座れる椅子は、沢山の封筒が置かれています。
椅子は座ると壊れてしまいそうな硝子細工の物で、椅子としての座り心地は良さそうです。
九官鳥さんは、この椅子は自分が座るためのものだと思っています。
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アルパカはしゃがみ込んで、椅子の上に座らせていた人形をじっと見つめていた。
その人形はずいぶんとくたびれていて、もうずっとそこに座っていたのだと分かった。椅子と人形の間には、申し訳程度のクッションが敷かれている。
アルパカはぼんやりと首を傾げるように見つめる。きっと、座り心地があまり良さそうではないとか、そんなことを考えていそうだ。
白い手を伸ばして、人形を両手で掴む。彼とは反対の黒い頭をした、たぶん、迷彩服を着ている人形だ。彼はそれを大事そうに持ち上げたと思ったら、人形遊びでもするように小さなその腕をふりふりさせる。
手慰みのように。
何かを考えている。
人形を見つめているようで、彼のハシバミは、椅子さえも見ていない。
その椅子は、少しばかり座り心地が良くないだろうけれど、でも、それはお前の椅子なんだよ。
もう代わりはいらないだろう。
アルパカは、人形を持って立ち上がった。
しっかりと白い手は人形を持っている。
きっと、まだ一人で座るには、勇気が足りないのだろう。
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アルパカさんの心の中にある一番大切な人だけが座れる椅子は、一つの人形が座っています。
椅子は座布団が上に置かれた物で、椅子としての座り心地は悪そうです。
アルパカさんは、この椅子に座ってみようかと思っています。
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肩越しに見えたその画用紙には、クレヨンで描かれたらしい絵がちらりと見えていた。
その椅子は、アンティーク調の凝ったデザインで、マホガニーの艶やかなひじ掛けが優美な曲線を描いていた。ビロードの生地が柔らかそうだ。
そうであるのに、なぜかその椅子は「座り心地が悪そうだ」という印象が拭えない。新品すぎるのだろうか、いや、よく使い込まれているように見える。
重厚な雰囲気は、その前に佇む人物の空気ともよく似合うだろうに。
なのに、なぜ。
副隊長は子どもの落書きのような絵をじっと見つめている。
ああ、きっとあれは、彼の子どもが描いた絵なのかもしれない。
そうであれば、その絵が描かれた画用紙が置かれていたその椅子は。
…… 居心地が悪そうな椅子だ。
副隊長はその画用紙を丁寧に折り畳むと、ふとこちらを振り返った。そうして、俺を見て苦く笑うのだ。
真面目な彼のことだ。
その椅子を、空のままにはできるはずもない。
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副隊長さんの心の中にある一番大切な人だけが座れる椅子は、子供の描いた落書きが置かれています。
椅子はアンティーク調の高貴な物で、椅子としての座り心地は悪そうです。
副隊長さんは、この椅子は自分が座るためのものだと思っています。
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きょとんとした顔で、こちらを見ていた。
深い緑色の革張りの椅子だ。丈夫そうで、少し乱暴に扱っても壊れることが無さそうだ。
最初に見たときは誰もいないように見えたのに、もう一度振り返れば、そこに人が座っていた。その人物はきょとんとしていて、不思議そうにこちらを見るのだ。
なぜそこにいるのか、彼は分からないのだろう。その椅子が何であるのかを知っているがゆえに。
なぜ自分が座っているのだろう、と。戸惑っている。
だから、軽率に椅子から立ち上がろうとするので、俺はそれより早く、その人物に突き付けた。
黒い銃口。額に押し付け、椅子の方へ押し返す。
「座っていろよ。撃ちたかないんだ」
その身体に、4人の命が張り付いているんだろ。
銃口を突き付けた俺を、驚くでもなく見つめるその人物は、【俺】だった。
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隊長さんの心の中にある一番大切な人だけが座れる椅子は、座っている人がいないのに、誰かが座っているように見えます。
椅子は緑色が印象的な皮材質が特徴的な物で、座っている人は何故自分が座っているのか分からない様子です。
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(The Chair 了)
ゆるふわな小話 もちもち @tico_tico
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