手紙

井上 幸

手紙

一緒に居たって目も合わず。

話し掛けてもうわの空。


「そんな貴方はもう嫌だ」


君にとっては真実で。


けれど、

君の隣で夢見心地ゆめみごこちな僕だから。


君の喜び、君の幸せ。

君のことだけ考えてる。


眠れぬ夜、それを手紙にしたためる。



─── 君へ


ごめんね。


僕は鈍いやつだから。

君がさびしく思っていたこと、気づいてなくて。

ちゃんと言葉にしてみるよ。



君と朝から会える日は、面倒だけどちゃんと寝癖ねぐせを整える。

君に嫌われないように。君の隣で釣り合うように。


君と電車で会った日は、ぎゅうぎゅう押されてないか心配してる。

君がつぶれちゃったりしてないか。具合が悪くなったりしてないか。


君が笑ってくれた日は、まぶしすぎて目をらす。

君の笑顔は特別だから。君が美しすぎるから。


君が友達とはしゃぐ時、そっと横顔見つめてる。

君の好みを知りたくて。友人たちに嫉妬しっとして。


君とご飯を食べる時、君の歩んだ人生を。

君と肩を並べて歩く時、僕らがこれから歩む人生を。


君と夕陽をながめる時、君が求めることの葉を。

君とお酒を飲む時は、冗談に混ぜた少しの本音を。


君とただ語らう時は、君が夢見る人生を。

君と星を眺める時は、君と僕との幸せを。


ずっとずっと考えてる。


君の隣に居られるだけで。

君の声を聴くだけで。

君を抱きしめる、それだけで。


僕は本当に幸せなんだ。

だから今、君の隣に居られることは。

僕がもらった最高の奇跡だと思ってる。


伝えることが下手な僕だけど。

どうしたらそばに居られるか。

どうすれば幸せにできるのか。

ずっとずっと君のことばかりを考えてる。


目も合わないのは、僕が君との未来を夢見てるから。

上の空になってるのは、君の微笑ほほえみに見惚みとれてしまうから。


もう嫌だなんて、君に言わせてしまったから。

僕はあれから眠れない。


君をおこらせてしまった僕を。

君を泣かせてしまった僕を。

何一つ、君に言い訳すら出来なかったこの僕を。

許すことなど出来なくて。


君が教えてくれた僕の悪いとこ。

一つずつ、想いを言葉に変えるから。

だから、どうか。

君の隣に居させてほしい。


僕は、


君を。


あいしてる。


─── 愛しき君へ。




「…早く言ってよ」


君の笑顔に、ようやく眠気ねむけおとずれた。

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手紙 井上 幸 @m-inoue

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