第12話 ATUGI Laboratry

数日後、龍、グレーシーソフィ、アクアの三人の姿は厚木ラボの近くにあった。

厚木ラボは、相模川の河川の近くの東京ドーム3杯の広大な土地に15階建ての近代的な美しい建物だった。

「ねえ、イングリッド。

 本当に大丈夫なの?」

「大丈夫よ、アクア。

 ちゃんと打ち合わせの通りにやってちょうだい。

 それより、アクア。

 あなた、お尻が大きくなったんじゃない?

 きついわ。

 潰さないでね」

「わかっているわよ。

 そんなに太ったかしら…」

「大丈夫よ、アクア、

 すこしふっくらしただけ。

 丸くて、女性らしい素敵なお尻よ」

「もう、グレーシーソフィったら」

ラボに来る前にアクアはスマートフォン程の小ささのドローンをイングリッドから渡された。

「これは?」

「中継器。

 これを通じてあなたたちと一緒にラボに入るのよ」

「え?

 その体で来ないの?」

「バカね。

 いくら精密にできていると言っても、プラや硬質ゴム、合金の塊の体じゃラボのセキュリティに引っかかるでしょ?

 だからフマフォでね」

「そうなんだ」

そう言ってアクアは渡されたイングリッドのドローンをお尻のポケットに入れていた。

「ほら、龍は渡したカードのゲートの横の四角いリーダーがあるでしょ?

 そこに当てて」

イングリッドに促され、龍はカードをゲートの横にあるリーダーに当てる。

カードはイングリッドが作成した厚木ラボに入るための偽のIDカードだった。

「見慣れない顔だな。

 それに、なぜ、歩いて来た?

 ここのメンバーなら、皆、移動手段はエアカーのはずだが?」

「ああ、まだここのメンバーになったばかりだからな。

 見慣れないのも当たり前だろう。

 私も、まだ、慣れていない。

 エアカーは途中で故障し、場所がジードルの近くだったので、機密保護のために破壊した」

「そうでしたか。

 失礼しました。

 ところで、傍にいるフェアリーは?

 上級ですか?」

インターフォンの向こうの声の主は、龍の偽のIDカードで確認が取れたのか、口調が丁寧になってきたが、グレーシーソフィやアクアを見て、上級フェアリーには見えないというような懐疑的な声を出す。

「なに?

 この二人が上級フェアリーには見えないというのか?

 私の趣味が悪趣味だというのか?」

「い、いえ。

 とんでもありません。

 失礼いたしました。

 今、ゲートを開けます。

 リモコンカーを向かわせましたので、少しお待ちください。

 でも、私としては、そちらの2体の方も庶民的で好きです」

「2体?」

龍が不愉快そうな声を出す。

「え?

 そいつら、1体2体って数えるんじゃないですか…」

「龍。

 フェアリーは1体2体って数えるのが普通なの。

 気にすると怪しまれるからね」

龍にしか聞こえない声でイングリッドの声が耳に入って来る。

「あ、ああ。

 そうだったな。

 まだ慣れていないのかな」

「そ、そうですか…」

インターフォンの向こうの声は明らかに怪しいと疑うような声だったが、それ以上は何も言わなかった。

リモコンカーが到着したのか、直ぐに通用門が開く。

「どうぞ」

インターフォンも向こうの声の主は、龍に興味を失い、モニター越しにグレーシーソフィとアクアを妄想しながら凝視しているようだった。

3人がリモコンカーに乗り込むと、ドアが閉まり、静かに車は動き出し、建物の正面玄関に向けて、音も振動もなく動き出す。

門から建物までは、800メートルくらいあり、舗装された道と真ん中には庭園らしく芝生が青々としていて、建物の横の方には駐車場のようなところがあり、エアカーが数多く停まっていた。

「帰りは、あの中から1台拝借するのよ」

イングリッドの声が3人の頭の中に響く。

ゲートをくぐれば、常に監視され、また、話し声もすべて盗聴されているので、イングリッドが事前に3人に目立たないワイアレスイヤホンのようなものを渡してあった。

そのおかげで人間の耳には聞き取りづらい低周波を使った会話を可能としていた。

「しかし、広いな。

 しかも、綺麗に整備されている」

「龍。

 そんなにきょろきょろしないの。

 あなたはシルクチャイナの新任研究員なのよ。

 もっと堂々として。

 グレーシーソフィもアクアも、あなたにとっては玩具。

 食料なのよ。

 何言われても、目くじら立てないの。

 わかった?」

「わ、わかった」

渋々返事する龍を、グレーシーソフィとアクアは優しい笑顔で見つめる。

「で、これからどうする?」

「打ち合わせした通り、エレベーターで3Fに上がって。

 3Fの研究室は、変異を起こしたフェアリーを研究するところよ。

 連れていかれたヴィヴィの手がかりがあるかも知れないから」

「わかった」

「龍。

 くれぐれもオドオドしないで、ドーンとね」

「わかったって」

「あと、グレーシーソフィとアクア」

「はい」

「この建物の中は、上級フェアリーがほとんど。

 研究員は必ず一人ないし二人の上級フェアリーを助手として連れているわ。

 上級フェアリーは皆、品が良く、綺麗で美人な子ばかりよ。

 くれぐれも看破されないように振る舞って。

 気後れしないでよ」

「はーい」

「そんなこと言っても私なんて欠陥品で失敗作。

 しかも子供じゃない」

アクアが口を尖らす。

「大丈夫。

 中にはロリコン好きもいるから、可笑しくないわよ。

 それに、身長が低いだけでプロポーションは大人にように綺麗じゃない。

 龍に大事にされているのだから、自信持ちなさい。」

「うん。

 そうだね!」

龍に大事にされているという一言でアクアは上機嫌になる。

「さあ、行きましょう」

イングリッドに背中を押されるように、三人はエレベーターに乗る。

すると早速、綺麗な上級フェアリーを連れた研究員が同じエレベーターに乗って来る。

その研究員はグレーシーソフィが気になるみたいで、ちらちらと盗み見る。

グレーシーソフィはその視線を感じながら知らぬ顔で気品よく龍にぴたっと寄り添う。

3階について3人が降りると男の付いて来るように降り、いきなり龍に話しかけてくる。

「おい。

 そのフェアリーはどこのラボのフェアリーだ?」

「え?」

突然のことで龍は答えに戸惑う。

「いや、なかなか上玉のフェアリーじゃないか。

 俺の、そろそろ飽きてきたのでそっちの種類のフェアリーに取り換えてもらおうかと思う。

 どこのラボだ?」

「え?

 ああ」

(どこのラボだって?)

イングリッドも答えに困っているのか、ラボを探しているのか黙ったままだった。

「なあ、けちけちしないで教えてくれよ。

 別にお前のを盗ろうなんて思っていないからさ。

 ラボを教えてくれ」

「ラボか…」

(K3CP)

イングリッドがこっそりと耳打ちする。

「K3CPだ」

「なに?

 K3CPだと?

 お、お前、ここの研究員じゃないな!」

(たいへん。

 K3CPは厚木から外に移ったんだわ!)

「ちっ」

龍が男に騒がれる前に押さえつけようとした矢先に、1階のロビーの方で大音響の爆発音がして、やおら、建物の中が騒がしくなった。

「な、なんだ?

 お、お前、また後でな」

「へ?」

「K3CPのラボとどうコネクションを持っているかだよ。

 俺にも紹介してくれよな」

男の頭の中はグレーシーソフィのようなフェアリーをどうしたら手に入れられるか、それしかなかった。

「あ、ああ。

 また後で」

龍は半分あきれたように男に向かって小さく手を振る。

「侵入者。

 武装集団が正面ゲートより侵入。

 警備員が応戦するので、研究員は各フロアーの避難所に避難してください」

館内放送が緊迫した声でが鳴り散らす。

1階では爆発音が途切れることなく、それに銃声が加わり緊迫感を増す。

騒ぎがひどくなるにつれ、3階の研究室から研究員がこぞって飛び出してきて、階の端にあるシェルターに向かって走って行く。

それと入れ替わりに龍達は研究室に入って行く。

「うぉ?!」

一歩中に入った龍は思わず声を上げ、立ち止まった。

研究室の中はSF映画に出てくるような、液体に満たされた大きなガラスの容器に解剖されたフェアリーと思われる躰がたくさん並んでいた。

「これは?」

「可哀想に。

 解剖されたフェアリーたちよ。

 規格外になったフェアリーたちはここに集められ、その原因究明のために解剖され、調査されているの」

「規格外だって?」

容器の中のフェアリーたちは化け物ではなく、普通の哀れなフェアリーたちにしか見えなかった。

「そう。

 ヴィヴィのように、他の生物のDNAが混じって体に変化が出る。

 でも、そこまでは想定内だったけど、それが無くなりピュアなフェアリーに戻ることは珍しいこと。

 そこに目を付けられて連れてこられたの」

グレーシーソフィは悲しそうに言う。

「でも、グレーシーソフィだって触角が無くなったじゃないか。」

グレーシーソフィも龍と出会った当初は前髪と見分けがつかないくらい細い触角があったが中野を離れてからいつの間にか無くなっていた。

「私のは目立たなかったからだと思う。」

「そうか、わかった。

 ともかく、ヴィヴィがいるか探そう」

龍とグレーシーソフィは手分けをして、容器をすべて調べて行く。

1階の戦闘が激しさを増したのか、爆発音とともにフロアーが激しく振動するようになり、容器にひびが入り始める。

中には容器が割れ、液体と標本と化したフェアリーが流れ出している場所も出てくる。

「ここも危ないわ。

 そろそろ出ないと」

アクアが大声で警告する。

「そうだな。

 こっちにはヴィヴィはいなかった。

 グレーシーソフィは?」

グレーシーソフィは離れたところにある割れた容器の前で何か話しているようだった。

「ヴィヴィ?」

「グレーシーソフィ…

 無事で…良かった…

 私の…旅は…ここまで…みたい…

 龍を…龍を…お願い…ね…」

「だめよ。

 ヴィヴィ。

 一緒に行きましょう。

 イングリッド、お願い」

いつの間にかアクアのポケットから抜け出し、飛行しながらグレーシーソフィについてきているイングリッドに話しかける。

「もう、無茶ばっかり。

 上手くいくかわからないけど、やってみるか」

「お願い」

イングリッドのドローンから触手が出て来て容器の中の何かを掴むとグレーシーソフィの顔に何かをしていた。

「グレーシーソフィ、どうした?」

龍の声で、グレーシーソフィとイングリッドが戻って来る。

「どうした?

 ヴィヴィは?」

グレーシーソフィは、ヴィヴィはいなかったというように首を横に振る。

「わかった。

 残念だけど、ここはもう危ないから出よう」

「はい」

「あ、ちょっと待って。

 5階に寄って」

イングリッドが龍を止める。

「え?」

「1分でいいの。

 5階にメインコンピュータに通じる端子が出ている場所があるの。

 取れるだけデータを取りたいの。

 お願い」

「わかった。

 行こう。」

4人は3階を後にする。

「グレーシーソフィ?」

「え?」

「その眼は?

 大丈夫?」

アクアがグレーシーソフィの顔を覗き込む。

「うん。

 大丈夫よ。

 行きましょう」

「うん」

グレーシーソフィの瞳の色が左右で若干違っているのをアクアは見逃さなかったが、なにかを納得したようだった。

4人は非常階段を5階まで駆け上がる。

「あそこよ」

イングリッドのドローンが研究室の電子錠を開け、中に入って行く。

3人が遅れるように入って行くとイングリッドはすでに端子を見つけ、ドローンの体につなげていた。

ゴトッ!

部屋の片隅にあった箱が倒れ、中からフェアリーが這い出てくる。

「再生の箱?」

「凄い豪華な箱。

 上級フェアリーは再生の箱まで違うのね」

箱は周りが金の装飾で飾られている美しい箱だった。

その中から出てきたフェアリーは金髪のさらさらしたストレートの長髪で、ぱっちりした目の可愛らしい上級フェアリーだった。

「綺麗な子」

グレーシーソフィが思わず声を漏らす。

「お願い…

 助けて」

そのフェアリーは怯えたように龍に哀願する。

龍は、そのフェアリーが迫りくる危機に怯えているのか、何か違うことに怯えているのかわからなかった。

「龍。

 連れて行きましょう」

グレーシーソフィは落ちていた白衣を手に取ると、箱から出てきた全裸のフェアリーに着せる。

「大丈夫。

 一緒に逃げましょう」

「グレーシーソフィ?」

「ここにおいて置いたら危ないし、この子に良くないことが起こる気がするの。

 お願い。

 連れて行っていいでしょ?」

龍は考えあぐね、アクアに尋ねる。

「アクア」

「私もグレーシーソフィに賛成」

「イングリッド」

いつの間にか端子を切断し戻って来たイングリッドのドローンに話しかける。

「いいんじゃない。

 ちょっと狭くなるけど、我慢してもらえば」

「わかった。

 じゃあ、連れて帰ろう。

 歩けそうか?」

グレーシーソフィは首を横に振る。

「再生の箱から出てきたばかりだから、歩くのはまだ無理ね。

 私が背負っていくわ。

 アクアは再生の箱をお願いね」

「はーい」

そういうとグレーシーソフィは軽々とフェアリーを肩に担ぎ、アクアはフェアリーが出てきた重そうな再生の箱を軽々と担ぐ。

龍はフェアリーのパワーを知ってはいたが、グレーシーソフィたちの行動に息をのんだ。

「さあ、逃げるわよ。

 突入してきた賊の一部が建物の中に入ってきているみたいだから、裏から逃げましょう」

5人が研究室から出ると、階段を上がって来た3人の賊に出くわす。

「お、お前たちは」

プロレスラーのようないかつい体形の男が龍とグレーシーソフィを見て叫ぶ。

「チーラ…」

男は半年前に龍を半殺しの目にあわせたチーラだった。

「可愛いフェアリーも一緒じゃねえか。

 かっさらわれた光を取り返すついでに、そのフェアリーもいただいて行こう。」

チーラはいやらしい顔でげれーシーソフィを見て、一歩、グレーシーソフィの方に足を踏み出す。

「そうはさせない」

龍はグレーシーソフィを庇うように、チーラの前に立ちふさがる。

「け、け、け。

 この前、瀕死の目にあわせたのを忘れたか」

チーラは完全に龍を見下していた。

「龍。

 一発で仕留めなさい。

 でないと胞子を被って面倒なことになるわよ」

イングリッドの声が聞こえる。

「わかった」

しかし、龍はグレーシーソフィがチーラに受けた恥辱のことを思い出すと怒りがこみあげていた。

「一発?

 何を一発か…」

チーラが話し終わる前にチーラの膝があらぬ方向に曲がりがくんとチーラの背が縮む。

正確に言うと電光石火、龍の蹴りがチーラの膝を砕き逆くの字に折ったためだった。

そして唖然とするチーラの首に龍の回し蹴りが捉え、チーラは2mほど吹き飛びと動かなくなる。

「龍、早く」

チーラの連れの男たちが呆然と龍を眺めている間に5人は裏口に通じる階段を駆け下りて行く。

「あはははは。

 龍、強くなったね」

アクアが楽しそうな声を出す。

「当たり前だ。

 この前、グレーシーソフィをあんな目にあわせたんだ。

 あの100倍くらいは、お返しがしたかったんだが」

「100倍って言ったら、あいつ粉々に消し飛んでいるわよ」

「龍。

 さっきの一撃で私もすっきりしたわ」

フェアリーを肩に担ぎ龍に並走するグレーシーソフィが嬉しそうな顔をする。

その顔を見て龍も嬉しくなった。

「あれなら胞子を被らずに済んだわね。

 でも、念のために戻ったら、全員消毒ね」

「はーい」

イングリッドの言葉に皆、楽しそうに返事をする。

脱出は、思ったほど簡単だった。

皆、正面の侵入者に気を取られ、警備員や戦闘員がそちらの方に回ったので、裏は手薄で、しかも可愛いフェアリーたちを連れていたので、皆、龍達が安全なところに避難をするのだろうと、特に気にも留めていなかった。


手筈通りエアカーを拝借し、敷地の外に出てイングリッドがいるところに着くとエアカーを捨て、イングリッドの車の後尾ハッチから乗り込み、皆、胞子を除去する消毒を行い、内部のリビングフロアーで休息をとる。

グレーシーソフィが連れてきた上級フェアリーは別室でイングリッドがヘルスチェックを行っていた。

「そう言えば、イングリッドに言われ、アクアが再生の箱を持ってきたんでしょ?

 重くなかった?」

「うん。

 やっぱり上級の箱はちょっと違うみたい。

 そんなに重くなかったけど、いい匂いがしたわ」

「そうなんだ」

グレーシーソフィ達が話をしていると、アンドロイド姿のイングリッドが上級フェアリーを連れて入って来ると、皆、そのフェアリーの美しさに声を失う。

腰まで伸びたしなやかなストレートの金髪。

色白でぱっちりしたブルーの瞳。

均整の取れた可愛らしくもある美人顔。

8等身で細身のボディに胸や腰は豊かで、ガウンのような検査着を着ていたが、それでも抜群のスタイルだということがわかるほどだった。

ただ、箱から出てきたばかりで具合が良くないのか、青白でいかにも具合が悪いという顔をしていた。

「大丈夫なの?」

グレーシーソフィが心配そうに尋ねると、フェアリーは「ありがとう。大丈夫」と気丈に笑顔を作り答える。

「まあ、あまり具合はよくないわね。

 それに、早くあれを出さないと気分がすぐれないでしょうから。

 ともかく、一旦みんなと顔合わせしてからと思って連れてきたの。

 この子は、セイレーン。

 よろしくね」

「セイレーンです」

セイレーンと紹介された上級フェアリーは頭を下げる。

「セイレーンを担いで来たこの子は、グレーシーソフィ」

「グレーシーソフィよ。

 よろしくね」

「箱を担いで来たのが、アクア」

「セイレーン。

 よろしくね」

「そして、この人がさっき話したこれからの治療に手伝ってもらうフーマの龍よ」

「龍です。」

(治療を手伝う?)

龍は腑に落ちない顔をするが、セイレーンは龍を紹介されて、顔を強張らせる。

「さあ、挨拶はこのくらいにして、向こうの部屋で治療をしましょう。

 いらっしゃい。

 それと、龍。

 手伝ってもらいたいから付いてきて」

「あ、そうか」

先にピンときたのがアクアだった。

「え?」

「あれよ。

 黒いのを出さないと」

「あ、そうか。

 だから龍が必要なのね」

「うん」

グレーシーソフィも納得したようだった。

そして、グレーシーソフィとアクアを残し、3人は別室に入って行く。

そこはイングリッドが散々、龍を実験材料(?)した部屋だった。

ただし、龍がいろいろと実験されていた時と違い、簡易ベッドは真新しいちゃんとしたベッドに変わり、内装もホテル並みに綺麗になっていた。

「セイレーン、疲れたでしょ?

 ベッドの横になって」

イングリッドに促されセイレーンは、おどおどしながら横になる。

「大丈夫よ。

 さっき説明したでしょ。

 直に楽になるから、大丈夫」

イングリッドは優しく言うと、セイレーンの来ている検査着(ガウン)の紐をほどく。

セイレーンはじっと龍を見つめながら、ガウンの前がはだけないようにぎゅっと掴む。

「まあ、面白い。

 見知らぬ男は、やっぱり怖いよね。

 でも、龍は大丈夫。

 さっきいたグレーシーソフィやアクアの飼い主だから」

「か、飼い主だって?

 イングリッド!!」

龍は思わず怒りで声を荒げる。

「冗談よ。

 実際は逆だもんね」

「イングリッド…」

(確かに二人がいなかったら生きていけないからな。

 その通りかも)

龍の声は小さくなる。

「ホント、揶揄からかい甲斐があるからあなたは好きよ」

イングリッドは笑いながら龍を手招きする。

「じゃあ、龍。

 セイレーンをお願い」

「え?

 お願いって?」

「グレーシーソフィや他のフェアリーが箱から出て来たら、直ぐに突っ込んだんでしょ?

 そして、いっぱいにスペルマを放出して…

 中に放出されたフェアリーは、皆、口から黒い液体を出したって。

 そしてそのおかげで、いろいろな呪縛から解けたり、体調が良くなったってアクアから聞いたわよ。 

 だから、セイレーンにも同じことをやって」

「…」

何をイングリッドから頼まれたのかを理解した龍は、改めてベッドの上に横たわるセイレーンを見下ろす。

検査着のガウンを身に纏ったセイレーンが怯えた顔で龍を見つめる。

「あと一週間、ううん、あと5日ほど待ってください。

 そうすれば体は定着して、あなた様の望むことは全て、させていただきます。」

セイレーンは、哀願する。

「龍。

 いいから、やっちゃいなさい。」

イングリッドの声には、剣があった。

セイレーンの台詞に明らかに怒っている様に龍には思えた。

龍は頷き、セイレーンに近づく。

セイレーンは、まだ、体の自由が利かないのか、龍から逃げようと背中を向けて、四つん這いになり、もがく。

自分が暴行犯になった様な気がして龍の動きが止まると、すかさず、イングリッドの叱責が飛ぶ。

「セイレーン、さっき説明したでしょ!

 大人しくして!

 龍は気にしないで、やっちゃって。

 それが、セイレーンにとっていい結果になるから。」

『いい結果になる』と聞いて龍は気力を振り絞り、お尻を龍の方に突き出す格好をしているセイレーンに近づき、ガウンをめくると、丸く小さい形のいいお尻が顕になる。

セイレーンはビクっと体を振るわすがイングリッドに言いくるめられているのか、じっと耐えている様だった。

龍はセイレーンの内腿に手を入れて、脚を開かせると薔薇の花の様な花弁が現れる。

それを見ると萎えていた龍の花糸が元気に大きくなっていく。

そっと花弁に触れると、渇いていた花弁の中心から液体が少しずつ溢れ花弁を濡らして行く。

「いや。

 だめ、勘弁してください。」

セイレーンはか細い声を出すが覚悟したように、逃げる素振りは見せなかったが、形のいいお尻が震えている様だった。

そして、背後からガウンを脱がす。

龍はもう一度、イングリッドの方を見る。

イングリッドは、ただ首を縦に動かすだけで、何も言わなかった。

龍は覚悟を決めて、イングリッドに頷き返すと充分に大きくなった花糸を片手で支え、セイレーンに近づく。

イングリッドはそっと席を立ち、部屋の外に出て行った。

二人きりになると、グレーシーソフィやアクアとはまた違った魅力のセイレーンを目の前にして龍の胸は興奮で高鳴るようだった。

龍の液体で光っている葯の先が花弁の中心に触れると、セイレーンはビクンと顔を上げるが龍の方からは、表情は見えなかった。

セイレーンの花弁から微かに香る甘い香りに龍は興奮していく。

そして、セイレーンの華麗な形のお尻を両手で押さえると、花弁の中にいきり立った花糸の先端の葯を埋めていく。

「嫌ぁ

うぅ」

セイレーンは小さく悲鳴を上げると、顔を下げ、身体を支える両腕に力を入れる。

ズズズ

龍は構わず葯を花弁の中に埋めていく。

セイレーンの花弁の中は、グレーシーソフィが箱から出て来た時と同じ様にまるで温かなゼリーの中に葯を突き刺すような感覚だった。

「ううう」

セイレーンは声にもならないうめき声をあげる。

龍が突き刺すと崩れない様にセイレーンは力を入れて、抜こうとすると力が余って龍の方に体が寄って来る。

顔は見えないが、突く度に「うぅ」と苦しそうなうめき声を出す。

一方、部屋から出て行ったイングリッドは違う部屋で冷静に何かモニターをじっと見ている。

そして、龍は、セイレーンの中に全てを放出する。

龍から流れ込んだ液体がセイレーンの体の中心を突き進み、そして四散していくようだった。

それを見終わるとイングリッドはが慌ただしく席を立つ。

龍はそっと、セイレーンから離れ、しばらくすると、セイレーンが苦しそうに体を振るわす。

「セイレーン!

ここに出しなさい。」

いつの間に部屋に戻って来たイングリッドが、ガラスの様な容器を取り出すとセイレーンに渡し、セイレーンはその容器のなかに黒い液体を大量に吐き出した。

黒い液体が入ったガラスの容器をイングリッドに渡すとセイレーンは、ぐったりとうつ伏せになる。

「これで全部かしら。

 龍、念のために、セイレーンが動けるようになったらもう一回ね。

 私は、向こうの部屋でこの液体を分析しているから。

 なんかあったら呼んでね」

イングリッドはご機嫌で部屋から出て行く。

ふとうつ伏せになっているセイレーンを見ると、寒いのか、はたまた泣いているのか、綺麗な背中を見せながら裸の体を震わせていた。

龍は寒いのかと思い、セイレーンに抱き着くように横になると毛布で包む。

「セイレーン、大丈夫?

 具合が悪いの?

 寒いのかな?」

「え?」

セイレーンは驚いたように顔を上げ、龍を見つめる。

その眼は涙で潤んでいた。

「泣いていた?

 痛かった?」

「ご、ご主人様、なんで私に…

 私を心配してくれるのですか?」

「へ?

 当たり前だろ。

 まだ、体が出来ていないのに、ごめんな。

 それと、ご主人様じゃなくて龍だ」

龍は優しくセイレーンを抱きしめる。

セイレーンの体は少し冷えていた。

「ほら、冷たくなって。

 風邪を引いたらたいへんだ」

「龍…

 龍は優しい?」

「え?」

「ご、ごめんなさい。

 私何を言っているんだろう。

 なんか変な気持ち…

 こんなの初めて」

「セイレーン」

「龍…

 温かい。

 腕の…中に入っていいですか?」

セイレーンはにじり寄ると龍の腕の中に入ろうとする。

龍は腕を広げセイレーンを呼び込むと、優しく抱きしめる。

「優しいんですね…

 私、フェアリーなんですよ?」

「だから?」

「玩具で、食料なんですよ。

 それに何かあっても再生の箱で何度でも再生します」

「別に君たちは玩具じゃないよ。

 食料でもないけど、君たちがいないと僕は生きて行けないみたいだから、その点は申し訳ないと思っている。」

「龍。

 本当にそう思っているんですか?」

龍は頷き、セイレーンの髪を撫でる。

セイレーンはそれ以上何も言わずにじっと髪を撫でられている。

10分ほど経つと、セイレーンの体に温かさが戻り、ほんのりといい香りがしてくる。

「龍…

 お願いがあります」

「ん?」

「もう一度、してくれますか?」

「え?」

「もう一度私を抱いて、私の中に…、その…あれを中に…出してもらえますか?

 イングリッドが言ったように、黒い液体を吐き出したら、何か気分が良くなってきたような不思議な気分になってきて。

 でも、まだ、体が出来ていないので、優しくしてほしいのと、あまり…

 その…

 龍にとっては気持ち良くないかも知れませんが、全部出してしまいたい…」

「龍。

 今のセイレーンは刺激したりしないで、入れて出すだけにしてあげてね」

部屋の天井辺りからイングリッドの声が聞こえた。

「わかった。

 セイレーン、いい?」

「はい。

 四つん這いがいいですか?」

「へ?」

「あ、ごめんなさい。

 変なことを聞いてしまって」

「このままでいいよ。

 セイレーンの顔が見えたほうがいい」

「まぁ」

セイレーンは恥ずかしそうな顔をした。

そのまま龍は片手をセイレーンの腿の間に滑り込ませ、そして、上にずらし、花弁に触れる。

少し、花弁を撫でていると、少し湿っていた花弁がぐっしょりと濡れてくる。

それを感じると龍の花糸も葯も大きくなってくる。

龍は体を起こし、セイレーンに覆いかぶさるような格好になると、葯をゆっくりと優しくセイレーンの花弁に差し込んでいく。

「うっ」

差し込んだ瞬間、セイレーンは小さく声を出したが、表情は少し眉間に皺を寄せるくらいだった。

そして、ゆっくりと出し入れをする。

セイレーンの中は、相変らず温かなゼリーのようだったが、先ほどより少し硬くなってきた気がした。

しばらくすると、セイレーンの唇が少し開いて来る。

それが妙に艶っぽく見え、龍は、そっとその唇を吸う。

「う、うう…」

何かのスイッチが入ったように、セイレーンは声を漏らすようになり、表情も眉間に皺をよせ、切なそうな顔をするようになる。

また、声を漏らすたびに龍の葯や花糸は優しく締め付けられる気がしてくる。

そして、再びセイレーンの中に龍は全てを放出する。

「あ、あうう」

セイレーンは体をのけぞらせ、龍の全てを受け込んでいるようだった。

「大丈夫」

「は、はい…」

龍が体を離すと少ししてセイレーンは息を乱し、汗が滲んでくる。

「イングリッド」

「はいはい。

 今行くからね」

イングリッドが再びガラスの容器を持って入って来る。

その容器にセイレーンは再び黒い液体を吐き出す。

ただし、一度目よりもはるかに少ない量で、色は赤黒かった。

「これで、全部出たって感じね。

 龍。

 たぶん、セイレーンは呪縛が全部解け精神的に不安になるはずだから、あと一日はセイレーンの傍から離れないでね。

 お願いね」

「わ、わかった」

そう答えているそばで、龍は手首をセイレーンに掴まれているのを感じた。

掴んでいながらセイレーンは無邪気な顔で寝息を立てていた。

しばらくしていつの間にか眠っていた龍は、横でゴソゴソと動く気配に目を覚ます。

「あ、ご主人様…

 龍でいいんでしたっけ?」

セイレーンが困った顔をする。

「ああ、龍でいいよ」

「お腹空いたんじゃないですか?

 お食事、どうしましょうか?

 研究所の場合、ご主人様が選んで届けられた食事をお運びするのですが、ここではどうしたらいいでしょうか?

 イングリッドさんにお尋ねすればよろしいですか?」

「イングリッドでいいわよ。

 後で運んであげる。

 お腹が空いていたら、そこのお菓子を食べててね」

ベッドの横のテーブルにいつの間にか水の入っているポットとクッキーのようなお菓子が置いてあった。

「龍。

 何か召し上がりますか?

 そうだ、好みかわかりませんが私のブルームネクタをお飲みになりますか?」

そういうとセイレーンは龍に背中を向けて胸を触り、何かを確認しているようだった。

「あら?

 出ない!

 なんで?」

「どうしたの?」

「は、はい。

 召し上がっていただこうと思っていたブルームネクタが出なくって。」

胸を抑えてセイレーンは困惑した顔をする。

「いつも出るの?」

「はい…

 あの、グレーシーソフィさんも同じでは?」

「いや。

 グレーシーソフィは僕のエネルギーが減った時、飲ませなくっちゃと思う場合だけ胸から出るって言ってたっけ。

 それにブルームネクタは何も胸からだけじゃないから…」

そう言いながらグレーシーソフィとアクアの体を思い出し、龍は少し恥ずかしくなった。

「胸からだけじゃない…

 ああ、呼気からですね。

 でも、それだけじゃ…」

(いや、呼気からだけじゃないけど)

龍は言おうとしたがとどまる。

「でも、困ったわ。

 では…

 私の…、私を食べますか?」

セイレーンは今にも泣きそうな顔で言う。

「ば、ばかな!

 なんでそんなことを。

 食事だってイングリッドが持って来てくれるって」

「だって、食事と言っても、普通の食事ですよね。

 それだと龍の生命力が維持できないじゃないですか」

「いや、それなら僕にはグレーシーソフィやアクアがいる。

 彼女たちのブルームネクタで十分足りるよ」

「そ、そんなこと言ったら、私のここでの存在価値が無くなってしまいます。

 そ、そうだ。

 私、なぜか体の調子が良くなったんです。

 龍の好きなことを言ってください。

 何でもします。

 胸で龍のものを挟んで擦りましょうか?」

「へ?」

「前の“ご主人様”が良く命じられて。

 手で扱いたり胸で挟んだり…。

 何をすればよろしいですか?」

必死の形相で訴えるセイレーンを龍は優しく抱きしめる。

「え?

 りゅ、龍?」

「何を言っている。

 セイレーン。

 セイレーンはここでは人に命じられてその通りに動かなくてもいいんだよ。

 自由でいいんだよ」

「自由?」

「そうよ」

いきなりイングリッドが食事を持って入って来る。

「ここでは、あなたは私たちと対等の関係。

 自由に自分の思った通りに振舞っていいのよ。

 それにあなたの存在価値は、食事?

 フーマの慰み者?

 そんなつまらないものじゃないわよ。

 あのグレーシーソフィがあなたを見て連れて帰るって言ったのだから、何かあるわ。

 特にあなたたちフェアリーは隠れた能力があるのだから」

「隠れた能力?」

「ええ。

 グレーシーソフィやアクアは目覚めつつあるわ。

 あなたはどんな能力があるかしらね。

 ただ、きっとその能力を開放するには、龍の助けが必要になるかしら」

「龍が?」

「へ?

 僕が?」

いきなり降られて龍は困惑する。

「まあ、その前に、セイレーンには、少し私の研究材料として協力してね」

「は、はい」

セイレーンはよくわからなかったが、何となく気持ちが軽くなった気がした。

(私は自由?

 好きなことが出来るの?

 もしかして、本当に殺されなくていいの?)

「まあ、取りあえず、しばらくゆっくりしてね。

 今晩は、龍に付き添ってもらうから、何か体調が悪くなったりしたらいいなさいね」

「はい」

「さあ、今晩は、寂しがり屋の二人の面倒を見てあげなくっちゃ。

 じゃあ、龍、あとはお願いね」

そう言い残すとイングリッドは手を振りながら部屋を出て行く。

「龍。

 お食事にしましょう。

 …

 でも、何か着ませんか?」

「お、そ、そうだな」

二人は全裸だったことに気が付き慌ててイングリッドが用意したガウンを羽織る。

「さ、食事にしましょうね。

 なんだか、お腹が空いちゃった…え?」

セイレーンは驚いて目を見開く。

「ん?

 どうした?」

「い、いま、私、お腹が空いたって…」

「ああ、言ってたよ。

 僕も腹が減ったから、セイレーンもお腹減ってもおかしくないよ」

「ううん。

 お腹が減ったなんて、初めてなの」

「へ?」

「いつもそんなことなかった…」


「ふーん。

 上級フェアリーだからかしら。

 龍の体液に、すぐに体が対応したのかな」

イングリッドは別の部屋で、モニターを見ながらつぶやく。

「身体も、もう、固まってきているわね。

 さてさて」


「美味しい。

 この食事、美味しいですね」

セイレーンは龍と食事をしながら興奮気味に話す。

「今まで、こんなに美味しい食事を食べたことなんてなかったです」

「シビエ料理だけど、料理長の腕が良くて、いつも美味しいよ。

 それに素材は、アクアとグレーシーソフィが捕って来るんだ」

「そうなの?

 じゃあ、料理はイングリッドが?」

「ああ」

「すごい。

 イングリッドって何でもできるんですね。

 それにグレーシーソフィさんやアクアさんまで」

「セイレーン。

 この中のメンバーは「さん」付けはいらないよ」

「そうなの?

 じゃ、私のこともセイレーンて呼んでくれるかな」

「ああ」

「素敵!」

それから5、6口食べたところで、セイレーンは手を止める。

「どうした?」

「ううん。

 美味しかったんだけど、なんだかすごく疲れちゃって。

 もう、ご馳走様です」

それからセイレーンは龍の食事が終わるまで、甲斐甲斐しく飲み物など世話をする。

食べ終るとイングリッドが片付けにやって来る。

「セイレーン、少しは食べれた?」

「はい。

 美味しかったんですが、疲れちゃって」

「まあ、そうね。

 無理しないで。

 徐々に食べれるようになると思うから。」

「はい」

少ししてセイレーンはだるそうにする。

「セイレーン、無理しないで、今日は休もう」

龍はだるそうなセイレーンを見て、ベッドで休むように言う。

「龍。

 本当に、あなたは優しい人ですね。

 こんなに私を気遣ってくれて」

「そうか?」

面と向かって言われると龍は恥ずかしく思った。

セイレーンはじっと龍を見つめる。

「セイレーン?」

「龍、すみません。

 少しだけじっとしていただけますか?」

「あ、ああ…」

セイレーンは龍を見つめながら何かを読んでいるようだった。

(凄い。

 何、このログの量。

 ログ自体、見たことはほとんどないし、あっても、そのフーマの嗜好だとかセックスの好みだとかが短く書かれているだけなのに…。

 龍が話したこと、龍がフェアリーにしたこと、全部書かれている。

 ちゃんと、次に会うフェアリーに龍を紹介している。

 龍って、こんなにやさしいフーマなんだ。

 ログを書いたフェアリーたちは、皆、龍のことを…。

 いい人、私たちの味方。

 信じられる人…)

セイレーンは視線をずらし、龍の目を見つめる。

「一緒に寝てくれます?

 龍は、その…温かくて気持ち良くて」

甘えた声とともに、セイレーンから甘い良い匂いがして来て、龍は思わず興奮する。

「セイレーン」

龍の態度でわかったのか、セイレーンは恥ずかしそうな顔をして、両手を広げる。

「セイレーン」

龍はセイレーンの名を呼ぶと、しっかり抱きしめ、そのままベッドに倒れ込むようにして覆いかぶさる。

「龍。

 優しくしてくださいね」

セイレーンが嬉しそうな顔をする。

セイレーン本人もログを読んだせいなのか、なぜだかわからなかったが、龍に心の安らぎを覚え、龍を迎え入れたいと望んでいた。

龍は自分のガウンを脱ぎ裸になると、自分の下のセイレーンのガウンの紐をほどく。

セイレーンは抵抗することなく、逆に龍にほほ笑む。

ガウンの下からきめの細かな白い肌、丸く形の良い胸、細く締まった体と見ただけでうっとりするほど綺麗だった。

その体が先ほどと全く異なり、ほんのりと赤みをさし、しっとりと濡れ、ほんのり甘い花のような香りが湧き上がって龍の肺を満たすと龍は増々元気になってくるようだった。

「変…

 何か体が変なの…

 それに、それに…

 龍、軽蔑しないでくださいね。

 私、今、初めて、心の底から龍に抱かれたいと思っているの。

 私たちフェアリーには、そんな感情はないと教えられてきたのだけども。

 抱かれたいと思うと、体の芯が熱くなってきて、何かが肌から…

 これもブルームネクタなの?

 龍」

龍は両手でセイレーンの両手を握るとセイレーンの頭の高さまで上げさせ、首筋に顔を埋めると、セイレーンの首筋に光るブルームネクタを舌で舐め取り、そして首筋を吸う。

「ひぃ」

セイレーンは吸われた首筋を中心に体に電気が走ったように感じ体を捻じる。

龍は構わず首筋に舌を這わせ舐め取りながら吸っていく。

「ああ…

 い、いや…

 体の奥から何かが溢れて行くぅ…」

龍が吸っても、直ぐにブルームネクタで湿っていく。

セイレーンのブルームネクタはグレーシーソフィ達と同様にさらさらしていて、ほんのり甘くいい香りがする。

丹念に首筋を舐め取ると、龍はセイレーンの顔を覗き込むとセイレーンはうっとりした顔で、息が少し上がっていた。

セイレーンの頬や額、鼻に優しくキスをするとセイレーンは嬉しそうな顔をする。

そして、セイレーンの唇に自分の唇を重ね、舌でセイレーンの舌を探す。

龍の手を握るセイレーンの指に力が入ると同時に、セイレーンが自分の舌を龍の舌に絡めてくる。

龍も負けじと舌を絡め合い、お互いを吸い合う。

セイレーンは手を振りほどくと、龍の首に回し、頭を抑えるようにして夢中になって龍の舌に絡めてくる。

セイレーンの舌は細長く龍の舌に、巻き付くように絡み、龍を刺激する。

より興奮を高め合うと、龍は唇をセイレーンの首から下に這わせ、ブルームネクタを舐め取り吸っていく。

その度に、セイレーンは電気を浴びたように体を震わせ、切なそうな声を上げる。

(なんで、私はこんなに乱れているの?

 今までは、ご主人様を喜ばせるだけで、自分は何も感じなかったのに…

 今は、自分に夢中になっちゃう)

龍の口がセイレーンの脇にたどり着く。

セイレーンはどうなるのだろうと恐る恐るでも期待を込めて、腕を上げ、脇を露わにする。

セイレーンの脇の下は手入れされているように綺麗で、良い香りがする。

たまらず龍はしゃぶりつく。

「あっ!

 そんな、いやっ!」

そう言いながらセイレーンは目の前に火花が散ったようで体を震わせ動けなかった。

それから、龍はセイレーンの丸くて形の良い乳房にたどり着く。

散々、乳首の周りに刺激を与えた後、乳首を片方ずつ口に入れ、舌で転がしたり、吸ったりする。

「いやぁ…

 だめ、でちゃう」

半狂乱になりセイレーンは訳の分からないことを口走る。

セイレーンの手は、常に龍の頭を触り、感じるところに来るとその手に力が入るので龍はどこが感じるのか、わかるようになっていた。

硬くなった乳首から甘い液体が少し口の中に広がる。

それは美味で、龍の興奮を更に高める。

十分興奮した龍は次の場所を求めて下がっていく。

初めからだが、セイレーンは龍が何をしたいのか、何を求めているのかを察知し、龍がやりやすいように体を器用にずらしていた。

前の“ご主人様”でも同じことをしていたが、“ご主人様”は胸までしか口を付けず、下腹部は触れるだけだったので、龍のようにそのまま口や舌で下腹部を触られた経験はなかった。

なので、龍がどんどんと下腹部に向かって下がっていくのを助けながら、何をされるのか、好奇心と恐れで胸が高鳴っていた。

(なにをされるのだろう…

 噛まれたり、痛いことをされるのかな。

 いえ、龍に限って、そんなことしない。

 じゃあ…)

龍はセイレーンの足元に回ると、セイレーンの両膝に手を差し入れ、脚を左右に開かせる。

「だ、だめ。

 恥ずかしい」

セイレーンは、自分の花弁が龍の目の前にさらけ出されるのに今まで感じたことのないほどの恥かしさを感じた。

それは“ご主人様”に見られたり、触れられたりされた時には感じなかった感情だった。

「あう」

セイレーンは内腿の柔らかいところに龍の唇を感じ、思わず声を出す。

セイレーンの予想していた通りに噛んだり痛くするわけではなく、優しく舌で擦れ、口で吸われ、その度に思考回路が飛びそうになるのを必死にとどめる。

龍が花弁に向かって上がって来ると、さすがにセイレーンは気持ちよさとこれから感じるであろうことを予測するとパニックになる。

そして、それを思えば思うほど、体の芯が熱くなり、花弁からブルームネクタが滴り落ちるのを感じる。

「りゅ、龍。

 恥ずかしい。

 見ないでください」

龍の指が花弁に触れるとセイレーンはのけぞるようにして体を震わす。

指で花弁を触り、花弁の中央の穴に指を入れる。

「痛い!」

「あ、ごめん」

「い、いえ

 へん、へんですね…」

セイレーンにも、なぜ痛みを感じたのか全く分からなかった。

「あ」

今度は花弁に龍の息がかかる。

「な、なにを…

 ひ、ひぃ」

龍は花弁の中央からにじみ出ているブルームネクタを舐め取ると、じっくりと舌で花弁を刺激し、また、滲み出てくるブルームネクタを吸うということを繰り返す。

「りゅ、龍。

 だ、だめです!!

 私、本当におかしくなっちゃう

 あぁぁ、やえてぇ」

言葉とは裏腹にセイレーンを龍の頭に置いた手に力を入れ、龍を花弁に押し付ける。

(こんなの、こんなの、初めて。

 なんで?

 こんなこと今まで一度も…

 う、嬉しい?

 う、うん、嬉しい)

セイレーンが何度か痙攣を起こすと、龍は上半身を起こす。

セイレーンは、何もかも吸い取られたかのようにぐったりしていた。

そして、龍がセイレーンの脚を更に開かせる。

セイレーンはぼやっとした頭で、龍のなすがままになっていたが、龍の大きくなっている葯を見て、思わず脚に力を込める。

(な、なに、あれ?

 “ご主人様”のとは雲泥の差!

 なんて大きさ。

 なんて太さなの。

それに、さっきより数段と大きい。

 あんなの私の中になんて無理よ)

いつも相手をしていた“ご主人様”のとは赤ん坊と大人の差くらいあるように見え、思わず恐怖する。

しかし、龍が腕に力を入れると、セイレーンはあっという間に力負けし、脚を開いてしまう。

「お、おねがい…

 やさしくしてください…」

拒むことはできず、セイレーンは自分に向かってくる大きな龍の葯を見ながら哀願するようにいった。

その葯の先は濡れて光っていた。

龍の葯がセイレーンの花弁の中心に触れる。

「うっ」

セイレーンがくぐもった声をだす。

ズブズブズブ

龍はセイレーンの可憐な花弁を引き裂くように大きくなった葯を埋めて行く。

「い、痛い、痛い

 りゅ、龍、優しくして

 おねがい」

セイレーンの花弁から花柱にかけて引き裂かれるかと言いうほどに痛みが走る。

そして、龍の葯はセイレーンの途中に壁のようなものを感じたが、一気に突き破り、奥まで差し込む

「いやー!!

 い、痛いぃ」

しかセイレーンの感じた劇痛はそこまでだった。

「…

 え?!」

すっと花弁から花柱にかけての痛みがなくなり、しっかりと龍の葯と花糸を感じていた。

そして、その葯が動き出すと、今まで感じたことのない快感がセイレーンを襲う。

(な…、なに?

 この感じ…

 気持ちいい…

 なんてものじゃ…ない…

 う、嬉しい…)

セイレーンの目から歓喜の涙が流れ落ち、龍はそっと舐めとる。

セイレーンの体は、グレーシーソフィやアクアとはまた違った気持ちよさがあり、龍は夢中で腰を動かす。

セイレーンもそれに合わせ腰を動かし、二人は至福の時間を分け合う。

そして、龍は大量の体液を一気にセイレーンの中に流し込む。

「あっ!

 ああ…」

セイレーンを体をそらし、龍の体液を体の中へ中へと迎え入れ、すべて吸い尽くしていく。

それは、龍にとっても快楽の時だった。

セイレーンは龍を離すまいと手と足を龍に絡め、力を入れ抱きつく。

しばらくしても一向にセイレーンは龍を離さなかった。

それどころか、セイレーンの体からブルームネクタの甘い香りが強く湧き上がってくる。

すると、少し小さくなり始めた葯が再び大きくなる。

「セイレーン…」

龍の戸惑った声が聞こえる。

「はい…

 大丈夫です。

 私からも、お願いします…」

「セイレーン」

「…」

セイレーンが優しく微笑んで頷くと龍は大きくなった葯を再びセイレーンの中で動かし始める。

そしてより激しく、より優しく龍はセイレーンを愛撫していく。

セイレーンは、快楽に夢中になり、龍の背中に爪を立てたり、腕を軽く噛んだり、自分でも信じられない行為を無意識にしていた。

そして、再び、龍は大量の体液をセイレーンの中に放出する。

セイレーンは体を痙攣させながら、龍の体液を体の奥へ吸い込んでいく。

しばらく抱きついていたが、小さく息を吐くとセイレーンは力を抜く。

「セイレーン?」

龍はセイレーンの体の上に乗ったまま、セイレーンの顔を覗き込む。

「気持ち…いい…

 で、でも…ごめんなさい…

 私、私ばかりで…

 龍に、何もしてあげられずに…」

セイレーンはすまなそうな声を出す。

「何言っているんだ。

 僕のほうこそ、好き勝手にしてしまって」

「ううん。

 私、こんなの初めて。

 すごく気持ちよくて、融けちゃいそう…

 龍は、少しは楽しめましたか?」

「ああ、凄く良かったよ」

「良かったぁ」

セイレーンは、心から安堵したようだった。


「へぇ~。

 さすがに上級フェアリーっていうところかしら。

 あの子、もう、第二の口が開いている。」

隣の部屋で、イングリッドがモニターを見ながら感心した声を出す。

「さて、あの黒い液体の分析結果が出たわね。

 …

 やっぱり、宿主に寄生し、寄生した宿主の体を乗っ取ってしまうマッソスポラ菌に似た菌ね。

 この前のチーラ達に寄生した菌とは少し違うかしら。

 どちらにしても、この菌を植え付けて宿主を支配していたのか。

 グレーシーソフィたちが言っていた「天の声」の正体ということかしら。

 再生の箱で再生する際に、一緒に植え付けられていたのね。 

 でも、なんで龍の体液が体に入ると、吐き出すのかしら。

 明日は、セイレーンに協力してもらって龍の体液を採取しないと。

 あの子たちの体の中に放出する体液は、この前、私の体に放出したものとは違うみたいだから」

そう言いながらイングリッドは気持ちよさそうに抱き合って寝ている龍とセイレーンをモニターで見ていた。


翌朝、龍とセイレーンは、二人で朝食を食べていた。

二人でというのは、イングリッドの指示。

環境が変わって精神的に不安定になることを考え、いろいろなことを理解し落ち着くまでは、龍と二人っきりの方がよいという判断だった。

当然、龍にもセイレーンのことだけを見ていて支えるという役目がら、グレーシーソフィやアクアには会うことができなかった。

グレーシーソフィやアクアはイングリッドから説明を受け、納得していたが、やはり龍に会えない寂しさからか、元気がなかった。


「美味しい!」

スクランブルエッグを口に入れたセイレーンが笑顔を見せる。

「そうだろう。

 これは、アクアが作ったスクランブルエッグだ。

 ほんのり甘くて美味いんだ」

「へぇー。

 アクアさんも料理上手なんだ。」

感心した顔を見せるセイレーン。

「私は、料理なんてしたことないな。

 どちらかというと、されるほうだから」

「え?」

二人は朝食を食べ終わった。

「私たちフェアリーの体の寿命は、2~3か月なの。

 食べ物を口にしても、どんどん体力がなくなってきて、体も老化していくのよ。

 前の“ご主人様”は私以外にもう一人、フェアリーを飼っていたの。

 黒髪で可愛らしい子。

 “ご主人様”は、その子の方を気に入っていたみたい。

 その子がいる時は、私は世話焼き担当で、玩具はその子の方だったから。

 その子が再生の箱に入っている間は、私が玩具だったけど、単なるはけ口…。

 それが、私の役目だからいいのだけれど…。

 それで、2か月経過すると、私は“ご主人様”に殺され、再生の箱に入れられる。」

「殺される?」

「正確に言うと、専門のチームに引き渡され、そこで首を切り落とされ、頭は再生の箱、体は精肉され“ご主人様”の食事になるの」

「な、なんだって?!」

「そのせいか、“ご主人様”は年の割には若さを保っているのよ。

 年齢はとっくに百歳を超えているのに、見た目は30台だから」

「フェアリーたちの体はIPS細胞のような特殊な細胞で加工されているのよ。

 それをフーマが体の中に取り込むと、老化していた細胞を新しく作り直していくの。

 だから、若さを保つことができるのよ。」

「イングリッド?」

いつの間にかコーヒーを持ったイングリッドが入って来ていた。

「食後にコーヒー持って来たわ。

 どうぞ」

「ありがとうございます」

セイレーンはお辞儀をしてコーヒーを受け取る。

「若さを保つために、摂取する量も大事みたいなの。

 多過ぎると逆行してしまう」

「赤ん坊に戻るのか?」

「ううん。

 骨格は変わらないからそれはないわ。

 でも、脳細胞が若返り過ぎて弊害が起きるみたい」

セイレーンの言葉をイングリッドはじっと聞いていた。

「フェアリーたちは、再生の箱で見た目は再生されるけど、中身はいい加減なの。

 例えば、食物を経口摂取しても消化し、吸収する器官がないとかね」

イングリッドが眉間にしわを寄せて話す。

「はっきり言って、腎臓も機能していないから体液、ブルームネクタもかしら、どんどんと老廃物がたまってきて、結局、3か月くらいで体の機能が止まってしまうのね」

それを聞き、セイレーンは頷く。

「ひでぇ。

 それじゃ、本当に食物じゃないか」

龍は怒りを覚える。

目の前のセイレーンは、耳の形は尖っているだけで、他は全く人間と変わりがなく、また、目の前のセイレーンだけでなく可愛いグレーシーソフィたちの顔を思い出すと、食料、玩具とだけ生かされ、かつ、3月ごとに殺され、再生させられると思うと我慢ができなかった。

怒りをあらわにしている龍を見て、セイレーンは微笑む。

「ねえ、セイレーン。

 昨日会ったグレーシーソフィやアクアは再生の箱を出てどのくらい経っていると思う?」

「え?」

イングリッドの問いにセイレーンは会った時のグレーシーソフィやアクアの顔、姿を思い出していた。

「あの瑞々しさだったら、1か月くらいかしら」

「残念でした。

 私と出会って半年だから、もう少しかしら」

「え?!

 半年以上?

 嘘」

「嘘じゃないわ。

 若いでしょ。

 最初は、皆と同じように体の中はいい加減だったの。

 それが少しずつ改善されてきているの。

 今は、生命を維持する器官が60~70%機能し始めているのよ。

 それに足りなかった臓器も出来てきているの」

「な、なんで?

 どうして、そんなことが?」

「うーん。

 まだ、何とも言えないけど、どうも龍が影響しているみたいなのよ」

「お、俺が?」

今度は龍が驚いた声を上げる。

「そう。

 あなたがこの子たちに注ぎ込んでいる液体がね」

「え?

 じゃあ、私も?」

セイレーンは自分の体を見る。

「そうよ。

 龍のを受け入れた後、体の調子がいいんじゃない?」

「は、はい」

「さっき、セイレーンの体の中を見てみたけど、臓器の配置が変わってきているし、働きが上がってきているわ。

 口に入れたものが美味しく感じられるのは、働きが上がってきたことの表れでいいことよ」

「じゃあ、私、3か月以上生きられるの?

 フーマのように生きられるの?」

「そうよ。」

(もしだめでも、再生の箱があるから大丈夫よ)と付け加えようとしたが、イングリッドはその言葉を飲み込む。

目の前のセイレーンの顔は、輝きを増してきているようだった。

「だから、しばらくは研究に協力してね。」

イングリッドの言葉にセイレーンは大きく、そして力強くうなずく。

「龍も、ね」

「ああ。

 僕にできることなら、フェアリーたちのためになることなら、なんでも協力するよ」

「ありがとう。

 まあ、龍にしかできないことだからね」

「え?」

それからしばらくして、セイレーンはイングリッドに違う部屋に連れていかれる。

「ごめんね、セイレーン。

 こんなことお願いして。

 痛くない?」

手術台のようなところで横になっているセイレーンを見下ろすようにイングリッドはすまなそうに声をかける。

「ううん。

 大丈夫です。

 研究のお役に立てるならば何でもします」

「ありがとう。

 本当は、今は一滴も残さずに吸収した方がいいんだろうけど…

 そのあとは、優しくしてもらって、思いっきり吸収してね」

「え?

 ええ…」

セイレーンは顔を赤らめる。

「よし。

 じゃあ、龍のところに戻ろう」

「でも、龍さん。

 抱いてくれるかしら」

「大丈夫よ。

 あなた、上級フェアリーじゃない」

「イングリッド。

 その呼び名、やめてください」

セイレーンは真顔で言う。

「わかったわ。

 じゃあ、あなたは綺麗で可愛いから、何もしなくても、龍はメロメロよ」

「そうかしら…」

明らかに嬉しそうな顔をする


「え?」

イングリッドとセイレーンが龍のいる部屋に戻って来る。

「抱く?」

「そうよ。

 いいでしょ?」

イングリッドがもじもじするセイレーンを龍の前に押し出す。

「な、な…」

「協力するっていったでしょ」

「う、うん」

「あ、あの…

 私のこと、嫌ですか?」

セイレーンの声に龍は反応する。

「あお、そんなことない」

「じゃあ、魅力、ないですか?」

セイレーンは泣きそうな顔をする。

(へぇ~。

 この子、芝居上手なんだ)

イングリッドは感心する。

「な、なにを言っているんだ。

 とっても魅力的だ」

セイレーンの顔を見て龍は顔を真っ赤にして否定する。

「嬉しい」

セイレーンは龍の傍に膝まづくと、そっと手を握る。

セイレーンの顔は上気し、全身にじみ出たブルームネクタの匂いに包まれる。

(おや。

 演技だけじゃないのね。

 本気で龍に抱いてもらおうしてるわ)

二人を見てイングッドはそっと部屋をでる。

「龍…」

「セイレーン…」

セイレーンの甘いブルームネクタの匂いを胸いっぱいに吸い込み龍は思いっきり発情する。

そしてセイレーンの腕をつかむと抱き寄せ、ベッドの上に横たえると、上から覆いかぶさる。

セイレーンは嬉しそうに龍を迎え入れる。

それから二人は絡み合い、龍はセイレーンの中に体液を流し込む。

二人が余韻を楽しんでいると、イングリッドが入って来る。

「はい。

 お楽しみ中のところ、ごめんなさいね。

 セイレーン、こっちに来れる?」

「は、は…い…」

セイレーンはのろのろと体を起こすとガウンを羽織り、唖然とする龍を置いて部屋を出ていく。

「龍はそのままで、待っていてね。

 すぐにセイレーンを戻してあげるから」

「…」

「じゃあね」


手術台の上に横たわるセイレーン。

「ごめんね、セイレーン。

 すぐに済むから。

 せっかく、余韻を楽しんでいたのにね。

 それに、体の方も空振りさせてしまって。

 採取するのは今回だけだからね。

 あとは、たくさん吸収してね。」

「もう、イングリッドって。

 あ…」

セイレーンの花弁からゴムの風船のようなものを取り出す。

ゴムの中には、龍の体液が溜まっていた。

「まあ!

 私との時よりも、量が多いこと。」

イングリッドは苦笑いする。

溜まっている龍の体液を研究用の容器に移すと、イングリッドはセイレーンを起こし、龍の待っている部屋に戻る。


「さて。

 あとは、とりあえず…

 そうね、今日、明日は二人ともここに居て、好きなだけセックスして頂戴」

「へ?」

ストレートな言い回しで龍は目を丸くする。

「セイレーンの体の中にどういう影響があるか。

 龍の体液を吸収してね。

 それで、私の想定した通りかどうかを見てみたいから。

 うまくいけば、フェアリーたちの未来は明るいものになるわ」

「え?

 フェアリーたちの?」

「そうよ。

 だからしっかりね」

「え?

 あ、ああ」

その時、龍の手をセイレーンの温かい手が触れる。

「セイレーン?」

「龍。

 ふつつかなものですが、よろしくお願いします」

龍の横に腰掛け、セイレーンは潤んだ瞳で龍を見つめ恥ずかしそうな声を出す。

「セイレーン…」

「龍…」

イングリッドが部屋を出る時、二人はすでに抱き合っていた。


「やっぱり!」

イングリッドは興奮した様子で検査結果を注視する。

「構成要素はSSPF細胞じゃないの。

 これがフェアリーたちの体に入って、欠損している臓器や働いていない器官を働かせるようにしているのね。

 私の時は、普通の精液だったのに…

 ブルームネクタと関連があるのかしら。

 ブルームネクタに反応して、体液の要素を変える?

 すごいわ。

 そんなことができるんだ。

 でも、いままでのフーマには、そんなことできなかったのに…」

イングリッドは興奮して独り言を言いながら、分析結果の数値を食い入るように眺めていた


それから二日経った夜。

グレーシーソフィとアクアは二人で夕食をとっていた。

二人は、心なしか元気がなく、食欲もわいていないようだった。

「あれから龍と会ってもいないけど元気かしら。

 エネルギー、減っていないかしら」

「もう、グレーシーソフィったら。

 龍が相手をしているのは上級フェアリーのセイレーンよ。

 十分な量のブルームネクタを吸収しているはずよ」

「そうだけど…

 何だか寂しいなぁ」

「私も…」

「あら、二人ともまるでお通夜みたい。

 食欲がないの?」

イングリッドがやってきてしんみりしているグレーシーソフィとアクアに声をかける。

(まあ、仕方ないか。

 体の方も、再建が止まっているみたい。

 龍のを取り込まないと、やっぱり駄目なのかな…)

イングリッドは注意深く二人を観察する。

「あ、イングリッド。

 龍はどうしているの?」

たまらずアクアが尋ねる。

「龍?

 大丈夫よ。

 ちゃんとセイレーンの相手をして、私の研究に協力してくれているわよ」

「ならばいいけど」

「ねえ、イングリッド。

 龍はいつになったら、私たちの方に戻って来てくれるの?」

今度はグレーシーソフィが尋ねる。

「そうね。

 だいぶエビデンスが取れて、結果も良好だからそろそろかな。

 あとは、龍次第かしら」

「龍次第?」

「ええ。

 セイレーンが気に入って、離れたくないって言ったら、戻ってこないわね」

「…」

「…」

しょげかえるグレーシーソフィとアクアを見て、イングリッドは慌てて否定する。

「嘘よ、嘘。

 ちょっと二人をからかっただけよ」

「なーんだ」

グレーシーソフィの返事には力がなかった。

(そろそろ、まずいわね。

 二人の精神状態によくないわね。

 龍をお役御免にしないと。

 でも、龍とセイレーンは飽きもせず、いつもくっついているから。

 ひょっとして本当にセイレーン一人に夢中だったらどうしよう)

仕向けたイングリッドも一抹の不安を覚える。

「私たちのところに戻ってこないかな」

グレーシーソフィとアクアはベッドに横になって話をする。

「もし、イングリッドが言ったようにセイレーンが気に入って、私たちに見向きもしなかったらどうしよう」

「アクア…」

「だって、セイレーンは上級フェアリーだけあって、凄く綺麗で可愛いじゃない。

 龍がメロメロになってもおかしく無いわよ」

「そうかもね…。

 そうしたら、どうする?」

「うん…そうね…

 グレーシーソフィはどうする?」

「うーん。

 私たち、存在価値がなくなるってことだから、龍とお別れしないとダメかしら」

「…

 嫌だ

 …

 そんなの嫌だ」

「私だっていやよ。

 でも…」

そんなやり取りをして、二人は意気消沈のまま眠りにつく。


どのくらい経ったのか、真夜中、グレーシーソフィの布団の中に足元から誰かが入って来る気配を感じ、グレーシーソフィは目を覚ます。

「だ、だ(うぐ)」

声を出そうとしたグレーシーソフィの口が、大きな手でふさがれる。

「う、うう」

「しっ!

 グレーシーソフィ、僕だ」

「う?」

グレーシーソフィはそれが龍だとわかりおとなしくなる。

「ごめん、ごめん。

 手荒なことをして」

龍はグレーシーソフィに覆いかぶさったまま、手を口から話す。

「龍?

 どうしたの?」

「ん?

 …

 いや…

 …

 グレーシーソフィとアクアに会いたくて。

 イングリッドも、もういいと言ってくれて。

 本当なら、明日、グレーシーソフィやアクアが起きてからの方がいいかと思ったんだけど、つい、我慢できなくて」

「龍」

「ごめん。

 真夜中に」

「ううん。

 嬉しい」

龍の腕の中でグレーシーソフィの体温はみるみる上がっていくようで、温かさとグレーシーソフィのブルームネクタの香りが濃くなる。

(これだ。

 この香り。

 大好きなグレーシーソフィの香りだ)

そう思うと龍は我慢できずにグレーシーソフィを抱きしめる。

(あら?

 龍の生命力が下がっている。

 セイレーンと一緒だったはずだから、足りているはずなのに。

 …

 私じゃなきゃダメ?

 そうだったら嬉しい!!

 私のすべてを上げる)

初めは戸惑ったグレーシーソフィだったが、体の芯に火が付いたように体が熱く、胸が張ってくるのを感じた。

それから長い間龍はグレーシーソフィのブルームネクタを堪能するようにグレーシーソフィのすべてを貪り、グレーシーソフィはすべてを龍に与えていた。

そして龍は自分の葯をグレーシーソフィの花弁の中に埋めていく。

「い、(痛い!)」

龍を迎え入れた初めての頃のようにグレーシーソフィは強い痛みを感じていた。

そして痛みが絶頂に達し龍の葯が壁を突き破って来る感覚があった瞬間、痛みは嘘のように消え、その何倍もの気持ちよさがグレーシーソフィを突き上げてくる。

「あ、ああ…」

たまらずグレーシーソフィは龍にしがみ付く。

それが龍は激しく刺激し、夢中になってグレーシーソフィと一体化するように花糸から子房の奥深くに葯を突き入れていく。

「おーおー、二人とも夢中になっちゃって」

グレーシーソフィと龍の営みを別室のモニターで見ながらイングリッドは楽しそうな声をあげる。

「数日、離れていただけでグレーシーソフィったら処女膜まで再生しちゃって。

 でも、すぐに第二の口が開き龍を奥の子房まで引き込んで、その部分は覚えているってことね。

 おー、すごいこと。

 龍もセイレーンの時とは違うわね。

 やっぱり重ねた時間が長いからか、それとも…。

 おーおー、すごいこと。

 あんなに元気いっぱいグレーシーソフィの中に。

 こりゃぁ、グレーシーソフィは狂っちゃうわね。」

グレーシーソフィは龍にしがみ付き、龍のものをすべて吸収するかのように体を痙攣させる。

そして満足そうに体の力を抜いていく。

龍は、グレーシーソフィを横にするとそっと額や唇にキスをすると体を起こし、アクアの方を見る。

アクアは龍がグレーシーソフィを抱きしめた時から目を覚まし、じっと目を潤ませ二人を見ていた。

そして、龍が自分の方を見ると、しずしずとまるで魅入られたように膝立ちしながら龍ににじり寄っていく。

龍は腕を伸ばしアクアの腕を掴むと引き寄せ力いっぱい抱きしめる。

アクアの頬はうれし涙で濡れていた。

そしてグレーシーソフィと同じように龍はアクアの体、ブルームネクタを堪能すると花弁の中に葯をうずめていく。

「痛い、痛いよ、龍…」

しかし一線を突破すると快楽に変わることを龍もアクアも知っていたのでやめることなく突き進み、壁を突破するとアクアは快楽に身をよじる。

「アクアも、か。

 まあ、二人とも龍のあれを吸収して体が再生していっているから当然ね。

 アクアも嬉しそうなこと。

 ほーら、龍のがいっぱい体に入って来て。

 よかったね、二人とも」

そう呟くとイングリッドはモニターの電源をオフにし、部屋の明かりを消す。

「龍…」

セイレーンのいる部屋では、セイレーンが安心しきった顔で毛布にくるまって寝ている。

龍とグレーシーソフィとアクアのいる部屋だけ夜通し電気がついていた…。

(ふぅ。

 サスペンション、分けておいてよかったわ)

どこからかイングリッドの声が聞こえた。


翌日。

初めてセイレーンを交えた5人での生活が始まる。

最初セイレーンは遠慮がちだったが、グレーシーソフィが何かにつけセイレーンに話しかけ、すぐに打ち解ける。

「え?

 ブートキャンプを1か月延長する?」

「そうよ、アクア。

 セイレーンの体の具合を慎重に見極めないとね」

「何か心配ごとでもあるの?」

「うん。

基本的にはあなたたちと一緒なんだけど、セイレーンは上級フェアリーだけあって体のつくりがあなたたちと少し違うみたいなの。

はっきり言うとあなたたちよりも早く完熟して枯れていくっていうのかしら。

急激に発育し、玩具としてフーマを歓ばせ、そして味が落ちる前に刈り取られる。

そんな感じかしら」

「ひ、ひどい」

グレーシーソフィは眉間にしわを寄せ、セイレーンの手を握る。

「私たちの存在意義は…」

何かを言いかけグレーシーソフィはちらりと龍を見て口を紡ぐ。

「グレーシーソフィ、大丈夫よ。

 それに龍のようなフーマがいるってわかったから」

セイレーンはニコッとグレーシーソフィと龍を見て笑いかける。

「で、セイレーンの体は?」

アクアが先を促す。

「そう、だからセイレーンの体の変化があなたたちより早いのよ。

 あなたたちも急激に体に変化が現れたけど、まだ憶測だけど、基本的な機能が動くところまで来て、あとは負担にならないように緩やかになったような気がするの。

 まあ、実際、そうなっているけど。

 あなたたちが3か月かかったところをセイレーンは1か月で行きそうな早さなのよ。

 相当な負担になるから、そのあとゆっくりにならないと困るの。

 最悪、あの箱を使うことになるかも」

イングリッドはちらりと再生の箱を見る。

「いや…

 もう、あの箱はいや」

顔をゆがめるセイレーンの両横からグレーシーソフィとアクアがその肩を抱く。

「大丈夫よ」

「そうよ。

 私たちには龍がいるから大丈夫よ」

「龍?

 グレーシーソフィ、アクア、いいの?

 私もあなたたちの中に入っていいの?」

当然というようにグレーシーソフィとアクアは頷く。

ただ、なんのことだかわからない龍を除いて。

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置いてけぼりにされた男 妙正寺 静鷺 @umehoshi4394

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