第11話 Real intention

龍はグレーシーソフィに覆いかぶさりながら、両手で優しくグレーシーソフィの顔を包む。

そして、優しく頬や額、顎や鼻の頭にキスをしていく。

「龍、どうしたの?

 最近の龍って…」

イングリッドの特訓の成果の方が早く表れる。

「なんか変かな?

 ただ単に、グレーシーソフィ、君がかわいいなって思って」

「龍…」

グレーシーソフィのとがった耳が横に開く。

龍は、優しくグレーシーソフィと唇を重ねる。

「うふふ」

優しく唇を重ねるたびに、グレーシーソフィは嬉しそうだった。

ゆっくりと舌を絡めて行くと、舌下腺からブルームネクタが今まで以上に溢れ出てくる。

そこからはいつものように、舌を絡め合って、お互いの体液を吸い合う。

それから、グレーシーソフィの髪に顔を埋め、ゆっくりと髪を掻き分け、首筋にたどり着くと、そっと息を吹きかける。

「あ、ああ…」

グレーシーソフィは蕩けるような顔をして、声を漏らす。

しばらく唇でやさしく首筋をなぞると、じわっと肌が潤んでくる。

(すごいな。

 イングリッドの言う通りだ)

そう思うと、尚も優しく、今度は舌の先でゆっくり撫でると、グレーシーソフィはうっとりと口を半開きにして息を漏らす。

汗のよう小さな粒のようなブルームネクタがにじみ出る。

それに唇をつけ、吸い込むと、グレーシーソフィは電気が走ったように体を震わす。

「りゅ、龍…

 私、変になっちゃう…」

「ほんとうに、君は可愛い」

顔にかかった髪を掻き分け、グレーシーソフィの可愛い唇にそっとキスをする。

「う、うん。

 うれしい…」

ゆっくりと唇を這わせ、そして可愛い乳首を口に含み、舌の先でそっと転がすように刺激すると、グレーシーソフィの乳首はすぐに固くなっていた。

そっと吸うと、口の中にブルームネクタが広がる。

グレーシーソフィの顔を見ると、グレーシーソフィは嬉しそうに涙をこぼしていた。

「嬉しいの。

 龍にこんなに気持ち良くされて。

 我慢しなくていい…

 こんな良い気持初めて」

龍もそういうグレーシーソフィの顔を見ると、今まで覚えたことのないような興奮がどんどん高まって来る。

グレーシーソフィは両手を龍の頭に回し、自分の胸に押し付ける。

空いている片手で、グレーシーソフィの花弁を触り、指を花柱に入れ、イングリッドから教わったGスポットを指の腹で撫でると、グレーシーソフィの興奮は絶頂に達したようだった。

「だめー。

 龍、もう、もう、私…

 わたし、本当におかしくなっちゃう…

 腰が勝手に動いちゃうぅ」

そういうとグレーシーソフィの腰は指の動きに合わせるように動き、すすり泣くようだった。

指を抜き、花弁に口を付けると、中からブルームネクタが溢れ出てくる。

「いやん…

 恥ずかしい」

口をつけブルームネクタを啜ると、いつもより甘みが濃く、グレーシーソフィは体をのけぞらし、痙攣する。

「ね…」

早く龍と一つになりたいと言おうとしたが、少しでも自分のブルームネクタを龍が体に入れれば、それだけ元気になるのではと思い、指先を噛んで、じっと我慢する。

その雰囲気を感じ取った龍は上半身を起こし、グレーシーソフィを見る。

グレーシーソフィは、いつもより全身しっとりと濡れ、それが車内灯の白い灯りできらきら光っているようだった。

そして、潤んだ瞳と上気した顔が、気体の眼差しを龍に送っていた。

その顔を見て、龍は愛おしくて仕方なかった。

そして、龍はグレーシーソフィの中へ。

2人は十分感じ合うと、龍が一気にグレーシーソフィの中へ。

グレーシーソフィは、一瞬のけぞった後、龍にしがみつく。

体から発する花のように甘い香りに龍も酔いしれる。

グレーシーソフィがぐったりすると、龍はゆっくりと体を離し、アクアを見る。

アクアは、すでに目を潤ませて龍を見ていた。

そして、グレーシーソフィと同じように、今まで感じたことがない強い甘美の世界に溺れて行く。

グレーシーソフィと違うのは、両手首を龍に捕まれ、頭の上で抑えられ、丸見えになった腋を優しく愛撫された時だった。

それこそアクアは初めて感じる感覚で、気を失いそうになるほど感じ入り、涙を流しながら、体を痙攣させていた。

アクアもグレーシーソフィと同じようにいつもより多くブルームネクタを滲ませ、龍に吸われ、喜びで体を震わせる。

そして龍の体液が飛び込んでくると、体を激しく痙攣させながら、涙で顔をくしゃくしゃにし、龍にしがみつくと、長い間離れようとしなかった。

グレーシーソフィとアクアにとっては、初めての経験、初めての快感で、それから毎日続いていく予感がしていた。


「イングリッド!

 龍に何かしたでしょ!!」

翌日、アクアはイングリッドに詰め寄る。

「ん?

 何かしたって…。

 単に教育したまでよ。

 龍ったら、女の子ちゃんの扱いを全く知らなかったの。

 だから、猛特訓したのよ。

 あら?

 その顔は、さては、特訓の成果が出たわね」

「ちょ、ちょっと。

 なんてことを…」

「あら、いやだった?」

「い、いやなんて…

 そんなこと」

イングリッドとアクアがやり合っているそばを、鼻歌を歌いながらグレーシーソフィがご機嫌な顔して通り過ぎる。

「うふふ。

 龍の服を、龍が着ていたお洋服。

 洗濯しなくっちゃ♪」

龍の脱いだ服を大事そうに抱えて行く。

「ほら。

 アクアも、グレーシーソフィのように素直にならなくっちゃ」

「う、うん」

アクアは、顔を赤らめて頷いて見せる。

「グレーシーソフィ!

 私も龍の服、洗う!!」

アクアはグレーシーソフィの後を追うように走って行く。

「ちょっ、ちょっと、そういうこと?」

イングリッドは、呆れたようにアクアを見送る。

「ま、まあ、いいか。

 とば口までは、OKね。

 次は、いよいよ本丸っていうところね。

 ふふ…

 一つは、あなたたちのため。

 一つは、私の興味のため。

 ね」

イングリッドの眼が怪しく光る。

そのやり取りがあった翌日。

「え?

 今日は訓練、休み?」

「うん。

 イングリッドが、補修用の材料を取ってきたいんだって。」

「そうよ。

 あなたたち、毎日毎日激しいから、サスペンションが‟へたって‟きちゃって。

 だから補修しないとね」

イングリッドがニヤニヤしながら龍の顔を見る。

「は、激しい…」

龍は、気まずそうな顔をする。

「だから、今日1日、市街に下りて材料の調達。

 アクアは一緒に来てね。

 グレーシーソフィ、キャンプセットを置いて行くから、龍の面倒をお願いね。

 暗くなる前には戻るから」

「龍、軽く自主練しておくのよ」

「わかった」

「じゃあ、行ってきまーす」

「あ、龍。

 私がいない間に、グレーシーソフィを襲っちゃだめよ。

 ごつごつした地面でグレーシーソフィの綺麗な体が傷だらけになっちゃうからね」

「わ、わかっている」

イングリッドに揶揄われ、顔を赤くして怒る龍。

龍の傍ではグレーシーソフィが楽しそうに鼻歌を歌っている。

イングリッドは可笑しそうに車に乗り込むと、アクアを乗せたまま車を発進させる。

車は、直ぐにミラージュ効果で見えなくなっていくが、数十メートルほど垂直に浮かび上がると大きな木々の上を飛び越えるように麓に向かって進んで行く。

その頃には完全に車体は見えなくなっていた。

残された龍とグレーシーソフィは、河原に設置されたキャンプセットの椅子に座っていた。

「龍。

 私、ここで留守番しているから、アクアに言われたように自主トレしてきて」

「う、うん」

龍は、もし、この間のチーラのようなフーマがやって来てグレーシーソフィを襲うのではと思うと、一人にしたくなかった。

グレーシーソフィは龍の態度から龍が何を考えているのかを察し、胸が熱くなるのを感じた。

「大丈夫。

 この周辺には、フーマやフェアリーはいないって、イングリッドやアクアが言っていたじゃない。

 だから、大丈夫。

 私は、ここで大人しくイングリッドから借りたタブレットを見て、勉強しているから」

グレーシーソフィは、歴史や色々なことを勉強したいと言って、イングリッドの保存しているそれらのことが記録されているファイルの一部をタブレット端末にコピーしてもらい、時間を見つけては、それを読んで勉強していた。

「ね!」

明るく笑うグレーシーソフィの笑顔に送り出され、龍はいつもより短時間で戻って来るつもりで山の中に入る。

いつもアクアと鬼ごっこする山の斜面や悪路を走りながら、頭の中はグレーシーソフィのことが心配で集中できなかった。

ズルッ

「え?」

大きな岩を駆け上がろうとした時、濡れた落ち葉を踏み、足を滑らす。

よろけたところで、さらに足滑らせ、龍は巨岩の切り立った3mほどの高さから転落し、頭を強打する。

「あ…」

最期に見えたのは青空と木の枝だった。

龍が自主トレで山に入ってから1時間ほど経ち、グレーシーソフィはタブレット端末から目を離す。

「そろそろ、龍は戻って来るかしら。

 きっとお腹空かして戻って来るだろうから、食事の用意でもしておこうかしら。

 ?!」

グレーシーソフィが立ち上がると、川上の方から河原を近寄って来る大きな塊が目に入る。

「なにかしら?」

塊はどんどん近づいて来る。

「く、熊!」

眼の良いグレーシーソフィはその塊を熊だと認識する。

丹沢はツキノワグマの生息地で、人が入らなくなったこの時代では、生息数が増加していた。

熊は、遠くからグレーシーソフィの匂いを嗅いだのか、近づいて来る速度がぐんぐんと上がり、あっという間にグレーシーソフィの数十メートル手前まで間を詰めていた。

熊はツキノワグマのオスで、全長160cm、体重は100kgを超えているような大きな体つきをしていた。

「どうしよう。

 アクアやイングリッドがいれば、簡単に追い払えるのだけど。

 でも、パワー的なら私でも…」

グレーシーソフィは、フーマやフェアリーの他にも動物ならそのパワーをも外見を見ただけで計ることが出来た。

最初は、アクアやイングリッドは、もちろんのこと、自分でも、何とか追い払うことはできると見ていたが、いきなり熊の様子が急変する。

グルルル

ガァー!!

熊はイングリッドを凝視しながら後ろ足で立ち上がると、興奮したように口から泡を飛ばし唸り声をあげる。

そして股間からはピンク色の肉棒が体から出たり入ったりしていて、明らかにグレーシーソフィを見て、その匂いを嗅ぎ、発情しているようようだった。

その発情度合いに合わせ、パワーが上がっていく。

「どういうこと?

 …

 まさか、この熊、フェアリーの味を知っている」

グレーシーソフィは驚愕した。

そのツキノワグマは、どこかでフェアリーの味を知り、半分プルート化していたのだった。

そして、ツキノワグマの眼は残忍な光を湛えグレーシーソフィを見つめる。

あまりのことで、グレーシーソフィが後ろに一歩引くと、それが合図になったように、熊は四つん這いになりグレーシーソフィに突進してくる。

グレーシーソフィが軽やかなステップで体をひねり、熊を避けると、熊はそのままテントに突進しテントやテーブルを破壊する。

そして、再びグレーシーソフィの方を振り向くと突進してくる。

グレーシーソフィが再び避けようとした時、熊はあり得ないほど急制動を掛け、その場に後ろ足で立ち上がると前足を振り回す。

「きゃっ」

ドスっと、熊の前足はまるで掌底のようにグレーシーソフィの躰を跳ね飛ばす。

ガ、ガァ

跳ね飛ばされうつ伏せになったグレーシーソフィに熊は覆いかぶさると、器用に前足をグレーシーソフィの腰に回し、腰を持ち上げると、股間の肉棒をグレーシーソフィのショートパンツ越しに花弁の辺りに突き付け、激しく突き始める。

「な、なに。

 この熊、私の中に入れようとしている」

熊の肉棒には骨があり固く、熊の力で付き続けられれば、ショートパンツを突き破ってグレーシーソフィの花弁の中に突き刺してくるのは時間の問題だった。

グレーシーソフィは、突き飛ばされた影響で体に力が入らず、また、強い力で押さえつけられてているため身動きできず、恐怖を感じる。

「いやっ!

 私は、龍だけのフェアリーよ。

 熊になんて絶対に嫌」

泣きそうになりながら、抵抗できず、ビリっとショートパンツの切れる音が響き渡る。

「龍!

 助けてー!」

グレーシーソフィの絶叫が河原に木霊するようだった。


「大量だったね。

 これだけあれば、修理の材料として足りるでしょ?」

「もちろん。

 アクアがいてくれたから、いつもの倍は捕れたわ。

 ドローンだけじゃなくて、疑似動物まで。

 しかも、いい素材を使っているから十分よ」

「龍達、私たちの帰りを首長くして待っているかしら」

「さあね。

 テントの下で栄養補給でもしているんじゃない。

 アクアがいないから、グレーシーソフィの天国よ」

「ぶう」

アクアが口をとがらせる。

イングリッドの車体が、龍達を残していった場所に近づいたとき、イングリッドが緊張した声を出す。

「おかしいわ。

 テントやテーブルが散乱している。

 何かあったわね」

「え?

 龍やグレーシーソフィは?」

「それらしい反応が河原の奥に茂みに…」

「何があったの?」

「わからない。

 他に反応はないんだけど…

 ともかく下りてみましょう」

イングリッドは散乱しているテントの横に車を止める。

「アクア、念のためよ。

 注意して」

イングリッドが制止する間もなく、アクアは車から降りると一目散に反応があると言われた茂みに走って行く。

「龍!

 グレーシーソフィ!」

走りながら大きな声で2人を呼ぶ。

「アクア?

 アクア、こっちよ」

グレーシーソフィの声が聞こえ、声のする茂みに入ると、平らな地面の上でグレーシーソフィは足を斜めにして座り、その腿を枕にするように龍が気持ちよさそうに寝ていた。

グレーシーソフィも龍も衣服が乱れ、体のあちこちに擦り傷を負っていた。

「どうしたの?

 大丈夫?」

2人の無事を確認し、半分安堵をしたアクアだったが、その姿を見て驚愕の声をあげる。

「この毛…

 ツキノワグマね」

イングリッドが河原に散乱していた動物の毛を拾いアクアの横に立つ。

「うん。

 それも、半分プルート化した熊だったわ」

「プ、プルート化したツキノワグマ?!」

アクアが驚きの声を上げる。

「うん。

 あの感じは、フェアリーの味を知っていたわ。

 私の匂いを嗅いで、欲情して襲い掛かって来たの。

 油断したら抑え込まれて、私を犯そうとしたのよ」

「そ、それで大丈夫だったの?」

そう言いながらアクアはグレーシーソフィの落ち着きと体を見て、擦り傷はあった事なきを得たことが感じ取れ、安堵する。

「うん。

 危ないところで龍が飛んできて、熊に体当たりして吹き飛ばしてくれたのよ。

 それから、しばらくもみ合っていたんだけど、龍のパンチが熊の鼻を捉え、熊は逃げて行ったわ。

 そこで、ガス欠。

 エネルギーをチャージして、今はお休み中。」

「まあ」

アクアは微笑ましそうに龍を見る。

「それで、龍は頭に怪我したの?」

アクアとイングリッドは龍の頭に巻かれたタオルを見た。

「ううん。

 頭は崖から落ちて怪我したんだって。

 しばらく気を失っていたら、私の声が聞こえて、飛んで戻って来てくれたの」

グレーシーソフィは愛おしそうに眠っている龍の頬を撫でる。

「崖から落ちて…。

 トレーニングのカリキュラムを少し変えなきゃダメね。

 体力はだいぶついて来たから、そろそろ武術も取り入れて。

 何はともあれ、まずは受け身ね」

「うん」

グレーシーソフィは龍の頬を撫でながらアクアを見て頷く。

「それより、ツキノワグマはどうしたの?

 血の跡があるけど。

 手負いの獣は、危ないわよ」

イングリッドが、河原の石に付着している血痕を見て顔をしかめる。

「龍の手助けしようと思って、石を投げたら、たまたま当たって。

 その時、怪我したのね」

「じゃあ、私、血痕を追ってみるわ。

 半分でもプルート化していたら尚更危ないから駆除しないと。

 また、やって来て害を及ぼすといけないし」

「そうね。

 念のために私も一緒に行くわ。

 手負いで何をするかわからないから。

 いくらアクアでもリスクがあるわ」

「うん」

珍しくアクアはイングリッドの言うことに大人しく頷く。

「グレーシーソフィは龍を連れて車の中に入っていなさい」

イングリッドは、そういうと龍を抱き上げ、車に向かおうとする。

グレーシーソフィも慌てて立ち上がる。

「グレーシーソフィ、そのパンツは?」

アクアは、グレーシーソフィの履いているハーフパンツの横が破けているのを見て言う。

「う、うん。

 このパンツ、小さくなったのか、私が太ったのか、力を入れたら破けちゃった」

「太っているようには見えないけど…。

確かに、私も太ったのか、少しきつくなってきたわ」

グレーシーソフィとアクアは、お互いの体つきを見て首をひねる。

(あの二人、自分達の体が変わってきているのを気が付いていないのね)

イングリッドは、戸惑っている二人を見て笑いを噛み堪える。

「グレーシーソフィ、早くいらっしゃい。

 龍が目を覚ましたら、二人でシャワーを浴びるのよ。

 汚れを落とさないと、怪我から雑菌が入るから。

 ここら辺でも、例のバクテリアはいるから」

「はーい」

イングリッドに急かされ、グレーシーソフィは小走りにイングリッドに追いつくと車に入っていく。

「さてと」

アクアは、グレーシーソフィを見送ると、身に着けているナイフを取り出す。

「まあ。

 そんなものより、こっちの方が強力よ」

イングリッドは、手に軍用のライフル銃のような大きなライフル銃を持って車から出てくる。

「これなら、熊でも一発で頭を吹き飛ばすことが出来るわよ」

「すごっ!」

アクアはそれを見て、目を丸くする。

「さあ、いくわよ」

得意顔をするイングリッドとアクアは肩を並べて、血の跡を追いながら川上に向かっていく。

しばらくすると血痕は茂みの中に消えて行く。

「アクア、気を付けて行くわよ。

 あなたは、そっち半分をお願いね。

 私は、こっちをカバーするから」

「ええ」

30分ほど歩くと、崖の切れ目にある洞穴のようなところの前で、熊が倒れていた。

「いた!」

「生命反応はないわね。

 死んでいるわ」

イングリッドは赤外線のような装置で遠くから熊の熱を測っていった。

それでも、二人は用心して倒れている熊に近づく。

熊は完全に事切れており、すでに死体の一部がバクテリアによって分解が始まっていた。

熊の死因は、眼から飛び込んだ石が脳を破壊したことが原因だった。

「グレーシーソフィね。

 あの娘、石投げて追い払ったって言っていたから」

「そうね。

 グレーシーソフィのことだから、龍が危ないと思って容赦なく投げたわね。

 しかも、龍に気が付かれないように」

「気が付かれないように?

 なんで?」

「あら、アクアったらわからない?

 龍が命がけでグレーシーソフィを守ろうとしたのよ。

 それを石で軽々と追い払ったら、龍のプライドがズタボロになるわ」

「そうか」

アクアは納得して頷く。

「あの洞穴が、この熊の住処ね」

二人は、他に同じような熊がいないか、念のため、洞穴の中を確認する。

すると洞穴の中には、他の熊の死骸と、フーマやフェアリーとみられる死体が無残にも食い散らかされたように散乱していた。

「このフーマとフェアリーは迷い込んだところを襲われたのね。

 で、こっちの熊は、プルート化したあの熊に襲われたっていうところね」

「熊がフーマを食べ、フェアリーで遊んでブルームネクタを飲んでプルート化。

 それで、最後は熊に食べられたっていうところね。

 可哀想に。」

「でも、熊でもあなたたちを口にするとプルート化するだけじゃなく弄ぶということは、ある程度知性も発達するみたいね。

 グレーシーソフィの話だと、そう思えるわ。」

「そんな…」

「でも、これで研究材料が増えるわ。

 本当に、あなたたちといると飽きないわ」

イングリッドは良い意味で目を光らせる。

「はい、はい。

 研究好きのお姉さま。

 たくさん研究して、謎を解いてくださいな」

アクアはイングリッドを見て苦笑いする。

「さあ、戻りましょう。

 今日取って来た獲物の分解が先よ。

 アクアも手伝ってね」

「はーい」

二人はそういうと、車に戻っていく。

「お帰りなさい」

龍とグレーシーソフィはシャワーを浴びたのか、服を着替え、さっぱりした顔をして、アクアとイングリッドを出迎える。

龍の頭には、何も巻いていなかった。

「ただいま。

 龍、頭の怪我は大丈夫なの?」

「あ?

 ああ、大丈夫だ」

龍は、怪我の原因が足を滑らせ堕ちたことだったので、気恥ずかしい顔をして答えた。

「大丈夫。

少し赤くなっているくらいで、傷はなくなっているの。」

「よかったぁ~!!」

胸を撫で下ろすように喜びを爆発させるアクアを見て、イングリッドは眉をしかめる。

(‟よかった‟ですって?

 こんなに治癒が早いフーマなんて、一体どこにいるのよ)

「ねえ、アクア。

 あなた、驚かないの?」

「え?

 何が?」

「怪我が、こんなに速く治るなんてことないでしょ?!

 グレーシーソフィも!」

「え?

 そうなの?」

「言われてみればそうかも…」

物知りのアクアの方が同調する。

「そうよ。

 龍はフーマよ。

 そんなに自然治癒が早いフーマなんていないわよ」

「でも、私達が怪我したとき、龍がペロペロしてくれると、あっという間に怪我が治るの。

 だから、そういうものだと…」

グレーシーソフィとアクアは戸惑った顔をする。

(うーん。

 この前、龍から採取した唾液の成分は、カルシウム、リン酸、ナトリウム、ラクトフェリン、アミラーゼ、リパーゼ…

 普通の唾液で、特殊なものは入っていないわね。

 でも、グレーシーソフィやアクアは、キスをして龍の唾液を吸うだけで興奮するし…。

 謎だわ。

 もう一度、採取しよう。

 それと、サーメンも採取してみよう)

「?」

イングリッドに見つめられ、何事かわからない顔をする龍。

その龍の体に霧のようなものがまとわりついていた。

その霧のようなものはイングリッドにしか見えない、グレーシーソフィの体からブルームネクタが蒸発したものだった。

そのまとわりつく霧は、龍の皮膚呼吸に合わせ皮膚から吸い込まれているようだった。

不思議なのは霧散するわけではなく、ずっと龍の周りにまとわりついていて、まるで龍を離すまいとしているようだった

(もしかして、この娘はあざといのでは)

イングリッドは真剣に考えてしまった。

「龍とグレーシーソフィ。

 あんなことがあったから、何も食べていないでしょ?」

「うん。

 でも、ここに置いてあったイングリッドの作ったお菓子を龍とつまんでいたの。

 ごめんなさい」

「いいのよ。

 美味しかった?」

龍とグレーシーソフィは素直にうなずく。

「よろしい。

 でも、お菓子だけじゃ栄養にならないわね。

 いま、すぐごはんを作るから。

 アクアは、シャワーを浴びて着替えなさい。

 茂みに入ったりして、大変だったんだからね」

「う、うん。

 イングリッドは?」

「私も着替えるから、大丈夫。

 手伝ってくれたんだから、ゆっくりしていなさい。

 でも、食べて一休みしたら、手伝ってね」

「あー、私も手伝う」

「お、俺も手伝う」

「まあ!

 嬉しいこと。」

イングリッドはご機嫌で運転席の方に消えて行った。

「じゃあ、私もシャワー浴びてくる」

「うん。

 そうして」

それからしばらくすると、キッチンから肉の焼けるいい匂いがしてくる。

そして、シャワーを浴びたアクアが戻って来ると、グレーシーソフィは龍の反対側に座るように促す。

「龍。

 本当に大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

心配するアクアの唇に龍はそっと唇を重ねると、アクアは嬉しそうに顔を赤らめる。

両手に花の状態になった龍は、グレーシーソフィだけでなくアクアの良い香りも混じり、尚更、元気になっていくようだった。

「お待たせ」

綺麗な服に着替えたイングリッドが、アクアが捕った鹿肉のステーキを持ってリビングに入って来る。

(あら?

 グレーシーソフィはアクアなら良いのね)

見るとグレーシーソフィのブルームネクタの霧に、アクアから立ち上る霧が混じり、龍を覆いつくしていた。

食後、アクアとイングリッドが捕って来た戦利品を確認する。

後部ハッチを開けると、2m四方はあるかと思える見回り用のドローンが4機。

鳥タイプや小動物タイプの偵察用疑似動物が8体以上積まれていた。

「疑似動物は、アクアが全部石で打ち落としてくれたのよ。

 見分けるのが得意みたいで助かっちゃう」

「何言っているのよ。

 イングリッドのセンサーを使えば、あっという間に判別できるじゃない」

「だめよ。

 センサーなんか使ったら、あっという間に感知され、警戒されるじゃない。

 アクアみたいに時速200キロを超える石をぶつけるのが一番安全なのよ。

 熱源体をもつ飛来物や、200キロ未満の飛来物は反応するのよ。

 だから、アクアみたいに石を投げると反応できなくて、ぶち壊すことが可能なの」

「でも、ドローンは?」

龍はいくら何でも高速で飛行するドローンに当てることなんて無理だろうと思っていた。

「ドローンは、コンビネーションプレイよ」

「え?」

「まず、私がドローンに向けて石を投げるの。

 当然、ドローンは反応して回避行動をとるわ。

 その逃げた先を予測して、アクアが本命の石を投げ、センサーや中核部分を破壊。

 とどめは私のこれ!」

イングリッドは自分の背丈ほどある大きなレーザー照射の機関砲を見せる。

「これで、動力部分を破壊するの。

 CPUや色々なチップの入っている部分には当てないようにね。

 チップにはレアメタルが入っていて貴重なのよ。

 それ以外の金属は溶かして用途に合わせた形に成型するの。

 この車も当初は軽トラくらいの大きさだったのよ。

 それを、ここまで育てるのに何十年もかかったわ。

 今では自前の溶鉱炉があるから、簡単に細工ができるけど、それがないときは大変だったのよ」

延々とイングリッドの得意話を龍達は興味深そうに聞いていた。


翌日からは、トレーニングのカリキュラムに武術の訓練を早速追加する。

午前中はアクアと鬼ごっこ。

午後からは、イングリッドが用意した6m四方のマットを使って武術の練習。

武術と言っても、初めの10日間くらいはグレーシーソフィが講師となり。柔道の受け身をひたすら練習し、横、後ろ、前、前回り受け身と受け身を徹底的に体に覚え込ませる。

自然と受け身が取れるようになってから、空手はアクアが、柔道はグレーシーソフィが、そして剣術をイングリッドが講師となり、トレーニングのカリキュラムを構成していく。

ある日、龍はイングリッドに呼び出される。

「なにか?」

「今日は、あっちの方の訓練の続きよ」

「あっちのほう?」

「にぶ!!」

最初、イングリッドが何を言っているのか龍はわからなかったが、直ぐに察する。

「前戯は、だいぶうまくなったわね。

 二人とも大喜びでしょ」

「う…、ああ。

 イングリッドのおかげだよ」

龍は顔を赤らめる。

「ただ、それが上手になったからって、女の子の中に入れた後、腰を振って終わりじゃだめよ。

 前戯はあくまでも本番前の前戯。

 本番でも、しっかりと気持ちよくさせてあげないとダメよ」

「ああ」

そう答えながらも龍は、絶頂を迎える時に二人が嬉しそうな顔をしているのを思い出し、これ以上何をするのかと疑問が頭をよぎる。

「今でも、十分だと思っているでしょう」

イングリッドが痛いところを突く。

「もっと、いい気持にさせてあげないと、誰かに二人を寝取られるわよ」

「え?」

「ピストン運動だって強弱をつけたり、角度を変えたり、体位だってあるわ。

 グレーシーソフィはオーソドックスな正常位が好きだから、それを中心。

 少し脚を持ち上げるようにして女の子を上に向かせ、奥までしっかりね。

 アクアは下から突かれるのが好きだから、対面座位が中心ね。

 全部は無理だから、両腕でしっかり支えてあげるのよ。

 わかっていた?」

「う…」

はっきり言って龍はそこまではなくしていなかった。

「今日は、まず、挿入の仕方から。

ピストン運動の仕方の特訓よ。

 さあ、付いていらっしゃい」

龍はイングリッドに促され、例の部屋に入っていく。

その夜。

モニターの数値を見て、イングリッドはかしげる。

「うーん。

 どこから見ても、普通のスペルマね。

 元気がいいし、数もまあまあ…

 十分、女の子を妊娠させられるわねって、感心している場合じゃないわ。

 普通のスペルマで、グレーシーソフィとアクアが、あんなに喜ぶなんて。

 放出スピード?

 結構、勢いがあったけど、そんなので喜ぶわけはないか。」

イングリッドは、グレーシーソフィやアクアが龍の及ぼす影響を見て、龍の放たれる液体にスペルマ以外の何かが入っていると予想し、昼間、本番の練習と言って龍の体液を採取して調べていたのだった。

「それに、龍に舐められると傷が治るというのも不思議。

 普通の唾液なのに。

 でも、二人の体が、だいぶいい感じになって来たのも、龍の体液のせいだと思うのだけど…」

コンピュータと思われる機器についている小さなランプがせわしなく点滅していた。


数日後、顔を赤らめたアクアがイングリッドの下にやって来る。

「イングリッド。

 また、龍に何か教えたでしょう」

「あら、よかったんじゃなくて?」

「う…、うん」

アクアは、消え入るような声で答えながら、もじもじする。

「だってぇ、いきなり龍の上に座らされて…」

「いいじゃないの。

 グレーシーソフィやアクアも、もっと楽しまないと。

 それに二人とも、最近、肌が艶々よ」

イングリッドとアクアの傍を、洗濯物を抱えたグレーシーソフィが、鼻歌を歌いながら通り過ぎていく。

「うふふ。

 龍の洗濯物。

 綺麗、綺麗に洗濯しなくっちゃ!

 私の洗濯物と絡まって、きゃっ!」

何を想像したのか、グレーシーソフィは顔を赤らめ嬉しそうだった。

「ほら。

 グレーシーソフィみたいに素直に喜びなさいよ」

「う、うん」

イングリッドに促され、アクアは顔を輝かせる。

「グレーシーソフィ!

 私のも一緒に洗濯する!!

 待ってぇ~」

アクアは、パタパタとグレーシーソフィの後を追っていく。

「そっちかぃ!

本当に、飽きないわぁ」

イングリッドは、アクアを見送りながら苦笑いする。


数か月後

鬼ごっこをする龍とアクアに変化が現れる。

アクアは、肩で息をし、汗をかきながら必死の形相で逃げる。

龍は肩で息するわけでもなく、汗はかいているが、涼しい顔でアクアとぴったりと一定の間隔を保っていた。

「さてと」

そういうと龍は一気にアクアとの間隔を詰めていく

「ひっ」

アクアは、龍の気配を感じ必死で茂みの中を逃げるが、すぐに龍に追いつかれ、腕を掴まれる。

「きゃっ!」

「アクア!

 捕まえた!!」

龍はアクアを近くの太い大木に押し付け、そのか細い両手首を片手で掴み、万歳を指せるように頭の上で押さえつける。

「捕まっちゃった。

 すごいね、龍。

 全然、息を切らしていないね」

「…」

「龍、腕が痛い。

 離してくれる?」

「…」

「龍?」

龍は、ゆっくりアクアに顔を近づけると、その可愛らしい唇にそっとキスをする。

「龍…」

「勝ったから、ご褒美をもらわないと」

「なっ…」

龍はアクアの胸に顔を近づけ胸元に口づけをすると、開いている片手でアクアのブラウスを脱がせ始める。

「龍、いや。

 こんなところで。

 やめて

 …

 ?!」

脱がせたブラウスの下から形のいい乳房が露出すると、その乳首を龍は口に含む。

「最初に会った時も、こんなところだったかな。

 いや、茂みの中だったな」

そう言いながら、龍は片手をアクアのズボンに伸ばし、脱がせ始める。

「龍!

 やめて」

龍はアクアを裸にすると、腋を中心に全身をさんざん弄び、そして自分のズボンを脱ぎ棄てると、その下から巨大化した葯が出現し、アクアは目を丸くする。

「い、いつもより、大きい?!」

龍はアクアを持ち上げるようにして腰を密着してくる。

「や、助けて。

 やめてー」

アクアの絶叫が木霊するが、その顔は喜びに溢れていた。


「きゃ」

グレーシーソフィは悲鳴を上げマットに投げ落とされた。

実際は、落ちる前に龍は力を抜き、グレーシーソフィのダメージを少なくする。

「大丈夫?」

「うん。

 でも、龍はすごいわ。

 私がかけた技は簡単に外して、軽々と私を投げ飛ばすようになったわ。

 寝技でも、もう勝てない」

グレーシーソフィは柔道で2段以上の腕は持っていたが、龍に勝てなくなっていた。

アクアとの空手の訓練も、黒帯のアクアの攻撃を軽々とかわし、逆に吹き飛ばされるほど、龍には勝てなくなっていた。

イングリッドとの剣術は、さすがにアンドロイドのイングリッドには勝てなかったが、アンドロイドをオーバーワークさせるほどにもなっていた。


「もう、十分、体力は付いたわね」

イングリッドが口を開く。

グレーシーソフィは、まじまじと龍を見て、大きく頷く。

「凄いね。

 無くなっていた筋肉も復活し、鋼のように鍛えられているわ。

 体力の充電池も大きくなったし、もう、誰にも負けないわね。」

「そんな、大げさな」

「ううん。

 まんざら嘘じゃないわよ。

 穴から出てきたフーマは、みな、龍と同じ。

 筋肉なんて伸びたゴムのよう。

 フェアリーの体液がないと何もできないわ。

 あのチーラだって、傍にいるフェアリーの体液で体格と力を維持しているようなものよ。

 用は、張りぼてよ」

「張りぼて?

 俺は、その張りぼてに負けたのか」

「何言っているのよ。

 負けたのは、私たちフェアリーの力によ。

 今の龍なら、フェアリーだって勝てないわよ」

「そうそう。

 それに、これなら、一日中歩いても、大丈夫ね」

「ちょっと、私の車、これからも使うでしょ?」

イングリッドが慌てた声を上げる。

「当然よ。

 こんなに快適なお家、他に絶対にないわ。

 ね、龍もいいでしょ?」

「当然。

 置いてくれるなら、いつまでもおかしてほしい。」

龍は心の底から思っていた。

イングリッドは当然と頷いた後に、グレーシーソフィとアクアに向かって話しかける。

「グレーシーソフィやアクアも体調、良くなったんじゃない?」

二人は、イングリッドと出会い前より丸みを帯び、女性らしさに磨きがかかっていた。

それ以上に、肌の艶が増し、一層、可愛らしくなっていた。

「え?

 うん。

 体調もすごくいいし、ご飯も美味しいし、今までこんな楽しい生活はなかったわ」

「そうね。

 私も体調が一番いいわ。

食欲が沸いてきているし、なんか毎日が充実しているっていう感じ」

「そうそう」

グレーシーソフィがアクアに同調する。

イングリッドはわかっているというような顔で二人の話を聞いている。

「で、これからどうするの?」

「ああ。

 まずは、厚木のラボに忍び込んで、ヴィヴィがどうなったか調べようと思って」

「じゃあ、龍は、シルクチャイナの一員にはならないのね」

イングリッドが念を押すように言うと、グレーシーソフィとアクアの視線が龍に注がれる。

「ああ。

 そんなつもりはない。

 グレーシーソフィとアクアに、こんな仕打ちをするような奴らの一員になるつもりはない」

それを聞いて、グレーシーソフィとアクアは嬉しそうに頷く。

「じゃあ、厚木ラボに行った後は、何をするの?

 どこかでジードルでも作って、自給自足の生活か商業でもするの?」

「うーん。

 そこはまだ、考えていないな。

 まずは、日本がどう変わったかを見て回るかな。」

「あ、龍。

 じゃあ…」

アクアは何かを言いかけ、口籠る。

「何?」

「ううん。

 何でもないわ」

「アクア?」

「さあ、明日からラボに忍び込む算段をしないとね」

イングリッドが、話を変える。

「戦争しに行くわけじゃないんでしょ?

 まあ、それならそれで、私は構わないのだけど」

「戦争はしないさ。

 まだ、相手がどんな奴らだか、わからないからな。

 まずは、ヴィヴィの行方を確かめること。

 あとは、ラボで一体何をやっているのか。

 ともかく情報が欲しい」

「そうね。

 ラボのコンピュータに入れれば、情報を取ることはできるわ」

そのあと、4人は明日からの準備作業について話し合う。

夜中、リビングにはグレーシーソフィとアクア、そしてイングリッドの姿があった。

「なぁに?

 イングリッド?」

「話があるって、何の話?」

二人が見つめる先のモニターには、すでにアンドロイドのスイッチを切ったイングリッドの顔が映っている。

「あなたたち、これからどうするの?」

「え?

 まずは、ヴィヴィを探して、それから…」

「それは、龍の言ったことでしょ。

 そうじゃなくて、あなたたちの本音のことよ」

「私たちの本音?」

グレーシーソフィとアクアは困惑した顔をする。

「あなたたち、自分のこと、わかっているでしょ?

 特に、グレーシーソフィは、その能力があればなおさらのこと」

「…」

「あなたたちは、DNAの呪縛から、完全ではないにしろ開放されていて、自由を手に入れているようなものよ。

 何も、フーマに義理立てすることないのよ」

「フーマって呼ばないで。

 龍よ!」

アクアが怒った顔をする。

その横でグレーシーソフィも険しい顔をする。

「はいはい。

 アクアもそうだけど、特にグレーシーソフィ。

 あなたは今まで龍をはじめ十分フーマに尽くしてきたわ。

 何度も裏切られ、プルート化されて、殺されて。

 それに、プルートに定期的に殺されて。

 嫌なことが、ずっと続いていたじゃない」

「…」

「私が、あなたたちについていれば、あなたたち、自分の好きなことが出来るわよ。

 その気があれば、龍をシルクチャイナか、どこかのジードルに降ろしてあげる。

 どうなの?」

「自分の好きなことができる?

 それなら、私は龍の傍にいること」

グレーシーソフィは考える間もなく即答する。

「グレーシーソフィ?

 なんで?

 体が気持ちいいなら、私が男のアンドロイドを作って、もっと気持ちよくしてあげるわよ」

「ううん」

グレーシーソフィは首を横に振る。

「それだけじゃないのよ。

 優しいし、面白いし、傍にいるだけで心がウキウキするの」

「私もそうだなぁ。

 ちょっとエッチなところがあるけど、それも魅力だしねー」

グレーシーソフィとアクアは、お互いの顔を見合わせ、笑って見せる

「だから、私たちは、龍の傍にいることが幸せだし、望よ」

「でも、フーマ、龍がフーマの女性を好きになったら?

 男のフーマなんて、他のフェアリー、特に上級クラスのフェアリーを見れば、あっという間に、そっちになびくわよ。

 上級クラス用のフェアリーは、美しくて、性格も良く、従順で、フーマの男に尽くすように作られているから、誰でもメロメロになるって。

 そうしたらどうするの?」

「そうね。

 そうしたら…

 龍が、私たちのことを邪魔に思えるのであれば、その時は、アクアと一緒に旅に出ようかしらね」

グレーシーソフィは寂しそうに笑う。

「まあ、いいわ。

 そうなったら、当然私はあなたたちに付いていくから」

「イングリッド、ありがとう」

「この話は、これで終わり。

 で、これからは別の話」

「?」

「あなたたち、自分の体に起きていること、わかっている?」

「うん。

 大体ね」

アクアの話にグレーシーソフィが頷く。

「そう…。

 あなたたちと初めて会った時、あなたたちの体はめちゃくちゃだったわ。

 まあ、あなたたちに限らず、どのフェアリーでも同じだけどね。

 臓器なんて適当で、足りなかったり、機能していなかったり。

 普通だったら、3か月から半年でアウト。

 死んでいるはず。

 だから、定期的にプルートに殺され、再生の箱で新しい体を作ることで、生命をつないできたのよね。」

「そうだったんだ。

 イングリッドの情報で勉強していて、薄々わかっては来てはいたんだけど」

「…」

「アクア?」

「私は…。

 私は失敗作で、再生の箱はもらえなかったから、いつ寿命が尽きてもおかしくなかった。

 でも、なぜかフレイと私は生きていた。

 それでも、体の変調を感じていたので、そろそろかと思っていた時に、龍に出会い、体の中が変わって来るのを感じていたの」

「でも、フレイっていう子は大丈夫なの?」

「うん。

 1か月、龍と一緒だったから大丈夫だと思う。

 フレイに何かあると、私にはわかるから」

「そうなの…」

「まあ、それはそうとして、それが、なんでしょう。

 半年以上たって、足りない臓器は作り出されてきているし、機能していなかった臓器は、その役目を果たし始めている。

 あと、1,2年もすれば、完全体になるんじゃないかしら。

 それに、再生の箱がなくても、どんどん寿命が延びてきているし、綺麗になってきているわ」

「まあ、綺麗だなんて。

イングリッド、ありがとう」

「どういたしまして。

 本当のことだから。

 こんなに体が変化していくフェアリーは、今まで、聞いたことも見たこともなかったわ」

「私も見たことはなかった」

アクアは、じっとグレーシーソフィを見る。

「馬鹿ね。

 アクアも同じよ。

 毎日ジビエ料理や野生の木の実、果物を食べているせいかしら、生気に満ち溢れ、どんどんと綺麗になって、上級フェアリーとはまた違った意味でより綺麗になっているわ。

 私としては、今のあなた達の方が生き生きとしていて綺麗だと思う。」

グレーシーソフィとアクアは嬉しそうな顔をする。

「何がそうさせたのか。

 やはり、龍かしら。

 でも、龍の体液をいろいろと採取したけど、唾液もスペルマも、普通のフーマと同じ成分だし、不思議なの」

「そう言われても、私たちにもわかんない。

 龍の体液が体に入ると、体中が活性化するようなのは確かね」

「ふーん」

「ただ、箱から出て来て体が整っていない時、龍の体液を身体に取り込むと、皆、黒い液体を吐き出すのよ。

 で、その黒い液体を吐き出すと、プルートの誘惑や与えられている縛りなどがほぼ消失し、本来持っている能力が目を覚ますのは確かなの。」

「黒い液体?」

「うん。

 ただし、直ぐにバクテリアで分解されちゃうから、何なのかはわからないの」

「身体が出来上がっている時は黒い水を吐き出さなかったけど、徐々に縛りがなくなっていくように感じていた」

「なるほどね。

 やはり、龍には何かがあるわね。

 その謎を解き明かしたいから、今後も協力をお願いするわね」

「うん。

 私も知りたいから情報共有しましょう」

「あー、アクア。

 私もだって。

 私もイングリッドに協力するからね」

「はい、はい。

 わかりました」

三人は顔を見合わせて笑い出す。

「さて、じゃあ、厚木ラボへの潜入方法を検討しないとね」

「はい!」

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