第185話 エピローグ

 ソール達がジーフに帰還してから二週間が過ぎた。その間に、騎士達の計らいで諸々の手続きが済み、コハルはソールとルナと同じジーフ学院に入学することになった。それに伴い、コハルにはこれから住むことになる部屋や制服が学院から提供されることになった。そして今日は夕刻となり、ソールとルナ、そしてコハルの三人は一緒に学生寮に帰る事にした。


「どう、コハルちゃん。学院には慣れた?」


「えぇ、少しずつだけど慣れてきたわ。それに、勉強ってとても楽しいのね」


 ルナの問いに、コハルは楽しさを隠し切れないといった雰囲気で言った。


「そっか……」


 対照的に、ルナは何処か浮かない様子だった。


「どうかしたの、ルナ?」


 それに気付いたコハルが訊いた。


「あ、うん。久しぶりにジーフに帰って、学院にも戻ったのは良いんだけど。周りが連日質問攻めだったから」


 ルナは少し疲れた表情で呟いた。


「まぁ、暫くはジーフを出てカシオズにまで行っていたんだししょうがないよ」


 と、ソールはそこまで言うと、ふとある事に気付く。


(そう言えばロイの奴、結局深い事は何一つとして訊いてこなかったな。まぁ、あいつらしいと言えばそうなんだけど)


 ソールは幼馴染みの性格に有り難さを感じた。


「そう、それに勉強。勉強よ。暫く居ない内に、分からない事が増えちゃって、皆に追い付くのに必死なのよ」


「まぁ、加えてルナは昔から勉強が得意じゃなかったもんね」


「フン。それに比べて良いわねソールは。昔から頭が良くて」


 ムスッとした表情でルナが返した。そこでソールはしまったと思った。


「ご、ごめんルナ。冗談、冗談だよ」


 ソールは慌てて手を合わせて謝った。


「ふふ、冗談よ。今更そんなことで怒らないわよ」


 ルナはクスクスと笑いながらウインクをした。ソールはホッと安心した半面、若干の不満を抱いた。


「そんな、酷いよルナ」


「ルナひどーい」


 ソールに続いて言うコハルに、ルナは余裕の笑みを浮かべながら顔を近づけた。


「いい、コハルちゃん。時にはこうやって男を手玉に取るのも大事なのよ」


「何処で覚えたのそんな言葉。それにコハルちゃんに変な事を吹き込むのはやめなさい」


 ソールはやれやれとため息を吐いた。と、そこで不意にグランに別れ際で言われた事が脳裏を過ぎった。


「普通の日常を謳歌する、か」


 ソールは立ち止まり、思わず呟いた。


「ん、どうかした、ソール?」


 ソールの独り言に、ルナとコハルはきょとんとした。


「ううん、何でもないよ」


 少年少女は再び歩き始めた。少年の首には、恩人から託された懐中時計が提げられていた。






 それは、特別なものだった。しかし、きっとそんな『特別』を、誰もがそれぞれ違う形で持っているのだろう。そしてその『特別』をどう使うのか、それもきっと千差万別なのだろう。だが、それを『何かを守るため』に使えたら、きっと世界はもっと優しくなれるはずだ。






(きっとそれが、本当の)


 少年はそう思いながら、少女達と歩幅を合わせて歩いて行くのだった。

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魔法使いの懐中時計 暁月 オズ @akatsukiozu000

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