第184話 ジーフへの帰還
それから一行は、シズミ、ラバンカ、イーユと、ソール達がこれまで歩んできた道のりをなぞるかのようにして歩を進めていった。その道中で、孤児だった少女や素顔を見せるようになった少女、勇気ある幼い少年と再会をし、話をした。そうして十数日の時が過ぎ、行きの時に比べて何も障害もなく、無事にジーフの街へと辿り着いた。ジーフの街並みが見えるところまで来ると、コハルが目を輝かせながら馬車から降り、町に向かって走り出した。
「すごい、とてもきれいな大きな街ね!」
「ちょっと待ってコハルちゃん!」
慌ててルナがその後を追いかける。
「ちょっと二人とも。……全く仕方ないな」
ソールはため息を吐きながらも、故郷に戻る事が出来た安心感と喜びで口元が緩んでいた。
十数分ほど歩くと、一行はジーフの街の中まで来ていた。
「この辺りで良いか、ソール」
「はい、ありがとうございます」
ソールは礼を言うと、馬車から降りた。そして、そこで一度深呼吸をする。
「……そうだ、この感じだ」
「久々の故郷だもんな。どうだ、感想は?」
馬車の上からケビンが訊く。
「はい。そんなに長く離れていないと思っていたんですが、改めて着くと何だか何処か懐かしい気がします」
「はは、そんなもんだ。俺だって遠征やら何やらで遠出をしてカシオズに戻ってくるとそんな感じだよ」
「それは単にあんたが子供っぽいからじゃないの?」
「うるせぇ、黙りな」
いつものようにデュノがクスクスと笑いながらからかうと、ケビンは苛立ち混じりで返した。それを見て、ソールは思わず苦笑した。
「そうだソール。君は笑っていろ」
そんな様子を見て、グランが言った。
「君はしばらくの間、大きな戦いの渦中に身を置いていた。その間、ずっと緊張していただろう。歳にも見合わない苦労や苦悩があっただろう。だが、こうして戦いは終わり、君は故郷に戻って来た。これからは普通の子どもとして、普通の日常を謳歌してほしい」
「グランさん……。はい、分かりました」
グランの言葉を受け止めた上で、ソールは返事をした。その顔は何処か凛としたように騎士達には見えた。
「ほら、ソールも早く。こっちこっち!」
そこに、遠くの方からコハルが少年を呼ぶ声がした。少年達がそちらへ向くと、コハルが手を振っているのが見えた。
「ほら、二人が待っているぞ。行ってやれ」
「はい、ありがとうございます」
そう言うと、ソールはコハルとルナの居る方向へと走り出した。しかし、少しすると立ち止まり、振り返る。
「本当に、ありがとうございました!」
ソールは一礼し、再び礼を述べる。それに対し、騎士達は手を振って返した。今度こそ、少年は少女達のところへと走るのだった。
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