最終話

 いつもの道に出ないで、ステージ跡の道がそのまま続く。だから今戻ればスカンクにはまた会えるけど、それはしない。太陽が徐々に昇るのを体全部で感じる。

 しばらく進んで、あの赤い男性が言っていたことを思い出して、空間をノックする。

 やはり扉がそこに出た。でもさっきとは別のピンクの扉だ。ノブまでピンクで、それを捻って開ける。

 そこは一面の草原。そよ風が草の上を吹いて風紋を作っている。扉を閉めると、ノックで出したときと逆回しの感じで扉は消えた。だから今私は草原に一人で立っている。空は晴れ渡る昼。

 右を見ても左を見ても、前も後ろも誰もいない。

 前に進む。

 静か。音や気配を失って迎える静けさではなく、生命が穏やかに息付いている静かさ。見回せば、どの端にもビルがない。

 予感がする。

 ズックを置いて、座る。

 最後のアカリンゴを食べて、そよ風に髪を遊ばれながら日記を書いてゆく。スカンクの顔を思い出したら、また少しだけ涙が出た。でも、その涙が私が何者かを決めたことを揺らすことはなくて、後ろ髪でもないし、さよならのときに振る手のようなもの。

 私の旅を書き終えて、立ち上がる。歩く。

 景色は何一つ変わらない。見えるのだけど変わらない。

「十分来たよ。行こう」

 言葉にした途端に周囲が認識出来なくなる。道と同じようだけど、草原の中であることは変わらない。そのまま進む。前にある空間が揺れて、歪んで、別の道がその先に現れる。

 新しい道に入ってしばらく進むと、前方がモヤが晴れるように遠くまで見渡せるようになる。

 そこには濃緑のビルに左右と奥を包まれた、隙間の場所が見える。

 進んで、進んで、間違いなくビルが存在すると分かる距離になって、もっと進んで、ついにビルとビルの間に到達した。

 振り返ると空と雲のビルが遠くにある。

 もう一度前を向く。一歩目を踏み出す。

 この世界の最初にどの歌を歌おう。もう本当の声しか、出ない。


  (了)

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アカネ 真花 @kawapsyc

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