感情の上澄

@jeggernote

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 何も、出てこないな。

 机の上、原稿用紙の隣でいざ使い古しのシャーペンを握った右手は、そこから少しも動かなかった。そのくせ微かに震えるペン先が、どうしたんだと煽っているかのようで。

 しばらくぼんやりそれを見つめていたら、静かに苛立ちが湧いてきた。誰に向けてかと言えばもちろんシャーペンではなく、自分自身に。何も、特に難しいことを書こうというわけじゃない。好きに書き出せばいい、はずなのに。自分なりの言葉の一つも吐き出せないことには、ひどく虚しさまで覚えた。

 このまま固まっているのもいけない気がして、軽く視線を左にずらしてみると、寒風でも吹き荒んでいそうながらんどうのマス目を、カーテンの隙間から差す光が温めていた。柄にもなくこんな気持ち良く晴れた昼下がりに腰を上げたのは、やはり失敗だったかもしれない。さらにお節介なことに、その光の端に目を遣れば、唯一空欄でない箇所を指して見せている。

 『私とは』

 妙に意気込み、先に書いてしまった表題。これまで改めて考えもしなかったこと。どうやらこれは、自分にとってそう簡単なものではなかったらしい。

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