第2話 「白状しなさい。私のこと、ずっと見てたわよね?」

 波風を立てない人生、という生き方を無意識レベルにやっている自覚はあった。

 自分の記憶が正しければ母親に駄々をこねたことも無いし、わがままで困らせたこともほとんど無い。小学二年生の頃に宿題で出された、『両親の好きなところ』というテーマの作文を書くために父親の所在について訊ねたことがあったが、その時の母親の表情を見て、俺は子供ながらに色々と察した。

 困らせたと言えばその時くらいのもので、後にも先にもそれ以来父親については何も訊いていないし、何かをお願いするときにはそれなりに気を遣って、むしろこっちからわがままを要望することも期待することもなかった気がする。

 母子家庭で、一人息子。分かりやすい二人三脚の構図の中では、子供とはいえ俺も支える側に立っているのだと感じざるを得なかったのだ。

 だから自分の生活の中にちょっとでも波風が立とうとすると拒否反応みたいなものが出てしまい、不安や嫌悪といったネガティブな感情が沸き上がってしまう。

 火球を目撃した時もそうだし、もう二度と会いたくないと思っていた奴と入学当日に同じクラスだったことが発覚した時も、同じ反応をしてしまうのだ。


「へぇ、そんな事があったんだね」


 入学式とクラスメイトの自己紹介、ホームルームを終えたのは太陽がちょうど空の前上にさす頃だった。

 入学式と満開の桜並木。というのは学園物語にはよくあるシチュエーションだが、悲しきかな九州の平均満開時期は三月中旬から下旬にかけてである。俺たちが新しい学校の門をくぐる頃には桜もひと仕事終えた満足げな様子で花びらを散らせ、地面に落ちてほうきとちりとりに拾われる運命をたどっている。

 寂しくなった桜並木道を二人肩を並べて歩いていると、額に汗を滲ませる隣の那珂川なかがわ爽真そうまが俺の様子に気づいて何かあったか訊いてきたので、先日のカラオケから今日にかけての出来事を四〇〇字詰め原稿用紙一枚分にまとめて懇切丁寧に説明してやった。


「でもすごいよね。まさか同じ学校の、同じクラスの生徒だったなんて」

「しかも俺の目の前の席ときた。今日ほど世間の狭さを実感した瞬間はないな」

出雲いずもさんだよね、名前」

「たしかそんな名前だったな」


 覚えていないわけではなく、はぐらかした。

 目の前の席なのだから嫌でも意識してしまうし、名前だって一番に覚えてしまった。しかし本当は意識したくないし覚えたくもないのだ。完全なる拒絶反応が起きている。


「見た目は綺麗な人だよね。自己紹介の時も、落ち着いた雰囲気があったし、志良しろうにそんな暴言を吐くとは夢にも思わないけど」

「あれは猫被りだ。中には悪魔がいる」

「この前は、たまたま機嫌が悪かったとかは?」

「だとしても、衝動的に他人に暴言を吐くやつの性格が正常だとは思えんし、だったら良いかと思える器の広さは俺には無い」

ちょうがつくツンデレ気質とか」

「ツンデレもだいぶ可愛げのない領域までご出世になられたもんで。てかお前、俺の話を信じる気あるか?」

「あるよ。ただ君の一方的な話の全てを信じないだけさ」


 爽真は屈託の無い笑顔で言う。

 二枚目俳優の顔写真を切り取って顔に貼り付けたようにバランスの悪い太い体型と表情に、俺は怪訝な視線を向ける。


「相手にも何か事情があると?」

「僕はそう思うけどね。そうせざるを得なかった理由があるのかもしれないでしょ」


 まったくこのイケメンは、体は肥えても心は何も変わらない。鼻につくくらい相手に寄り添う姿勢をとりやがる。

 こういう時くらい俺だけに寄り添ってほしいものだと思うが、そんなこと口が滑っても言いたくないので「ふん」と鼻を鳴らすに留めた。


「どうだかね」


 それから爽真と電車に乗り、同じ駅で降りて別れた。

 同じように入学式を終えた他校の生徒たちを横目に駅舎から西口へ出て公園を横切る。

 家までもう間も無くといったところ、赤信号に足を止めていると、ふと背中から声をかけられた。


「少年」

「え、はい?」


 少々驚きながら振り返る。

 後ろに立っていたのは顎にうっすら髭を蓄えた色白の成人男性だった。思った以上に距離が近く、目の前の男の姿にまた肩がビクつく。

 前髪に片目が隠れた真顔を近づけ、俺の顔をまじまじと見つめてくる。白髪の混じった黒髪に、クマが目立つ死んだ魚のような目。威圧感がある。

 何だ? 道案内か? 日本人かこいつ? キャンユースピークジャパニーズ?


「少年」


 数秒黙っていた男の口が、必要最低限開いた。

 放った言葉はさっきと全く同じ単語である。


「な、何でしょうか」

「……出雲ゆいのクラスメイトだな?」


 いずもゆい? 出雲……ああ、あいつか。

 一瞬忘れかけていた名前を思い出す。憎き暴言女の名前である。くそ、せっかく忘れかけていたのに。


「そ、そうですけど」


 なぜこいつはそんなことを聞いてくるのか?

 あいつの親戚か誰かだろうか?

 だとしても今日クラスメイトになったばかりの俺に声を掛ける理由がわからない。


「……話があるんだ」

「へ?」


 男の顔が離れていく。

 まっすぐ立った彼の身長は思った以上に高く、下手すると爽真よりも上だろうか。細身の体に黒のスーツ姿。肩にはギターケースのような大きい荷物を担いでいる。まるで喪服のような格好。

 思い出した。俺は先日のカラオケで、こいつを見かけている。


「ついて来てくれ」


 男はそれだけ言って俺に背を向け歩き出した。つま先は、俺がさっき横切った公園へ向かっているようだ。

 怪しいの一言に尽きる男の誘いに付き合うか一瞬だけ考えた。

 背中を向けているから逃げようと思えば逃げられる。だがしかし、俺はその背中を追うという自分でも信じられないような選択をしていた。

 何となく、彼の目が疲れているようにも見えたからだ。

 濡れた雑巾を絞って出た最後の一滴並みの俺の些細な良心が疼いたに過ぎない。

 小さな公園の三人がけベンチに、男と距離を開けて腰掛ける。

 公園に一本だけ植えられた桜木から、花びらが数枚膝に落ちる。男の髪にも一枚乗るが、彼は取り払う素振りも見せずただ正面だけを見つめていた。

 

「私の名は、芦原あしはらみこと。事情があって出雲結を観察している者だ」

「事情? あなたは彼女の知り合いか何かですか?」


 緊張でキュッと閉まった喉を何とかこじ開け、質問を投げる。


「出雲結はこちらを認識していない。ただ関わりは深く、付き合いは長い」

「親族の方とか?」

「いや、全くの他人だ」


 他人。それがどうして彼女を観察する必要がある?

 怪しさがより深まる。この男についてきた自分に対して、早くも後悔が生まれてくる。


「出雲さんが、何か悪いことをしたとか」


 漫画や映画でよく見るクセの強い刑事。その予想を立てて訊く。むしろ自分の安全の為にそうであって欲しいと願った。


「おおよそ少年が想像している事とは別次元の話だ。私は刑事でも、ましてや肉親でもない」


 が、男の回答に俺の期待の全てが打ち砕かれる。

 同時により不信感が募った。猫背で正面を見つめるばかりの黒服の男に対して、身の危険さえ覚える。


「あの、まったく要領が掴めないんですが」


 要件があるならさっさと言ってほしい。何もなければ解放してほしい。

 兎にも角にも今すぐ家に帰りたい。今日ほどいつものうるさい母親の声を欲したことは無いかもしれない。

 すると男は、少し視線を落としながら、


「すまない。少々複雑な事情でね。伝え方を考えているんだ」


 申し訳なさげにそう言う。煩わしさの自覚は、本人にもあったようだ。

 ただそんな些細な言葉に、俺の中の不安は少しばかり取り除かれた。彼を取り囲んでいる掴めない感覚の正体が見えたからだろう。


「それは、俺に何か関係があることなんですか?」

「そうだ。正確に言えば、“関係ができた”と言う方が正しい」

「関係ができた? クラスメイトになったから?」

「それも含まれる」

「あの、そろそろハッキリ教えてくれませんか? どんな事情があるか分かりませんけど、焦らされる方がストレスです」


 不安の次は、嫌悪感が打ち寄せる。

 ハッキリしない男って、という女性の方々の声を今なら真っ向から受け入れられる気がする。


「何を聞いても受け入れるか?」


 やっと、男がこっちを向く。

 覚悟を決めたかのような、まっすぐな眼差しを向けられている気がした。

 俺は半ば相手に釣られて、頷いた。同時に唾も飲み込んだ。


「私は、未来からきた」

「……冗談ですか?」

「何を聞いても受け入れると言っただろう」


 真剣な眼差しに、俺は言葉をつぐむ。

 男はまた正面を向いて語りを続けた。


「私は未来から、この世界の時間軸で言えば二年ほど前にこの時代にやってきた。目的はただ一つ、地球滅亡を阻止するためだ。その鍵を握るのが出雲結であり、私は二年に渡って出雲結の観察を続けてきた」


 受け入れると言った手前、黙って男の話を聞いていた。

 だがもう既に、三つほど気になる単語が浮上している。未来? 地球滅亡? 出雲さんが鍵?

 おいおい、SF映画でももっと丁寧な説明をしてくれるぞ。


「私がいた時代、少年からすれば未来では、地球滅亡の運命を辿ってしまった。出雲結によりトリガーは引かれ、機関の誰も阻止することが不可能となった。唯一の方法が時間移動による世界改変で、私は志願してこの時代にやってきた。出雲結を止めるために」


 話が進むにつれ、男の声に感情が宿っていくようだった。

 それが演技であるならば、この男の正体はプロの役者に違いない。躍動感といい感情の込め方といい、ドラマに出演するそこらの俳優よりもリアルで情緒がある。

 が、同時にこの場面でこれを演技だと言うやつは、そうとう人を信用できない人間か、アホに違いないだろう。

 話の内容を信じるかどうか以前に、邪険に扱ってはいけないような気はした。


「少年に声をかけたのは、協力して欲しいからだ」


 ほう、そう来たか。

 まあ、ただ世間話をするために俺を呼び止めるわけはないか。


「出雲結に地球滅亡のトリガーを引かせない為に、手伝ってくれないか?」


 また、真っ直ぐな目が向けられる。

 死んだ魚のような目。不安、恐怖、期待、希望。いろんな感情が混ざり合ったような瞳。

 俺はそんな彼から、目を背けてしまう。


「あの、俺にできることはないと思います」


 まず最初に、これだけは伝えておきたかった。


「それに、分からないことばかりです。つまり出雲さんが、未来で地球滅亡を引き起こすってことですよね。あの、受け入れるって言っておきながら卑怯かもしれませんけど、信じるにはデカすぎる話です」


 どうして俺が気まずくならなければならないのか。

 一方的に声をかけられ、話されているのはこっちの方だ。

 申し訳ない気持ちなんか持つ義理も無いだろうに、なぜ罪悪感を持たなければならない。


「……そうか」


 視界の端で、男がゆっくりベンチから立ち上がる。


「今の話は聞かなかったことにしてくれ。時間を取らせてすまなかった」


 淡々とした口調だ。さっきまで滲み出ていた感情が嘘のように無くなっている。引き際も良い。

 もしかして、断られるのはこれが初めてではないのか?


「あの、あなたは他の人にも、こんなことを話してるんですか?」

「そうだ。ただ人は選ぶし限定している。誰も彼もというわけではなく、条件を満たした者にのみ声をかけている」

「俺が、その条件を満たしてるんですか?」

「そうだ」

「何でもない、一男子高校生ですよ」

「そうだ。だからこそだよ」

「え?」

「それが絶対条件なんだ」


 男が歩き出す。もう彼の中で、俺との会話は終わったようだ。


「あ、あのっ」


 思わず呼び止めた。男は立ち止まり、首だけでこっちを振り向く。


「あんまり、こういうこと人に話さない方がいいですよ。パラドックス、だったかな。よく分からないですけど、未来に影響したらやばいんじゃないですか?」

「それは心配いらないよ」

「なぜですか」

「誰も信じないからさ。君みたいにな」


 胸にグサッと、見えない何かが刺さった気がした。

 嫌味か素直に意見か、男はその言葉を最後に早足に駅の方へ去っていった。俺はその姿が見えなくなってもしばらくベンチに座ったままでいた。

 頭の中で男の話を思い出していたのだ。

 悲惨な未来から二年前にこの時代にやってきて、地球滅亡を引き起こす出雲さんの観察を続け、世界の結末を書き換える。

 SF映画にありがちな設定だ。思いつこうと思えばいくらでも脚本を書けそうな内容だ。ベター過ぎて、全くもってリアルじゃない。

 百歩譲って、あの男が出雲さんを付け回しているのは信じられる。先月にカラオケ店で男の姿も出雲さんの姿も確認しているからだ。

 ストーカー。

 ふとそんな単語が浮上するが、すぐに取り消す。だったら俺に声を掛ける理由が分からん。自らわざわざバラす事にメリットなんか無いだろうに。

 ため息。くそ、頭の中がパニックだぜ。


「腹減ったな」


 何かきっかけが無ければ悶々とずっと考えそうだった。空腹を理由にベンチから立ち上がり、家へ帰る事にする。

 今日くらい母親とランチに行ってやってもいいかもしれん。入学式だし、豪華な食事で祝ってもらおう。

 決して、母親に気を紛らわしてもらいたいわけではない。


   ***


 一週間があっという間に過ぎた。

 教室の中では少しずつ人間関係が構築され始め、組み合わせやグループができあがっている。

 俺はと言えば、相変わらず爽真と関わる頻度が多い。昼休みには毎回弁当を突き合わせるし、登下校も一緒にしている。お互いに部活には入部せず、する予定も今のところは皆無である。

 そんな中学時代と変わらない人付き合いは目新しさは無いものの居心地はいいものだ。平凡な日々と言うにふさわしい日常が繰り返されており、俺はそれだけで十分満足のいく高校生ライフを謳歌しているのである。

 退屈な日常こそ、贅沢の極みであると思うのだ。

 ところが、そんな平凡で退屈な日常の視野の中には出雲結の姿も当然の如く映り込んでいた。

 席が目の前なのだから仕方がないとはいえ、授業中はほとんど彼女の背中を見なければならないというのは、ちょっとばかり気が重くなる。

 カラオケでの事件も根に持っているし、何より芦原尊という怪しげな男の話が今になっても頭から離れていなかった。

 性格と、顔面偏差値超えの美少女要素を除けばどこからどう見ても普通の女子高校生である出雲さんが、未来では地球を滅ぼしてしまう諸悪の根源であるというのはどう考えても信じられるわけが無い。

 そうなのだが、どーしても気になってしまうのは何故だろう。

 一週間経ってもクラスの誰とも馴染もうとしていないからなのか、学校で彼女が喋っている姿を授業以外に見た事がないからなのか、はたまた窓に映る彼女の横顔がたまに寂しげに見えるからなのか。

 と、俺にはそんな純文学的な感性は無いはずなので、三つ目は排除しておくとしよう。

 まあ詰まるところ、意外と物静かな性格にギャップを感じていたのかもしれない。カラオケでの彼女の威勢を目撃すれば、誰だってそう感じるに違いないだろう。

 だから少しばかり、ほんのちょっとだけ、出雲さんを見ている時間もあったことは認めよう。

 事件は、そんなことを自分が受け入れそうになっていた金曜日の昼休みに起きたのだった。


「あんた、ジロジロ私のこと見て、どういうつもりなわけ?」


 空腹の限界で迎えた昼休み、いつも通り爽真の席へ自分の弁当を運ぶべく立ち上がろうとした瞬間、出雲結が突如後ろを振り返って俺の机に拳を叩きつけてきた。

 そして間髪入れずに、怒りのこもった静かな声を吐いてきたのである。

 まるで道端で絡んでくる不良のようだと思った。彼女が机を殴った音で、教室中が少しどよめいている。

 俺は困惑しながらも彼女と視線を合わせる。

 少しツリ目の大きな瞳、小さな鼻、形の綺麗な唇。整った顔のパーツはどれも『怒』のサインを表していた。


「な、何だよ急に」

「誤魔化すな。あんたここ最近ずっと私のこと見てるわよね? 気づいてないと思った? 授業中、あんたのアホ面がずっと窓に映り込んでるのよ」


 彼女が指差す窓には、うっすらと教室の様子が映る。なるほど、こっちから見えているなら、向こうから見えていてもおかしくないもんな。

 だからってそんなに怒ることかい。


「誰がアホ面だ。俺は真面目な生徒よろしく黒板に視線を向けていただけだ」


 半分嘘をつく。

 真っ向から反論したって彼女が取り合わないことは、カラオケの時に痛感してるんだ。


「嘘ね」


 チッ、バレたか。


「白状しなさい。私のこと、ずっと見てたわよね?」

「視界に入っていた、という表現が正しいがな。前の席にいるんだから、そりゃ嫌でも見ちまうさ」

「ふん、どうだかね。私のうなじを眺めて鼻の下を伸ばしてたんじゃないの」

「あのな、人をそうやってヘンタイ呼ばわりするのはやめろ。自意識過剰だ」

「はあ? 誰が自意識過剰よ。事実でしょ!」


 また机に拳が叩かれる。

 俺もいよいよ限界だった。感情に任せて彼女を睨む。


「事実なもんか! 俺はお前の事なんかこれっぽっちも気にしちゃいねぇ!」


 思わず叫ぶと、教室中の雑音が一気に吹き飛び、シンと静まり返った。

 出雲結と睨み合う。またこいつが何かを言おうものなら、遠慮無しに言い返してやろうといきり立っていた。


「志良、そこまでだよ」


 ところが爽真が間に割って入ってきた。


「頭冷やすよ。ほら弁当持って、今日は外に行こう」

「お、おい、ちょっと」


 抵抗する間もなく、爽真の太い腕に引っ張られて席から引き剥がされる。いつの間にやら俺の弁当も彼の手に握られていた。


「こら、ちょっと、逃げるな!」


 出雲結も追いかけてきそうな勢いで席を立つが、女子の数名に進路を阻まれていた。爽真の行動に感化され、俺と引き離すべく動いてくれたのだろうか。

 冷静になるととんでもない失態を犯したことに気づいて、恥を覚えた。こんな形で注目を浴びるのは、平凡な学校生活を望む自分にとって痛恨の極みだ。

 促されるままに外階段の最上段で弁当を食いながら、爽真に愚痴をこぼして昼休みを過ごすこととなった。

 教室に戻ると、出雲結はまたいつものように机に肘をつき、窓の外を眺めていた。席についた俺には一瞥もくれず、まるで昼休みのことなどサッパリ忘れたかのように通常運転を取り戻していた。

 こいつの自意識過剰さなら、勢いに任せて地球も滅ぼせるかもしれないな。

 俺はそんなことを考えながら、その日の午後からは一度も彼女の背中も、窓に映る彼女の横顔も見ないようにして、彼女と同じようなポーズで窓の外の景色を眺めていたのだった。

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失恋したので世界を滅ぼすことにしました 一 雅 @itiiti

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