第5話 神様の悪戯?
魔法は解けてしまったみたい。
智さんとはそれっきり。
消息を知りたくて「柏城 智」で検索をかけても、全くヒットしてこなかった。
2年の月日が流れた。
あの熱に飛び込めば、また智さんに会えるかなとも思ったけれど、コロナが流行って、去年も今年もお祭りは、神事のみだった。
すっかり散歩コースになった、大國魂神社の表参道沿いのケヤキ並木通りを歩く。
すると、ひとりの男性が立ち止まって、欅を見上げている。
大分高齢のようだが、チノパンに上品な藤色のシャツを合わせ、白のスニーカーを履いたお洒落な老紳士だ。
「こんにちは。この欅のはじまりは、源義家なんですって」
話しかけると老紳士は、顔を綻ばせた。
「…… 心春さん。お久しぶり。お陰様で、足は、まだ付いているよ」
私にとっては2年ぶりの再会。
彼にとっては…… 何年ぶりだろうか。
私達はベンチに座った。
智さんは、あれからの話を聞かせてくれた。
色々あったけれど、ちゃんとお医者さんになったんだって。
お婿に入って、子供が出来て孫ができて、幸せに暮らしているって。
「心春さん、僕は貴女に会えて良かった。貴女に出会えたから、未来を信じられた。大変な事があってもね、世界はここで終わる訳じゃない。続いていくんだ。だからしっかり繋いでいこうってね」
今、彼が纏う雰囲気はとても温かくて、話すと元気をもらえる。
「おーいじいちゃん。遅いから迎えにきちゃったよ」
智さんの面影を残す男性がやってきて、はにかんだ微笑みを浮かべ、会釈をした。
私の心の奥に、甘やかな細波がたつ。
神様の悪戯は、まだ終わっていないのかも知れない。
くらやみ祭りで逢いましょう 碧月 葉 @momobeko
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