晴-アオ-の時代

人生

 1年生になったら




 本日は晴天なり――


 今日も日本ではマシンガントークが国会中継で繰り広げられたかと思えば政治家が銃火器を取り出す始末だし、都市の真ん中では警官とギャングが撃ち合い、野次馬の喝采が飛び交い、大都会はさながらスポーツ観戦でもしているような大騒ぎ。かたや近隣のスタジアムは今やコロシアムの様相を呈し、退屈でルールに従順なスポーツなど流行らないとばかりに野球ではデッドボールがストライクだしサッカーではレッドカードが花吹雪のように乱舞する。


 そんな世紀末日本の首都東京近海に浮かぶ人工島、観国島カンゴクジマにある学園の体育館では、時代錯誤も甚だしい「校長先生の朝の挨拶」が、リモートで行われるというごくごく平和な時間が展開されていた。


 冷房の効いたさぞ涼しい部屋から演説しているのだろう校長には知る由もないが、四月にもかかわらず地球温暖化の影響で体育館の中は異様に蒸し暑く、当然空調設備などない体育館に集められた新入生たちはばったばたと倒れていき、壁際に控えていた武装風紀委員たちによって次から次へと運び出されていく。さながらこの学園に相応しい生徒を真に選別しようというかのように、この耐久入学式は校長先生の挨拶の後、在校生代表挨拶、新入生代表挨拶と続く予定らしい。


 隣で倒れた少年が武装風紀委員に運ばれていくのを横目に見ながら、平凡ヒラナミタロウはいっそ校長が「これからみなさんに殺し合いをしてもらいます」とか言い出さないか、などと考えながら、額に浮かんだ汗を拭った。


 二百人以上いた新入生がちょうど半数になったかという頃、校長先生を映していた画面が暗転し、次にその舞台に在校生代表こと学園生徒会長の三年生が現れた。


「一年生になったからには、友達百人を目指しましょう」


 などと、ちょうどこの場に新入生が百人しか残っていないことを笑顔で教えてくれた生徒会長の背後から新入生代表が現れ、生徒会長の頭部を拳銃でぶっ飛ばした。

 クーデターである。


「友達百人? ははっ、それだけいればクズも無能もいるだろうし、そんなヤツらと付き合うだけ時間の無駄ですよね。という訳で、みなさんにはこれから殺し合いをしてもらいます」


 僕の友達に相応しい十人を選別します、と。

 その宣言にざわめき出す百人の生徒。それらをいさめるように壁際に並んだ武装風紀委員たちがライフルを構える、威嚇する。そう、彼らはすでに買収済みなのだ。


「これから学園敷地内に武器を投下します。それらを使って、そうですね、残り十人になるまで殺し合ってもらいましょう。この世は弱肉強食、百人で富士山にのぼるなんて無謀ですよね。ではみなさん必死に駆けずり回ってください、最後に、残ったみんなで笑いあいましょう」


 直後、新入生代表は発砲した。それはさながらかけっこのスタートを告げる合図。体育館内にいた生徒たちが一斉に動き始める。ある集団は武器を求めて外へ駆け出し、ある集団は訳が分からず立ち尽くしまたは喚き立て、またある集団は状況を見極めようとするかのように平然と体育館に居残った。


 平凡タロウもまた体育館に居残った一人だが、彼は戸惑っていたのでも、状況を静観していたのでもない。


 見惚れていたのだ、自分の前に現れた美少女に。


 武装風紀委員から武器を奪おうとする生徒たちが壁際に殺到したことで開けた空間で、紙吹雪サツタバを背景にこちらを振り返った一人の少女に。


 それはもう、一目惚れだった。平凡タロウにはもう、彼女の姿しか目に入らなかった。

 その背後で金持ちの少年が札束をバラ撒き庶民たちを買収しようとして頭を撃たれ、ハイエナと化した生徒たちに群がられる様子など、一切頭に入ってこなかった。


 少女は言った。どこからか響く爆音にすら負けない、凛とした声で。



「わたしは〝スカウト〟――ねえ、あなた。わたしと一緒に、この学園の頂点トップを目指さない?」



 悪徳外道が跋扈する世紀末日本――新世紀の正常化のため、清浄機関によって選別された〝犯罪者予備群〟の少年少女を集めた人工島の学園。


 この物語は、そんな学園を舞台に繰り広げられる、少年少女の――ありふれた、恋の物語である。


 たとえどんな世界になったとしても、少年は少女のために戦うし、ラブコメは不変なのだ。



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