水面の列車
柚緒駆
水面の列車
水面の列車は速い速い。
銀河よこたう水田の中を、蛍飛び交う小川の上を、蛙鳴く鳴く溜め池の縁を、車内に明るく光を灯して。
音も立てずに煙も吐かず、見る者もない水面の上を、誰も乗らない列車が走る。
かつてはレールが敷かれていた、橋を道路を小高い丘を、水面だけに姿を映して、今夜も列車は通り抜けて行く。
いま目の前を通り過ぎたのに、いま後ろ髪に触れたのに、その気配にさえ気付かれないまま。
まれに気付いた人々が「あれは鬼火だ人魂だ」騒ぐ声など聞こえない風に、いったいどうして走っているのか、いったいどこへ向かっているのか、誰も知らないこの列車に、乗る方法はあるのだろうか。
もしあるのなら乗ってみたい。窓を隔てた異界の内から、この人の世がどう見えるのか、いつかこの目で確かめてみたい。それが最後の記憶になっても。
水面の列車は速い速い。
水面の列車 柚緒駆 @yuzuo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます