水面の列車

柚緒駆

水面の列車

 水面の列車は速い速い。

 銀河よこたう水田の中を、蛍飛び交う小川の上を、蛙鳴く鳴く溜め池の縁を、車内に明るく光を灯して。

 音も立てずに煙も吐かず、見る者もない水面の上を、誰も乗らない列車が走る。

 かつてはレールが敷かれていた、橋を道路を小高い丘を、水面だけに姿を映して、今夜も列車は通り抜けて行く。

 いま目の前を通り過ぎたのに、いま後ろ髪に触れたのに、その気配にさえ気付かれないまま。

 まれに気付いた人々が「あれは鬼火だ人魂だ」騒ぐ声など聞こえない風に、いったいどうして走っているのか、いったいどこへ向かっているのか、誰も知らないこの列車に、乗る方法はあるのだろうか。

 もしあるのなら乗ってみたい。窓を隔てた異界の内から、この人の世がどう見えるのか、いつかこの目で確かめてみたい。それが最後の記憶になっても。

 水面の列車は速い速い。

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水面の列車 柚緒駆 @yuzuo

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