87.精霊術師、闘志を燃やす
「ルコ、素材を持ってきたよ」
「ルコー、見て見てー」
「ほら、見なさい、ルコ」
俺たちは闘技場ダンジョンのボス、ストロングガーディアンを倒し、さらに最速記録を達成したこともあって、レア素材の『守護者の怒り』をゲットして持ち帰ったところだった。サラマンダーの鱗以上に熱を感じる青い石だ。
「お、おおぉっ! これまた、とんでもない代物でありやすねえっ!」
「ぐすっ……」
目を輝かせて素材を見つめるルコの前で、泣き声を発する人物がいた。
「ルコったら、素材くらいでそんなに喜んで、おかしいです……えぐっ……」
「あ、あっしからしたら、なんでこんなことでファレリア嬢が悲しんでるのか、さっぱりわからないっすよ!」
ルコからファレリアと呼ばれたこの子は、最近俺が契約した哀のオリジナルの精霊の幼女で、俺たちが闘技場ダンジョンに行く際、カレティカの森で彼女の泣き声や地の精霊を頼りに探し当てた子なんだ。
それも、あのファレリアの花が咲いていた場所だった。あそこでずっと契約してくれる人が来るのを待っていたらしいが、あまりにも引っ込み思案なために、俺が花を採取したときは泣き声すら上げられなかったんだそうだ。
それで寂しさと後悔のあまり、俺の夢の中に出現したとのこと。契約すると人の同情や共感を得やすくなるだけでなく、繊細さを得るので魔力もかなり上がるんだとか。
「まったくもって、余にはこれくらいで喜ぶのも悲しむのも意味不明だし、けしからんっ!」
ルコとファレリアの様子を見て何故か憤ってるのは、怒の精霊として目覚めたばかりのマリアン王女だ。確かによく考えるとそれっぽかったとはいえ、彼女が精霊だとはさすがに気付けなかった。
怒の精霊と契約すると、相手が従いやすくなって物理攻撃力もアップするらしい。
とにかくこれで喜怒哀楽の精霊たちが揃ったので、いよいよリヴァンたちとの決戦も近いってわけだ。
「みなさん、楽しそうですねえ。くすくすっ……」
3人の精霊たちの様子を見て可笑しそうに笑ってるのは、楽の精霊であるソフィア嬢だ。彼女は冒険者ギルドからしばらく休暇を貰ったってことで、今じゃ宿舎で俺たちと一緒に生活している。
ちなみにソフィアによると、あれから【天使の翼】のリーフはあそこがなくなったために完全に女の子となり、本人もその気で美少女として磨きがかかったそうで、パーティーに加入したいという男たちが宿舎に押し寄せてるらしい。
いつかは無効化も切れるだけに、そのときを想像したら色々と気の毒になるが、まあ元に戻ったとしても彼は花嫁に選ばれるほど魅力があるから大丈夫だろう。
「――ほいっ、できたよっ、これがアッチアチの、闘志のガントレットでありやすねえっ!」
「「「「「「おおぉっ……!」」」」」」
出来上がったアイテムを見せてもらうと、それは大きな手袋のようなものだった。
「ルコ、ありがとう。それにしても腕が一段と上がってるし、もう師匠を越えたんじゃ?」
「そ、そそっ、そんなことはないでありやす! 照れやすううぅっ!」
ルコは今にも昇天しそうな顔だ。
「それで、どんな効果があるのー?」
「どういう効能があるのかしら?」
「どういった効き目ですか? ぐすっ……」
「どうした効用なのだ!?」
「どのような効果なのです?」
「そ、そんなにみんなで一斉に詰め寄られたら、やっぱり照れやすよぉっ! これを装備すると、物理攻撃力が格段に増すんでありやす!」
「へえ、なるほど。結構しっくりくるなあ」
俺は早速、闘志のガントレットを左手に装着してみることに。右手には星のブレスレットがあるし、杖も持たなきゃいけないので邪魔になるしな。
無効化能力を弱める狂気を前にして、風刃の杖じゃ得意の打撃力も弱まっていたし、かなり心強い武器になりそうだ。また、大きいし丈夫なので盾としても使えるはず。
ただ、狂気の化身であるリヴァンたちを倒すにはもっと強い装備も必要になってくるかもしれない。なので、これからも慢心することなく様々なダンジョンで最速記録を達成し、レア素材を獲得するつもりでいる。
ソフィアによると、既に上位の狂気による脅威が迫りつつあるらしいしな。どんな事件が起こるかはまだわからないが、次は上級パーティーの影に潜入することになるだろう。
これから俺たちにとって本当の闘いが始まるといってもいいだろうが、それでも負ける気はまったくしない。なんせ、こっちには無の精霊――すなわち最強の精霊王や、心強い喜怒哀楽の精霊たちがついているんだから……。
あらゆる属性の精霊と契約できない無能だからと追放された精霊術師、実は最高の無の精霊と契約できたので無双します 名無し @nanasi774
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます