86.精霊術師、身の毛がよだつ
「――すまねえが、俺が知ってることはこれくらいだ……」
「なるほどな……」
「そうだったんだー」
「よくわかったわ」
中級の狂気を追い払うことに成功した俺たちは、先程目覚めたばかりの勇壮な感じの女から事情を聴いたところだ。
彼女の名前はアリーナといい、【月下武人】というパーティーのリーダーで、なんとソロでA級までいっていたそうだが、白魔術師のドルファンを風の洞窟ダンジョンで拾い、山奥で鍛えていた最中にこうなったんだそうだ。
それも、いきなり襲い掛かってきた罰として、裸にして大樹に括りつけたあとだっていうから、ドルファンが狂気に憑りつかれるのもよくわかる話だった。
「……ククッ、全ての美女は僕のものになるのだ……」
やつはまだ倒れていて呑気に寝言を吐いてる。本当にお騒がせなやつだな。
「つんつんっ」
「こら、ダメよ、エリス。その人、邪悪すぎるわ」
エリスが木の枝でドルファンの股間を突っつき、ティータがたしなめていた。
「おい、いい加減起きろてめえ!」
「ぶはっ!?」
アリーナにビンタされたドルファンが飛び起きると、俺たちのほうを見てニヤリと笑った。なんだ?
「……お、レオン君ではないか。それにエリスも、謎の美少女もいるな。フフッ、そうか、みんなで僕を迎えにきたのか。まあ今までのことを深く反省し、謝罪するならば入ってやってもいいが、その場合は僕が【名も無き者たち】のリーダーになることと、そこのクールな感じの子も含めて、無条件で僕に譲渡すること。それならば喜んで入ってやってもいい!」
「「「……」」」
相変わらずだな、こいつは。こういう奇妙な思考回路だから、大した腕もないのにここまで生きてこられたのかもしれない。
「おい、ドルファン、てめえ、まだ変な夢でも見てるのかよ?」
「あ、あぁぁっ!」
アリーナに胸ぐらを掴まれたドルファンが見る見る青ざめていく。
「レ、レオン、助けてくれたまえ! この凶暴な男の女が僕をいじめるのだ!」
男の女? 何言ってんだか。まだ夢から完全には覚めてないみたいだな。
「助けてくれだあ? てめえみたいなクズを助けるやつがどこにいんだよ! 拾ったときは、まさかこんな救いようもないやつだとは夢にも思わなかったぜ……」
確かに、アリーナの仰る通りだ。
「く、クズはお前のほうだっ! レオン、頼むから助けてくれ! この男みたいな女を殺せば、この僕が特別に褒めてやるから!」
「おうおう、助けてもらっておいて、殺せだと? 上等じゃねえか。こうなりゃあ、俺がお前のあそこをちょん切って、本物の女にしてやるから、覚悟しやがれ……」
「しょ、しょんなっ……」
「オラアッ、とっとと来いっ!」
「た、たしゅけてええええぇぇぇっ!」
ドルファンがアリーナに首根っこを掴まれ、例の小屋まで引き摺られていく。わざわざあそこまで行くってことは、本当にやる気なんだな。
それからまもなく、耳を塞ぎたくなるような断末魔の悲鳴が周囲にこだました。男としての最期の日ってわけか。
ちょっと気の毒だが、まあいいや。これ以上被害者が出ないためにもちょうどいい。
やがて、アリーナが放心状態のドルファンを連れてきた。
「――ふう、終わったぜ。お嬢さんが二人いるところで、見苦しいもんを見せたくなかったんでな。最後に、本当に申し訳なかった。こんな汚い白魔術師を拾ったばっかりに、とんでもねえ騒動になっちまって……」
「いや、いいんだよ。あなたは悪くない」
「うん。悪いのはぜーんぶこのおじさんっ」
「本当ね。この邪悪なおじさんのせいだわ」
「ぼ、僕はおじさんじゃないっ!」
まーだこんなことが言える元気があったのか。あそこを切られたっていうのに、ドルファンのメンタルはどうなってんだ。
「ま、そうだな、てめーはもうアソコがなくなったからおじさんじゃねえ。な、ドルファーナ?」
「う、ぐぐっ……」
あそこがないからドルファーナか。これは傑作だ。エリスたちも口を押さえて笑ってる。
「これから、お転婆のドルファーナを、死ぬほど矯正して淑女に変えてやるつもりだから、どうか安心してくれ。ほらっ、行くぞ!」
「ひ……ひいいいいぃっ!」
ドルファーナがアリーナに引き摺られていく。さて、これで例の依頼は一件落着だな。リーフや縛られた女性陣たちと一緒にギルドへ帰還し、ソフィアに報告せねば。
それにしても、一つ気懸りなことがある。
アリーナも狂気の中に含まれていたとはいえ、今回の事件の発端となったのは詐欺師のドルファンなわけで、あいつ程度であのとんでもない強さなら、リヴァンたち四天王だとどうなるのか。今後のことを考えると末恐ろしくなるな。
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