つまらない映画

みず

つまらない映画

お菓子を食べてやたら悲しく切ない歌を聴いてから、今朝見た映画のことをレビューサイトに

「単純につまらなかった。どこかで見たことがある話の詰め合わせ。」と書き込んだ。

世の中には映画が山のようにあって小説や漫画もありふれているのに、面白かったと言えるものなんてほんのひと握り。大半がなにかの真似事でつまらなくて、どうでもいい。ゴミばっかりだ。




陰険な僕の唯一の友達と言えるササキの書いた小説が目に留まる。

彼は数ヶ月前から小説を書くのにハマった、と言って以来それをネットに公開している。

ただの黒歴史じゃないか。と僕は笑ったけれど、彼はうるせえ、別にいいんだよと言っていた。

もちろん閲覧者なんかはゼロに等しくて、ほぼ僕しか見ていない。

彼の書く話も、さっき言ったように例外ではなく、つまらない。でも、彼は唯一の友達だ。だから読んでいる。友達として彼の書くものに興味がある。それだけだ。


彼はある時「ミトも書いてみろよ、小説!お前頭いいし性格悪いから、すっげえサイコパスな犯人が出てくるミステリーとか書けそうじゃね?」と僕に言ってきたことがある。

僕は、絶対に小説など書かない。ササキはともかく、大体小説を書いてるやつは嫌いなんだ。もっと他の物に勤しめばいい。作曲とか、絵を描くとか。

小説なんか誰にでも書ける。ほんとに誰にでも。目の前にいるササキがいい例だ。こいつにだってかける。多分僕にも。

つまらないゴミを生み出して自分だけがその満足感に浸って気持ちよくなって自分は自分なのだとそのゴミに向かって叫ぶ。なんて虚しい行為だろう。

僕は自分が凡庸で才能なんかありもしないことを知っている。ゴミを生み出すなんてごめんだ。だから書かない。

それでも、ササキの書いた小説を読んでいたのはきっと単純に彼のことが好ましかったからだと思う。


ササキは最近怪談とか都市伝説とかそういったオカルトの類にハマっているらしく、ホラー映画が好きだと言った僕によくおすすめのホラー映画を聞いてきていた。

ある朝彼は僕に「なあ、お前きさらぎ駅って知ってるか?」と聞いてきた。僕は何となく昔Twitterで見かけたことがあるよ、と答えた。

「あれさ、マジであるって最近噂になってるんだって!!!」

彼がやたら興奮した様子で僕にそういうものだから、僕は「落ち着けよ、きさらぎ駅って割と前からネットで噂になってるやつだろ?あんなのエンターテインメントだよ。フィクションに決まってる。」と彼に言った。

なんだかこの会話がB級ホラーの最初の伏線みたいで少し可笑しかった。


ちなみに最近の彼はずっとこんな調子だ。

コックリさん、○○町のトンネル、口裂け女やこの学校の西階段で見られる幽霊の噂、だとか。

僕には全部が誰かの創作物に見えて、つまらない小説を読んでいる気分だったが、彼はどうやら違うようだった。


そんな日々が過ぎたある日。

その日は夏休み明けで、学校に行くのがいつも以上に気だるかった。なぜかその日ササキは来ていなかったけれど、あいつは割とサボり魔なので気にする事はなかった。

しかし、その夜。

彼から電話が来る。

「もしもし?なんだよ電話って、珍しいな」

「…とうに……んだ…」

電波が悪いのか、ノイズばかりが聞こえてなんと言っているのかわからない。

「おい、どこにいるんだ?すごいノイズだけど」

「…ミト…!……こ…んだ」

なんだか、彼の声がやけに震えていて僕は気が気で無くなっていた。何かあったのだろうか。

「おい!ササキ!なんだよ!大丈夫か!?」

「だから!!きさらぎ駅にいるんだよ!!!」

やっとはっきり声が聞こえたと思ったら、それは耳を疑う言葉だった。

「何言ってんだよ、僕を驚かせようとしてるの?悪いけど、そういう手には引っかからないぞ?」

僕が茶化しながら言うと

「…ってわかるんだ……でも……あ…」

またノイズだらけだ。僕は怖くなった。本当に。

彼はふざけてばかりのやつだったけど、こんなに長く演技なんか出来ないだろうし、彼が泣いているような震えている声を聞くのは初めてで、生まれて初めて本当の恐怖を感じた。


「な…ぜっ……でくれ……」


彼が何か言ったあと、僕は怖くなって電話を切ってしまった。

なんだなんだなんだなんだ?

何が起きた。怖い。普通に怖すぎる。

彼にかけ直したけれど、繋がらない。

なんだって言うんだ。

でもそうだ。タチの悪い冗談かもしれない。

明日学校にいたらササキはいつも通り学校にいて、ゴミみたいな小説を見せつけて、笑って。



そう言えば、小説。

ササキの小説を昨日更新されていた。

僕はそれを見てゾッとする。

それは、きさらぎ駅を題材にした話だった。

そこには何があって、何が起きるのか。

クライマックスの主人公がヒロインに電話をかけるシーンはまさに僕らがさっき繰り広げたものと同じだった。


もしこれと同じことが起きてるのだとしたら、彼は戻ってこない。


でも、そんなことはありえないだろ。あまりにも話が出来すぎてる。

そうだ、おそらくさっきの電話には録音機能がついてる。僕のスマホは自動でそれを設定するようにしていたはずだ。聞き直せば、きっと。

と思い聞き直したが、さっきよりもなんだかノイズは濃くなっている気がする。まったくササキの声が聞こえない。

しかし、最後の方になると割と鮮明に聞こえるようになった。

そして、彼は最後

「なあミト…絶対に切らないでくれ…怖いんだ…切らないでくれ…」と言った。


僕は自分の口から声にならない叫びが漏れるのを聞いた。


















誰かがスマホに何かを入力している音が聞こえる。


どうやら、映画のレビューサイトみたいだ。

なんだかこの光景に見覚えがあるけれどきっと気のせいだろう。

そしてその誰かは、

「単純につまらなかった。どこかで見たことがある話の詰め合わせ。」

と書き込んでいた。

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つまらない映画 みず @hanabi__

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