第5話 女神様のチートはどうしてそんなに便利なの

「――ああ、また失敗だわ」


 真っ白な世界で誰かの声が響きます。


「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した」


 そして。


 と空間が歪んで渦を巻いたと思えば、時計の針が逆回転を始め世界は何事もなかったように元通りに戻りました。


その様子を魔法で覗いているのは、全知全能の神ゼウス様と、先程までチー太郎と会話していたはずの女神様でした。

 彼女は自ら作り出した箱庭の中でGMゲームマスターかつプレイヤーとしてこの物語の中に参加していたのです。



「あっはっはっ、良い息子じゃないか。人間ってのはチートなんてなくたって幸せに生きていけるんだという素晴らしい結論を導き出したんだ」

 ゼウス様が笑いながら言います。

 チートの女神様はまったく面白くないと言ってしかめっ面で映し出されていたモニターを掻き消しました。

「それじゃこっちは商売上がったりなんですー。何度シュミレートしても最後には『母上、チートは必要ありません』ですって。必要ありません、じゃありません。私には死活問題だっての!」

 他の神様から見れば、天界のカフェテラスで優雅にアフタヌーンティーを楽しむ二人の美男美女ですが、話していることは場末の居酒屋で管を巻く万年中間管理職のサラリーマンみたいな内容です。


「そりゃあね、息子の考えは立派です。それにチートを与えるだけじゃ人間なんて堕落しっぱなしだから、チートを必要としない今の異世界転生方式は素晴らしいですよ。戦争とチートのない世界なんてまさに理想郷じゃないですか」

「だが、それは綺麗事だと君は言いたいんだな」

「チート女神業は死の商人なんて揶揄されたこともあります。チートを与えて喜ばれるんならこっちもやりがいあるけど、無理やり押し付けたところでその能力故に争いの火種を自ら生み出すスタイルを確立していって、最後にはチートを使わなくなるでしょ。そんで『あれ? チートって実は要らなくね?』なんて思われたらもうお手上げ。チートのない世界バンザイって、いやそれをチート使って成し遂げてるっちゅうねん!」

 女神様は両手を天にかざします。

 何も知らない他の神様から見れば天界の陽光を浴びて日光浴を楽しんでいるように見えていますが、実際は神様が天に向かって助けを求めているという前代未聞の行動です。


「無理やり押し付けたところでクーリングオフ制度があるからなぁ。要らないチートは返品されてしまう世知辛い世の中だ」

「クーリングオフされるならまだマシ。そもそも利用者が居ないんだからどーしよーもないってーのーっ!」

 物語もそろそろ終わりに近づいているので体裁を保つ必要がなく、自分のキャラがだんだん壊れていってももうお構いなしです。

 子育てに疲れて荒んだ心を潤すため、ゼウス様は愚痴に付き合わされていました。


「あーあ、このままじゃ本当に女神廃業しちゃう。仕方ないからチートで息子の記憶を消して、もう一度やり直させるか~」

 さすがは女神様、リセマラ感覚で息子の記憶もリセットです。

「やれやれ。これで何度目だい?」

「あら、ゼウス様は今まで使ったチートの数を数えていますか?」



 さて、こうしてチートの女神様はチートを布教させるために、再びチー太郎の記憶を消して他の物語へ旅立たせます。

 女神様自身がチートを必要としている限り、チートの女神業は決して廃業することはありません。

 うーん、チートって便利ですね。



 めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チートでおとぎ話を上書きしまくるチー太郎 いずも @tizumo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ