第4話 蝉時雨
夏とは激しいものでもある。暑さによる大気の不安定さで、嵐も度々起これば、気まぐれに滝のように雨を降らせたりする。だがそれも、秋への下準備のようなものだ。
「今年も、よく働いたものだ」
「まったくでございますよ。もう少し手を抜いても罰も当たりませぬよ」
一の従者の桃夏に労われ、夏の神は伸びをしていた手をゆっくりと下ろした。
「これも従者たちの働きぶりが良いからだろうな」
そう微笑む姿は、どこか絵画から抜け出してきたかのようで、慣れているはずの桃夏でさえ、思わずドキリとしてしまう。新参者はしばらくは仕事にならないのも、この所為でもある。
「罰は当たらないけれど、罪は作ってますね……」
不思議そうに、その呟きを見つめていた夏ではあったが、陽が暮れるにつれて陰影の深まる山を背にゆっくりと歩き始めた。
従者として初めから、そう生まれたものもいれば、後から従者になるものもいる。それは季節という大きな気まぐれとの付き合いである。ただ自分たちに近しいかたちをしているのであれば、そこに情が移るのは仕方がないことなのだろう。
「夜は冷えるようになってきた。秋も今年は早めに近付いてきているようだな。桃夏、寒かろう? もっと寄るとよい」
今だけは、夏の季節を独り占め出来る。たとい、今だけでも。その想いは胸に秘めつつ、桃夏はそっと寄り添い歩くのであった。
夏の夜もまた、どこか寂しく、ヒグラシが夜を告げていった。
四季の神々 玉藻稲荷&土鍋ご飯 @tamamo_donabe
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