第3話 雪解


 季節はぐるりと巡る。


 厳しい冬が終われば、雪解けの春がやってきて、次第に暑く、そしてまた緩衝の秋を挟み冬へと至る。

 だが、季節外れという言葉の通りに、その流れも時たま外れることもある。


「春様は未だお勤めの最中ゆえ、冬様は今しばらくお待ち頂きたく……!」


 別に定められた季節にしか訪れることが出来ない訳ではない。桜が咲いても、雪が降ることもある。それはこういった四季の神々の気まぐれな訪問が理由であったりする。


「そうか……俺はいとまに来ているだけなのだから……その、落ち着いてからでよいのだ」


 そう言いつつも忙しなく座る位置を変えてみたり、立ち上がって座敷から外を見てため息なんぞつくものだから、春の従者たちも落ち着こうはずがない。


「ふー終わった終わった。今日はあそこの山まで終わらせたから、明日はちょっと楽ねー」

「おつかれ」

「ん……あれ冬、あんたまた来てたの? 桜が雪景色で綺麗だ~とは思ってたけど、今年は落ち着かないじゃない?」


 神同士なれど、中々にはっきりとした物言いに春と冬の従者に緊張が走るが、言われた冬は動じない。


「そうだな……。この季節の桜も見物だと思っていたのだが……そろそろ流石に顔を出し過ぎているようだ」


 その返答に空気が緩和する。春は閉じていた窓を開くと、外を見ながら冬へと語りかける。


「まー雪解けの水も多いのは悪いことじゃないでしょ。私もお勤め終わって戻ってきて従者以外の顔を見るのも悪くはないかなって思ってたし」


 もぞもぞと、自身の従者のように尻尾があるかのように座り悪く動く冬。


「あ、あぁ……。長居した……。また……な。春の従者たちも邪魔してすまなかった」


 それだけ告げると雪が解けるように、すっと姿が消えていった。残された従者の冬彦は溜息と尻尾をぱたりと動かすと、深々と頭を下げると、同じように消えていった。




 寒桜、雪の結晶のような花弁の桜が咲くようになったのは、翌年からのことだった。こっそりと見に来た夏も秋も、風流なことだと長く楽しんだそうな。


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