【戯曲】雨が降っている
容原静
一景
雨が降っている。
中原家、大吾の部屋。
本とペットボトルとゴミが散乱している。
やよいが家政婦スタイルで掃除をしている。
仕事終わりの景が帰宅する。
景 まあやよいじゃない。
やよい お姉ちゃん久しぶり。
景 帰宅そうそう掃除なんて貴方も変わっているわね。
やよい 私が変人なんて重々承知でしょ。
景 そりゃあそうだけど。
やよい お兄ちゃんも相変わらず。
景 この家の人はみんな頑固だから。
やよい もういい歳なんだから、いい加減定職もったらいいのにね。
小説家になんてなれるわけないじゃん。何も書いてないのに。
景 大吾くんにも大吾くんの考えがあるのよ。なるようになるわ。
やよい お姉ちゃんはいつもお兄ちゃんの肩をもつね。
景 私が持たなくて誰がもつのよ。
やよい 大体お姉ちゃんがお兄ちゃんを甘やかしすぎなんだよ。
私なんて全然甘やかされなかったからとてもワイルドな女になったというのに。
景 これぐらい何処の家でも同じだわ。
貴方はワイルドすぎ。今度は何処へ行ったの。
やよい 南極。
景 まぁ。またまた凄いところへ。
やよい お土産はペンギンのよだれ。
景 またいらないものを。
やよい ペンギンさんのこと悪くいうな!
景 そういう問題だろうか。
大吾が帰宅する。
大吾 なにしているんすっか。
やよい 掃除。
景 おかえり大吾。
大吾 ただいま姉さん。やよい。
お前俺の部屋掃除するなっていつも言ってるじゃないか。
やよい お兄ちゃん部屋汚すぎるんよ。
こんな部屋片付けない妹は妹認定受けないよ。
大吾 妹認定とかどうでもええから。俺はこれでいいの。邪魔しないでくれ。
やよい 人間は無償の好意に支えられているんだよ。そのこと覚えておいた方がいいよ。
景 はいはいそこまで。帰って早々喧嘩していたら話にならないわ。
やよい お姉ちゃんは本当、私のこと考えてくれないね。
景 なんでそうなるの。喧嘩は嫌じゃない。
やよい 喧嘩してでも話さないといけないことはあるよ。
お姉ちゃんはそこから逃げてる。
景 逃げてないよ。私。
大吾 話するなら俺の部屋以外でしてくれないか。うるさい。
景 大吾。
大吾 なんですか。
景 今日は何処へいってきたの。
大吾 何処でもいいでしょ。
やよい 本屋でしょ。そこ以外何処へ行くっていうのさ。
大吾 はい。そうです。その通り。
景 何買ったの。
大吾 なんでもいいでしょ。
やよい 文芸誌でしょ。
大吾 そうだよ。
景 そうなんだ。
やよい お姉ちゃんはお兄ちゃんのこと好きなくせに何もわかってないね。
新人賞発表の時期じゃない。
景 悪い?
やよい なんか問題あるよ。私でもわかるのに。
お兄ちゃん、どうどう。どうでしょう。
大吾 今からみるんだ。邪魔しないでくれ。
やよい また落ちたんだろうな。どうせ。
景 こら。やよい。悪いこといわない。
やよい、ソーラン節を踊る。
やよい お兄ちゃんを鼓舞する妹の気持ちが何故わからない!
景 馬鹿だわこの子。
やよい こんなままでお兄ちゃんが大成すると思う?
お兄ちゃんは大成せんとあかんよ。大器晩成とか死んでから大成しても意味ないの。
生きている間に幸せになってほしいやん。
どうなん、お姉ちゃんは。
景 いきなり何を話してるの、あなた。
やよい 家が腐る音がするんよ。私はそれが嫌なんよ。
景 匂いって何よ。貴方は何を話しているのか私にはわからない。
やよい 人は皆幸福になる為に生きている。中原家からそのような風潮が消えているってはなし。
景 そんなことないわ。みんな幸せになりたいって願ってる。
やよい ほんとうに? お姉ちゃん、自分の幸せを犠牲にしてお兄ちゃんが生きていることを肯定しようと嘘の生きるを勤めているじゃない。何もそこから発生しないのに。
景 犠牲になんてしてないわ。
やよい お兄ちゃんが何か始めたときお姉ちゃんには何も残らないよ。そのときに後悔してももう遅いんよ。
景 貴方、言葉には気をつけなさい。
やよい 図星なんだね。少し嬉しいよ。私ね、お兄ちゃんの作品は好きだよ。
だからお兄ちゃんは作品を世の中に届ける義務があると思う。
お兄ちゃんはその義務から逃げているから私は怒ってるんだよ。
お姉ちゃんはお姉ちゃんが好きなだけ。
お姉ちゃんがお姉ちゃんでいても何も言わないお兄ちゃんに依存してる。ただそれだけ。
景 勝手に話していなさい。
やよい とにかく今のままじゃダメだよ。
大吾、本を手から落とす。
景 どうしたの大吾。
大吾、ガタガタ震えている。
やよい お姉ちゃん、もしかして。
景、文芸誌を見る。
景 やよい。
やよい はい。
景 大吾の名前がのってる。
暗転
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