【戯曲】雨が降っている

五景

雨が降っている。

大吾の部屋。引越し業者が出入りしている。

大吾は小説を書いている。

景と灯がやってくる。

景　此処にいたのね。

大吾　此処以外に何処に居ればいいというのですか。

景　本、全部持っていくの。

大吾　此れは僕ですから。

景　私、本の匂い好きよ。

大吾　僕もです。

景　色々なことがあったわね。

大吾　産まれてからずっと此処にいましたから。

景　それは大袈裟。

大吾　そのような気持ちです。

景　どうなの、今年の作品は。

大吾　何も期待していませんよ。

景　ほんの少しは期待しているんでしょう。

大吾　間違いない。

やよいがやってくる。

やよい　お疲れ様です。あっ、ねえちゃん。

景　こんにちは。やよい。調子どう。

やよい　良くも悪くもなくかな。少しずつ旅も出来る様になってきたし。こんにちは灯ちゃん。お姉ちゃんは。

景　私も似たようなもんだな。早く終わらないかしらコロナ。

やよい　おわんないんだろうな。

大吾　おい、やよい。

やよい　何よ、にいちゃん。

大吾　忘れたのか。

やよい　一体何を。

大吾　ボケとかいらないから。

やよい　ボケてないよ。

大吾　勿体ぶるな。

やよい　あ、ごめん。えっとね。うんと。

やよい、バッグから大根を取り出す。

やよい　これじゃなくて。

やよい、バッグからツナ缶を取り出す。

やよい　これじゃなくて。

やよい、バッグから文芸誌を取り出す。

やよい　これだ。

景　今日が発表なの？

やよい　二週間前。お兄ちゃん、買うの渋ってたから私が買ってきたの。

景　そのくせに読みたがるんだ。

やよい　お兄ちゃんもツンデレなところあるからな。

大吾　なんかおかしいと思うがどうでもいい。早く渡せ。

やよい　お駄賃頂戴ね。

大吾　俺の方が貧乏人だ。これぐらい奢ってくれ。

やよい　お兄ちゃんのくせに本当に甲斐性なしだ。

景　どうでしょう。今回は。

やよい　どうせ落ちてるって。

景　あっ、名前が。

やよい　ほんと？

大吾　一次は通過。また名前だけだ。

景　あら。残念。

やよい　相変わらずぴりっとしないね。

景　ねぇやよい。

やよい　なに、お姉ちゃん。

景　最後に此処で落選パーティしましょうね。

やよい　それはいい。

大吾　何も良くない。

やよい　こうやって祝ってもらえることに感

謝してもらいなさい。彼女なし歴25年のお兄ちゃんには勿体ない三人だぞ。

景　そうよ。貴方は充分幸せ者よ。

大吾　そんなの知るか。勝手にしろ。

やよい　何作ろうかな。

景　鍋にしましょうよ。鍋に。

景、やよい退場

灯　またね。

大吾　またな。

灯、退場

暗転

幕