二景
二景
雨が降っている。
大吾の部屋。部屋が汚いのはそのままだが、パーティ仕様になっている。
中央に大吾。周りに友人の片桐、景、やよい。
片桐 えー、この度は大吾の6年連続新人賞落選及びはじめての第二次候補を祝して乾杯。
一同 乾杯。
景 おめでとう大吾。
大吾 何がおめでとうだ。
やよい 恥を受け止めて尚書き続けるかで作家か否かの道が開けるよ。頑張ってお兄ちゃん。
片桐 えー、大吾という作家はなかなか大した才能を持っていると一同把握しておりますが、唯一の欠点というのがとにかく描かないというところにありまして、これではどのような大作家も読者はお手上げというさまでございます。
この点から言いますと六年間作品を投稿し続けた大吾くんの努力は目まぐるしく、拍手をもって感激したしましょう。
一同拍手
大吾 あなた方は一体何を祝っているんだ。毎年落選するたびにこれでは身が持たん。
やよい でもお兄ちゃん嬉しそう。
片桐 こいつがみんなから注目を浴びるのはこの瞬間しかないからな。
やよい お兄ちゃん、悲しい子。
片桐 案外かまってちゃんだからな。
大吾 好き勝手いいやがって。俺も落ちたくて落ちているんじゃない。
通っていれば今頃作家としての道は開いていた。またお先真っ暗だ。どうしたらいい? 才能がないのなんてわかってる。それでも俺は諦め切れないんだ。
景 大吾。
やよい 才能はあるよ、お兄ちゃん。才能を活かす才能がないだけだよ。
片桐 これは手痛い指摘。
大吾 お前らに何がわかる? 俺は俺の作品を愛しているんだ。作品を傷つけたくない。
やよい 愛しているなら、愛されるように、馬鹿にされないように頑張ったらどう? 逃げないでよ。
景 やよい。大吾は充分頑張ってるわよ。
やよい 頑張っていて報われるなら、みんな報われているよ。私はお兄ちゃんなんてどうでもいいよ。
大吾 ひどいな。
やよい そりぁそうでしょ。お父さんの仕事を手伝うわけでもなく、かといってやりたいことがあるわけでもなく、怠惰に気が向くまま好きとお茶を濁して小説を書くふりをし続けている。そんな兄さんを好きになるやつなんてデカダンだ。
片桐 俺は好きだよ。大吾。
景 貴方は充分デカダンですわね。
片桐 お姉さまもですか?
やよい そうだよ。お兄ちゃんより作品の方がこの世界には有意義だよ。作家は作品のために死ね、だよ。死ねないなら、作家じゃなくて一般大衆だよ?
大吾 俺は作家だ。作家になりたい。
やよい だから努力しなさいよ。
大吾 俺は、俺は。
大吾、ぶつぶつ呟きながら退場する。
片桐 ははは。本当にこいつは面白い。
やよい いったい何処がですか。
景 やよい。言い過ぎよ。
やよい お姉ちゃん。お兄ちゃんを甘やかすのはやめて。このままじゃ本当に破滅するわよ。昔の文豪でも成し遂げられなかった自室の本に圧迫されて衰弱死も夢じゃないわ。
景 あの子は傷ついてきたのよ。もうこれ以上傷つかなくてもいい。
やよい みんな傷ついてきて、今も傷ついてる。別にお兄ちゃんがどう思おうがお兄ちゃんの勝手よ。
でも、作品は書かれなければ死んじゃうの。このまま死んじゃうなんてあんまりだ。あんまりだ。
片桐 あいつの作品の何処がいいんだい? 新人賞に何度も落選しながら、それに縋り付いて駄作を何度も書き続けるあいつの作品の何処が。
やよい 死にたくないと叫んでる。
景 死にたくない?
やよい 私は生きたい。死にたくないって叫んでる。生命の叫び。
片桐 作品の声だと。
やよい そうよ。なによ。どうしてわらう?
片桐 君もなかなか文学的だね。
やよい 悪いか? 私は諦めないよ。私が諦めなくても変わらないけれど。
片桐 みなさん変わってますね。本当に面白い一家だ。
やよい 片桐さんも私たちの家の敷居を跨ぐのはご自由ですけれどご自身の家庭も大切になされればどうです?
景 こら。やよい。
やよい お姉ちゃん。恋人は選ぶべきだよ。
景 私の自由よ。
やよい 不倫なんて穢らわしい。
片桐 君は子供だね。やよいちゃん。
やよい もう勝手にしてください。
やよい、退場
景 やよい!
片桐 まあまあ景さん。あんな直情的な子は頭が冷えるまでほったらかすのが一番です。
景 でも。
片桐 貴方はやさしい。
景 別に優しくなんてないわ。
片桐 やさしいですよ。
片桐、景を自分の胸元に引き寄せる。
景 あっ。
片桐 貴方は優しい。慈母の塊だ。
景 そんな。だめ。
片桐 溺れましょう。悲しいときは何もかも忘れて。
暗転
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