三景

三景


雨が降っている。


大吾の部屋。相変わらず汚い。


やよいが寝ている。


大吾がやってくる。



大吾 俺の部屋だぞ。


やよい お兄ちゃん。


大吾 なんだ。


やよい 私、もう限界。


大吾 俺の方が限界だ。


やよい 私から旅行をなくしたら何が残るっていうのよ。


大吾 さあな。


やよい もっと心配してよ。


大吾 案外元気ではないか。


やよい うるさいわね。


大吾 元気があればなんとかなるさ。


やよい お兄ちゃんには元気がないもんね。


大吾 せっかく心配してやったというのになんていうやつだ。


やよい お兄ちゃんが可哀想なやつなのが問題なのよ。


大吾 好きにしろ。


やよい してます。お兄ちゃんはこれからどうするつもりなの。


大吾 俺は俺だ。俺の生きたいように生きる。


やよい それであんまりうまく行ってないようだけど。


大吾 うまく行くとか行かないとかどうでもいい。


やよい 後悔すると思うよ。それ。


大吾 お前は後悔していないのか。


やよい 私が? まさか。


大吾 お前だってもっと色々な道があったなか、旅し続けることを選んできた。そのことで得ることもあれば失ったものもあるだろ。どうなんだ。お前は。


やよい どうなんだろうね。考えたこともなかった。


大吾 俺たちはいわば反対のことをしているではないか。お前が後悔していないなら、俺もまた後悔していないこととなる。


やよい それはなんか色々おかしい。


大吾 俺も自分で話しながらそう思った。


やよい うん。私はどうでもいいと思ってる。


大吾 どうでもいいのか。


やよい 後悔なんてしたりしなかったり色々だから。別にそういうことを含めた人生だから。色々なことがあった先に感じる心を大切にしたいの。


大吾 なるほどな。


やよい お兄ちゃんはどうなのよ。うじうじとくだらないこと考え続けながら今どう思ってるのよ。


大吾 俺はダサい男だから、ダサくてもそれでも生き続けていくんだろうな。


やよい それ、何も話せてないよ。


大吾 それが俺みたいだ。


やよい 作家なのに、言葉が貧困だね。


大吾 悲しいことにな。



片桐と景がやってくる。


片桐 みなさんご機嫌よう。


景 やよい体調はいかが。


大吾 ここは僕の部屋ですよ。敷居を跨ぐ許可はしておりません。


片桐 冷たいね大吾くん。


大吾 名前を呼ばないでください。


片桐 これは嫌われたもんだ。


やよい お姉ちゃん、何か言ったらどう。


景 私は何もいうことはないわ。


やよい 何をしにきたの。私たちは用もないし、会いたくもないよ。早く出ていって。


片桐 君たちは冷たいね。僕たちは君たち二人のことが心配なんだよ。


やよい 貴方たちに心配されたくありません。私たちは勝手に生きていきます。これからも。これまでも。


片桐 そうか。そうか。ではお好きにどうぞ。馬鹿な二人はお馬鹿に生きてください。


やよい お姉ちゃん、私言ったよ。男は選ぶべきだって。後悔しても遅いんだからね。


景 また来るわね。やよい。大吾。



片桐、景退場



やよい お姉ちゃん、ほんと。


大吾 あいつは本当に愚かだ。男癖が悪い。なんだ。その視線は。


やよい なんでしょうね。


大吾 お父様の体調も悪いし、国も傾いているし、世界は疫病で疲弊しているし嫌な世の中だ。


やよい 明るいこと何かないのかな。


大吾 ないな。


やよい お兄ちゃんは陰キャ代表だもんね。


大吾 うるさい。


やよい きっといつか明るくなるよ。お兄ちゃんの作品だってきっといつか。


大吾 ふん。そうだといいが。


暗転

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