エピローグ


「早くしないと遅刻するわよー」

「ああ、わかってる」


 今日は、さーくんの初めての仕事の日。

 大学を出て、彼は私立学校の教員となった。

 

 同じ大学に進学できた私たちは、同じ部屋で四年間を過ごした。

 その間はもちろんみいも連れて行って。

 三人で毎日、楽しい時間だった。


 ずっとさーくんと一緒だったことと、休日は隣の県に進学した麻衣と遊んでばっかりで大学では高校時代と打って変わって友人はあまりできなかったけど。


 逆にさーくんは結構友人ができて。

 飲み会とかにも行くようになって。

 酔って帰ってくる彼を待つのも、なんか新婚さんみたいで新鮮で。

 それに彼の方から「女の子がいる飲み会は行かない」とか。

 心配をかけないように、そう話してくれるのが嬉しかったっけ。 

 私が束縛してるみたいでちょっとだけ複雑だったけど。

 彼が私のことを考えてくれてることが嬉しくてつい、「私以外の子とは飲みに行ったらダメ」とか。

 恥ずかしいこと言っちゃったりしたなあ。


 それに彼は私と高校時代に約束した通り、懸命なリハビリも続けていた。


 四年間の努力の結果、最後の年にようやく走れるようになって。


 部活には入ってなかったけど、個人で登録した試合で走って。

 無名の選手が百メートルを10秒台で駆け抜けて、周囲が驚いていた。

 その時のことは一生忘れない。

 彼が駆け抜けるその姿を見て、観客席で親と一緒に泣いたのが、ほんと昨日のことのようだ。


 それでも彼の陸上選手としての活動はここまで。

 その後、トレーニングなどの勉強を続けた彼は、その知識を子供たちの教育に生かしたいからと教員免許を取得した。


 そして無事採用されてからの今日。

 背広姿が少し板についていない。


「ほんと、さーくんが社会人だなんておかしいね」

「いやいや、いつかはみんな働かないとダメなんだし」

「そだね。しっかり稼いできてくれないとね」


 ほんと、あっという間の学生生活だったなあ。


 さーくんと、麻衣と、谷口君も一緒にいった初詣は恒例行事となったし、大学生の時は麻衣と二人で沖縄に行ったのもいい思い出だ。


 ちなみに麻衣は、大学時代もバリバリ勉強を続けて外資系企業に内定をもらって、研修が終わるこの夏から海外勤務になるんだとか。

 谷口君はどうするのかと思ってたけど、それを見越して向こうでの就職を探してるとか。

 なんだかんだ一緒にいる気はあるみたいでよかったよかった。


「結奈。なんかあったらすぐ電話しろよ。職場でも電話くらいみれるから」

「もー、心配性なんだから。大丈夫だよ、私は」


 あの頃と、何も変わらない毎日だったけど。

 少し残念な話も、聞いたりはした。


 飯島君って、昔同級生だった人の話。

 最近、麻衣から聞いた話によると彼は亡くなったらしい。

 事件を頻繁に起こして刑務所を出たり入ったり繰り返していた彼は、薬に手を出して路上で倒れていたところを見つけられたとか。

 もちろん噂だけど、同級生の何人かが同じことを言っていたそうだ。


 あの時の事は今でも思い出したくないけど。

 誰かが不幸になる話はやはりどんな人であっても訊きたくはない。


 ただ、そうやって自分の知らないところで、様々なことが日々変化し続けてるということなのだろう。


 気が付けば歳をとって。

 学生時代のことなんて思い出すことも難しくなって。

 今付き合ってる友人とも疎遠になっていって。

 だんだんそうやって、誰もが大人になっていくんだろうなって、実感はする。


 もちろん、私たちも。

 でも、変わらずに傍にいてくれる人もいるし。

 新しい出会いだって。


「今日は帰りに肉買ってくるからいっぱい食べような」

「そんなに食べさせてばっかだと私太っちゃうよ」

「だって、今のうちにしっかり栄養とっとかないと」

「あはは、そだね。赤ちゃんの分と二人分だから大変ね私も」


 秋には、赤ちゃんが生まれる予定。

 え、ちょっと早くないかって? まあ、大学生の最後の方で二人で行った北海道旅行の時に……かな。


 まあ、許嫁だし。彼の就職も決まってたし親も笑ってたっけ。

 さーくんは報告する時終始照れてたけど。

 私は嬉しかったなあ。


 早く赤ちゃんの顔が見たいな。


「じゃあ、行ってくるよ」


 こうして私たちの為に働いてくれるさーくん。

 そんな彼をこうやって支えていけるのが、今はとても幸せ。


「みい」

「あ、みいもお見送りに来てくれたよ」

「あはは、行ってきますみい」

「みい」


 私たちの恋のキューピット。

 私たちの家族。みい。


 すっかり大きくなった彼女を抱っこして。

 一緒に手を振って。


 玄関を開ける旦那様を見送る。



「いってらっしゃい、あなた」



 

 fin



あとがき


 皆さま、ここまで二人の物語を応援いただきありがとうございました。  


 デレないヒロインが雪解けしていく様子を、どうやって表現したらいいのかということや、主人公とヒロインの互いのすれ違いが、もつれが、どう解消されるのかという点において本当に頭を悩ませました。  


 とても多くのコメントを毎話ごとにいただいて、貴重なご意見をいただくとともに読まれる方の受け取り方というものも大変参考になりました。


 今回はコミカルよりも暗い場面が多かった作品ですが、きちんと幸せに向かっていく彼らの青春の一ページをお届けできたのではないかと、個人的には思っています。


 このお話はここまでとなりますが、悟と結奈の、そして加藤や谷口のこれからは続いていきますので、彼らに明るい未来が待っていることを祈ってあげてください。


 最後になりますが、ここまで応援をいただきました皆様、読んでいただきました方々の全てに改めて感謝申し上げます。


 本当にありがとうございました。


 これからも明石龍之介の作品は続きますので、応援いただけると幸いです。

 

 よろしくお願いいたします。

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隣の席のクーデレな幼馴染は、絶対に俺にデレることはない 明石龍之介 @daikibarbara1988

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