第10話 吹き荒れるコロナウイルス
中国で発見された新型コロナウイルスは、初めは武漢、やがてすぐに中国全土に広まった。数か月も経つと、アメリカ、ヨーロッパ、そして日本でも、じわじわと感染者を増やしていった。ロックダウンされた都市の様子などは日本でも連日報道され、死者の埋葬が間に合わない場所では次々と土葬がされていった。
そのうち自分の周りでも、新規感染者がそこの高速道路の検問所で出たとか、あっちのショッピングモールで出たみたいな話を、ほとんど毎日聞くようになった。やがて全国の学校が休校になり、ついで緊急事態宣言まで出てしまった。会社ではテレワークの話も出ててんやわんやになり、特に子供がいる従業員は家での過ごし方にも困っているようだった。
打ち合わせで部屋に集まれば「これって密じゃないの」と誰かが言い、みんなが触るドアノブがあれば無言で消毒をし、マスクやアルコールが配られたかと思えばたちまち品切れになり、夏になっても一向にマスクを外せる見通しはなく、夜の明かりは寂しく繁華街はゴーストタウンと化し、電車に乗れば軽く咳き込むことすら躊躇われ、いよいよ明日は我が身なのではという不安を日々感じながら過ごした。
人流も物流も制限された世界では、例えばインドネシアからの部品が来ないという情報をマレーシアの工場経由で聞き、関係者がマレーシアに行こうとすれば中継地点のシンガポールで足止めされてしまい、代わりに中国から部品を買おうとすれば香港と深セン間の移動ができず、遠く日本からは結局メールで進捗を聞き続けるしかない、といったことも平気で起きた。
三密回避を徹底しようと思えば、婚活など当然していられない。というかもはや、婚活のことを考えている場合でもなくなった。自社の業務が止まって売り上げが入らず、財務諸表は真っ赤になり関連会社の株価も軒並み暴落し、ボーナスはおろか給料も払えるか見通しが立たないと言われ、転職を考え始めた頃にはすっかり求人も減ってしまい、とりあえず働ける間は働こうと考えるしかなかった。けれども頭の片隅では、経済力を見られる独身男性が稼げなくなったら、まず間違いなく婚活にも悪影響が出るだろうという予想もあって、そう考え始めると気が気でなくなってしまった。
テレワークで人がまばらになった自部署のフロアで、何週間か遅れで入ってきた部品を机に広げると、周りが静かになっていることがよく分かった。自分はメーカー勤務なせいか、中国から部品が入ってくることなどもよくあった。机にある部品を手に取って、「これ、ウイルス付いてないよね」なんて話を同僚にしたら、苦笑いをされてしまった。ただ実際のところ、海外からの部品よりも、日本で人と話している方が危険なのかもしれなかった。
ある時にふと思い出して、コロナ前に買っていた高配当株のETFを見たら大暴落していた。なんでも、今まで高配当を出していたのに急に無配当になった会社がかなり出たようで、投げ売りされたまま放置されているらしい。あわよくば配当金生活なんて考えたのがいけないと思った。大きく元本割れしたETFは泣く泣く売り払った。
なんとなく婚活の目標に使っていた東京オリンピックも、結局1年延期された。緊急事態宣言の合間を縫って外食くらいはしたものの、GWに合わせるように感染第1波が、次いでお盆休みに第2波が、そして正月休みには第3波が襲ったため、遠出の旅行などは結局やめてしまった。そして、第3波が落ち着いて生活も何とかなりそうだと分かった頃には、2021年の春になっていた(ちなみに、損切りした高配当株ETFはコロナ前の価格まで戻っていた)。
<つづく>
婚活が捗らないけど割と楽しんでる件 サンセット @Sunset_Yuhi
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