4 点火

 ──冷たい鋼が自分の心臓を貫く前に、彼は敗北を悟っていた。


 世界が横倒しになっている。横倒しになって歪んだ視界の中で、何もかもが赤く黒く染まっていた。炎の中で燃えて崩れていくのは、自分の領土、自分の城、自分の兵たち。

 遠くから叛徒たちの怒号と兵たちの悲鳴が聞こえる。あれではそう保たないだろう。

(悪王を殺せ!)

(今日が圧政者の最後の日だ!)

 だが、彼はもうそれらに注意を払わなかった。今や彼が見ているのは、自分を見下している一組の男女──怒りでも嘲りでもなく、悲しげな目で倒れ伏す彼を見下している青年と少女だった。

(お別れです、王よ)

 逞しい青年が口を開いた。周りの怒号を物ともしない静かな口調で。(なぜです、王よ? あなたほど賢い方が、なぜこのような無体な悪政を……?)

 お前たちに勝つためだ。声は出なかったが、彼はそう心の中で呟いた。どれほどの犠牲を払ってでも、お前たちに勝ちたかったからだ……。

(私たちの勝ちよ。そしてあなたの負け)傍らの少女が冷ややかに言った。(あなたを殺すために、私たちはあらゆる手を使わなければならなかった。でも、勝ちは勝ちに違いない)

 それは私も同じだ──彼はそう答えようとした。勝つためならどんな汚い手でも平然と使い、それを恥とさえ思わなくなった。

 後悔などない。自分が正気で、目を見開いたまま積み重ねてきた選択の結果だ。だが、負けた。届かなかった。知恵と胆力の限りを尽くしてなお。結果として、今こうして死にかけている。

(さようなら。地獄へ行きなさい──ここよりはましでしょう。あなたは確かに強かった。でも、それだけの人だった)

 彼と彼女が遠ざかっていく。もう痙攣さえできなくなった自分を置き去りにして。

 勝負はまだついていない、そう叫ぼうとした。しかし、もう指一本動かないのだ。叫ぶどころか、弱々しい呻き声一つ発せなかった。

 彼と彼女が遠ざかっていく。炎と屍の山と、死にかけている彼を置き去りにして。


 彼と彼女に勝ちたかった。

 せめて勝ってから死にたかった。


「……どうやら、魂までは死んでいないようだな」

 声に彼は目を見開いた。目の前に立っているのはみすぼらしい老人だった。頭皮にかろうじてへばりつくような白髪、骨に貼り付けたような手足。革のように強張り皺だらけの顔の中で、そこだけは異様なほど生気に満ちたアイスブルーの瞳がぎらぎらと輝いている。

「お前は……誰だ?」彼は思わず声を発し、そして自分が声を発せることに驚いた。聞く前からわかっているようなものだった──老人は彼自身だった。今よりずっと歳を取り、遥かにみすぼらしくなった彼自身だった。そして、何一つ諦めていない彼自身だった。

「私は君だ」彼と同じ顔をした老人は、皺だらけの手をこちらに差し出した。「迎えに来た。さあ、

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Crime and Punishment:Interlude アイダカズキ @Shadowontheida

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