第45話 『緊張』

パイソンは徐々に緊張してきた。

自動燃料補給ロケットとの接続ドッキングまで、あと数分後に迫ってきたからだ。

訓練では一度しか試した事がないため、このレース本番でしっかりと成功させることが出来るだろうか。

パイソンはロケットボートの計器を最終確認し、異常の有無をチェックする。


接続機器ドッキングシステムオーケー、機体制御装置オーケー。よし、とりあえず大丈夫そうだ」


確認が終わると、パイソンは逆噴射エンジンを起動させ、ロケットボートの速度を落とす。

自動燃料補給ロケットとの接続ドッキングを円滑に進めるため、わざと速度を落としたのだ。


「よし、とりあえずこのくらいか」


パイソンは呟く。

自動燃料補給ロケットは、一度ロケットボートを追い越し、Uターンをして後方から接近してくるはずだ。そのタイミングで、ロケットボートの速度や、機体制御などの細かな微調整が必要になってくるだろう。

パイソンがレーダーに目をやると、自動燃料補給ロケットらしき反応があった。


「今のところ、予定通りだ。このままで問題は無さそうだ。後は接続ドッキングだけだな」


その時、司令官から無線が入る。


「パイソン、機体の状態はどんな感じだ?」


「ああ。問題無しだ。しっかりと調整も出来ている」


「了解した。自動燃料補給ロケットの誘導コンピューターも正常だ。そろそろ旋回をし、そちらに向かうはずだ」


パイソンはひとつ大きく息を吐く。

いよいよこのレース最大の難関が、徐々に迫ってきた。必ず成功させなければならない。


「オーケー。いつでも来いって感じだ」


パイソンは司令官に力強く答える。


「最接近は恐らく10分後だ。自動燃料補給ロケットのコンピューターで、ロケットボートとの相対速度を計算し、スムーズに接続ドッキング出来るようプログラミングしてあるが、数センチ単位での調整は手動で行わなければいけない。飛行しながらの接続ドッキングだ。1センチずれるだけで、命取りになる。これは我々からの最後のお願いだ。調整が上手くいかず、接続ドッキングが困難になった場合、無理に強行するのだけは絶対にしないでほしい。その際は、ガニメデにピットインするんだ」


「ああ。妻とも約束したんだ。生きて帰るってな」


「頼むぞ。接続ドッキング予定まで、あと8分47秒だ」


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チェイス・ザ・ギャラクシー 岸亜里沙 @kishiarisa

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