第44話 『天才』

ギャラクシーファクトリーの本社で、テレビ中継を見ていたパイロット養成所の者たちが、こぞって記録を取り始めた。

MWコーポレーションが使用した自動燃料補給ロケットについて、各々が意見や考察をまとめているようだ。

しかしただ一人、ジャック・ローズだけは腕を組んだまま微動だにせず、画面を見つめている。

「ねえ、あんたはMWコーポレーションの作戦、どう思うのさ?」

ジャックの隣のソファに座っていたキャロラインが、ジャックに話しかけてきた。

「別に良いんじゃないっすか?俺は興味ないっすけど」

ジャックは素っ気ない。

だがジャックの性格を知っているキャロラインは、特別気にすることもなく話を続ける。

「画期的だと思わないの?ギャラクシーファクトリーうちもこの作戦は、考える価値有りよ」

「確かに自動燃料補給とか、今までに無い作戦っすけど、オーソドックスな作戦にはならない気がするんでね」

「どうして?」

「木星の引力圏において、燃料補給のロケットを捕獲しようとした場合、ロケットボートの姿勢制御をするために無駄な微調整や、余計な燃料を使う羽目になるんで、ロケットボートにも多少の付加がかかりそうっすね。火星付近でやる分には良い気はするっすけど。MWコーポレーションの判断は遅いっすね。小惑星帯を抜けた時点でロケットを捕獲した方が絶対効率的っす。まあ、結果を見てみなきゃ、分からないっすけど」

キャロラインは感心した。

ジャックは天才的な操縦技術を擁しているが、それ以外の知識も持ち合わせているようだ。

自分も負けてはいられないと、キャロラインは内なる闘志に火をつける。

「なるほどね。あんたの言ってることは、一理あるわ。じゃあ、ガニメデへのピットインをしないような作戦は、他に何かあると思う?」

キャロラインが質問すると、ジャックは頭を掻きながら面倒くさそうに答える。

「無いっすよ。ロケットボートが改良されて、スペシャルなエンジンが搭載されるとかなけりゃね。あと、ピットインしなけりゃ勝てるって話じゃないっすから。マラソンで、水分補給を省けば勝てるみたいな理屈は無いっすよね?それと同じで、ガニメデではピットインをしてメンテナンスをやるべきっす」

「じゃあさ、燃料補給とメンテナンスが同時に出来るロケットとか作ればいいんじゃない?そうすれば前部飛行しながら、済ませられるんじゃないかしら?」

「はいはい、そうっすね」

ジャックはなかば強引にキャロラインとの会話を終わらせると、ソファーに深く腰かけるように座り直した。


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